「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。

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 現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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バディ交渉術!

 かける電話の本数は多くなったものの、それだけでは督促の成績はなかなか伸びない。

 入社当時に比べればなんとかマシにはなってきたものの、やっぱり私はお客さまに強く督促をすることが苦手だった。いきなり怒鳴りつけてくるお客さまや、私が女だからと本気で交渉をしてくれないお客さまもいる。回収数字はすぐに頭打ちになった。

(はぁ、やっぱ私みたいな弱そうな女からの電話だと、なめられちゃうのかな〜)

 落ち込んでどんよりと仕事をしている私の目の前に、二人の男性の先輩が座っていた。入社6年目のH野さんとI村さんだった。

 二人は同期で同い年だけど、外見も中身も正反対だった。H野さんは一児のパパで、柔らかな雰囲気の優しい先輩。督促でも穏やかながら論理的な交渉で相手を説得し、入金してもらうのを得意としていた。

 一方I村さんは昔やんちゃしてたことのある、ちょっと派手目な外見の先輩。督促もどちらかというと強めに出るタイプだった。

お客さまトレード

「H野、このお客さま、お前向きだから頼むよ」

「了解。じゃあI村君、このお客さまにちょっとガツンとお願いしていい?」

(……ん?)

 ふと顔を上げると、目の前の先輩たちがこんなやり取りをしつつ、お客さまの情報をトレードしていた。


©iStock.com

 そのままこっそりとのぞき見ていると、H野さんは自分の担当しているお客さまの中で、どんなに筋道を立てて話しても入金してくれないお客さまをI村さんに渡し、I村さんは話しているうちに感情的になりつい口論になってしまうお客さまをH野さんに渡していた。

「このお客さまもI村君向きだから、あげるよ」

「H野〜、俺、このお客さまにちょっと強く言いすぎちゃった。フォローしてくれる?」

 二人は自分では回収できないと判断したお客さまを、自分とは違うスタイルで督促を行っている相手に渡して、お互いに手法を変えて督促を行っていたのだった。

 I村さんが持っていたお客さまをH野さんが回収すれば、当然回収をしたH野さんの成績になる。でもI村さんからしてみれば、苦手なタイプのお客さまに割く時間をそれ以外の督促に充てることができるし、お互い得意なタイプのお客さまをトレードすれば二人で回収成績を伸ばしていける。お互いの強みと弱点を把握して協力しながら次々と延滞を解消している二人を見て私は衝撃を受けた。

「そっか〜、督促って一人じゃできないんだなぁ」

 私は今まで抱え込んでいたお客さまの督促表を並べた。

(この人はダメ、この人はもうちょっと試してみよう……)

 そしてどうしても入金してくれないお客さまは、別の男性社員に督促してもらえるよう頭を下げに行った。すると男性が電話しただけで、そのお客さまはすんなりと支払いをしたのだ。しかも私と話す時は終始上から目線だったのに、男性と話す時はなんだかおとなしい話し方になっている。

(なっ……! 男性が電話しただけでコレ!?)

悔しさと意地を捨てる

 お客さまの、男女であからさまに違う態度はなんだかとっても悔しい。でももしあのまま私が意地を張ってお客さまを抱え込んでいたら、最後まで回収できずに長期督促を行う部署へと債権が移ってしまっていたかもしれない。そうなったら私の個人成績だけじゃなく、会社としても損失になってしまうし、お客さまの信用情報にもキズがつく。

 自分が成績を上げたいからと苦手なお客さまを抱え込んでいても、いいことなんてない、と私は悟った。それからは、自分では難しいと判断したお客さまは強く言える男性社員にお願いし、逆に私は男性だと家族が警戒して電話を取り次いでくれない女性のお客さまを引き受けることにした。

 お返しにという気持ちで始めた女性への督促だったけど、今までどんな男性が電話をかけても話すことができなかったお客さまでも、私が電話をするとつながるようになり、いつもよりも早く回収できる債権が現れた。

 人には長所短所が必ずある。もしどうしても自分で回収できないのなら、プライドをしまって他人に頼めばいい。誰だってできないことがあるし、それを自覚することも一つの成長なのかもしれない。

お客さまタイプ別攻略法

 そういえば、お金を払ってくれないお客さまにもタイプがある。それに気づいた私は入金をしてくれないお客さまを4つのパターンに分けてみた。毎日が泣きたくなるような交渉の中で、お客さまを血液型別性格診断のように分類し、楽しむのは、ちょっと面白い。「お! このお客さまは××タイプかも!」とばっちり当てはまると交渉がちょっと楽しくなった。

 ちなみにその分類方法は、感情と論理、プラスとマイナスでお客さまをパターン化するもの。

 感情(+)は怒るお客さま、怒鳴ったり脅迫してきたりする人たち。

 感情(−)は泣くお客さま、女性に多い。

 論理(+)は、理詰めで攻撃をしてくるお客さま、いわゆるクレーマーと呼ばれるタイプ。

 論理(−)は、理屈が通じないお客さま。ひらきなおるタイプだ。

 そしてお客さま別に対処方法を考える。

 感情タイプはまずガス抜き。怒っているお客さまはひたすら怒ってもらうし、泣いてしまうお客さまは相手が泣きやむのを待つ。以前、クレーム専門のコールセンターで働く人にクレーム対策のコツとしてこんなことを教えてもらったことがある。

「怒っているお客さまに時間を与えるとさらに怒りが増します。オペレーターには電話を保留にさせるのではなく折り返しにさせます。保留中にもっと怒り出しますからね。怒っているお客さまは溜めずに発散させることが大切です」

 感情タイプのお客さまは感情を発散させてから、落ちついたところで入金の目途を聞くと上手くいくようだ。

お金があっても払わない「論理タイプ」

 論理タイプのお客さまは、お金を持っているが支払いを拒否する人が多い。

 以前、私は借金をして延滞をしたけれど支払いをかたくなに拒否していたという男性に「なぜお金を持ってるのに払わないんですか?」とインタビューしたことがあった。

「嫌いな人にはお金払いたくないじゃないですか、借りたお金を返せって気持ちがある人にはお金払いたくないんですよね。熱心だと感じる人にはお金を払いますよ。でもしつこい人はダメです、上から言ってくる人には絶対に払いません」

 その男性は、お金はあるけどお客さまが支払いを拒む理由を二つ教えてくれた。一つは「会社や社員が気に入らない」。そしてもう一つは「買ったものが気に入らない」という理由なんだそうだ。

 営業に押し切られて必要じゃないのに買ってしまった商品や、自分が「ムダなんじゃないか」と思っている商品を買ってしまったお客さまは、支払いをしないことで自分を正当化しているのだそうだ。

 だから論理タイプのお客さまから回収をするには、決して上から督促しないこと。相手のプライドを満たすことが攻略の鍵になる。

 タイプ別の分析をしてお客さまを見渡すと、今まで、絶対無理! と思っていたお客さまでも、対応の仕方がわかるようになってきた。そして、論理タイプのお客さまのプライドを満たすことなら、男性よりも女性のほうがうまいかもしれない。

督促女子のお客さま研究会

「そういえば私、この前、タコ部屋のお客さまから回収しちゃった!」

 女子力の高い白いふわふわとしたニットと手に持ったビールのコントラストがまぶしい同期のA子ちゃんは、朗らかな顔でとんでもない単語を口に出した。

「タコ部屋!?」

 私はビールを吹きそうになる。職場で絶滅危惧種に指定されるほど数が少ない「女子社員」だった私とA子ちゃんとは、よく二人で飲みに行った。仕事の後、冷たいビールを飲みながら女友達と仕事や恋愛の話をするのは唯一の楽しい時間だ。

 督促をしていると、たまに人里離れた工事現場に「長期出張」しているお客さまに出会う。あまり詳しく突っ込んで聞けないのだけど、どうやら世間の違法な貸金業者からお金を借りるとこういった職場を斡旋されるらしい。

 人里離れた山奥の工事現場で一日中肉体労働をし、プレハブ小屋で共同生活をおくる。お給料は日払いだけど、借金している分をあらかじめ引かれるため手元に残るのは煙草代くらいなんだという。あくまで噂だけど。

 そういう場所にいるお客さまにはそもそも電話がつながらないし、督促状も届かない。だから連絡がつくことすらレアだけど、そういった状態のお客さまに入金してもらうのは輪をかけて難しいのである。

「今、山奥にいてさぁ、入金する手段なんてないんだよね」

 A子ちゃんが電話をかけた50代の男性は電話口でそう言ったそうだ。ずっと通話停止状態だった携帯電話がやっとつながったと思ったら、いきなりの支払困難。

「うちのカードはコンビニでも入金ができますが、コンビニもお近くにはないですか?」

 入金する手段がないと言いつつ、実はお金がないんじゃないんだろうか? なんてちょっぴり意地悪な詮索をしつつA子ちゃんは会話を進めた。

「んー、2時間くらい歩けばないことはないんだけど、俺、今、山の中の工事現場にいてさ」

(あれ? それって……)

 そうして聞き出した結果、A子ちゃんはどうやらお客さまが噂のタコ部屋送りになっていることに気がついたそうだ。

「……いやぁ支払いできなくて悪いね、俺ホントにダメでさぁ」

 そう言うお客さまの声にはあきらかに疲れが滲んでいる。A子ちゃんはすかさずたたみかけた。

「そんなことないですよ! お客さまはちゃんと電話に出てくださるじゃないですか! ダメじゃありませんよ!!」

女子力は不可能を可能にする

 A子ちゃんの優しい声音に、お客さまは声を詰まらせた。

「なんか、若い女の子にそんなこと言われたの、久しぶりだな。……いくらだっけ、今度麓のコンビニに行ったらちゃんと入金するよ」

 その後数日して、お客さまから数千円の振り込みがあった。ずっと連絡も取れず入金もなかったお客さま、A子ちゃんの女子力はそれすら動かしたのだった。

(さすがデキる女は違うな〜)

 督促していて女性というのは不利になることも多いけど、A子ちゃんはちゃんとそれを武器にしていたのだった。

年間回収額2000億円…“花形”の督促部署で遭遇したモンスター債務者たちのトンデモクレーム へ続く

(榎本 まみ/文春文庫)