2020年11月に発表された新型ノートの価格は202万9500円〜218万6800円。対する2020年2月に発売したヤリスの価格は139万5000円〜249万3000円(写真:日産自動車/トヨタ自動車)

2020年は、コンパクトカーの勢力図にも大きな変革が起きた。トヨタが2月に発売した「ヤリス」が大ヒットを記録し、同カテゴリーで2017年から3年連続で車種別新車販売台数1位だった日産自動車「ノート」の牙城を崩したのだ。

だが、日産自動車もだまってはいない。11月24日にノートをフルモデルチェンジし、3代目となる新型を12月23日(予定)に発売することを発表したのだ。

新型ノート対ヤリス。近年、軽自動車とともに人気が高まっていることで、販売競争も熾烈化しているコンパクトカー・カテゴリーの中で、次の主役となるのはいったいどちらのモデルなのか。それぞれの特徴や違い、優位性などを検証してみた。

パワートレーンを比較

新型ノートで注目されているのが、新しくなったハイブリッドシステム「e-POWER」の採用だ。先代はガソリン車も選べたが、3代目はコンパクトSUVの「キックス」同様、ハイブリッド車のみの設定となった。


新型ノートは、ガソリン車を廃止し、すべてハイブリッド車「e-POWER」とした(写真:日産自動車)

日産独自のシステムであるe-POWERは、ガソリンエンジンで発電し、駆動用モーターで走行するシリーズハイブリッドと呼ばれる方式だ。2016年に先代ノート(2代目)に初採用されて以来、搭載モデルが大きな人気を博し、ノートの販売台数に大きく貢献している。

新型ノートに搭載されるe-POWERは、改良型の第2世代だ。ハイブリッドシステムの中心となるモーターやインバーターを刷新し、先代ノートに比べトルクを10%、出力を6%向上させたほか、1.2L・3気筒の発電用エンジンもパワーアップを図るなどで、より心地よい加速性能を実現するという。

また、エンジンの作動頻度を低減するなどで静粛性を向上したほか、逆にロードノイズが大きい場合には積極的に発電を行うなど、制御系システムの改良も行っている。


ヤリスは、ガソリン車とハイブリッド車の両方を用意。ハイブリッドシステムの内容も大きく異なる(写真:トヨタ自動車)

対するヤリスは、ガソリン車とハイブリッド車の両方を用意する。ガソリン車は1.0Lと1.5L、ハイブリッド車は1.5Lエンジンを搭載(いずれも3気筒)。2タイプのCVT(AT)と1.5Lガソリン車には6速MTも設定している。

ヤリスのハイブリッド車には、プリウスなどと同様、今では一般的になったパラレル方式を採用する。発進時など低速走行時はモーターだけのEV走行を行い、速度がある程度上がるとエンジンで走る仕組みだといえばわかりやすいだろう。

新型ノートとヤリスでは、ハイブリッド機構が違うのはもちろんだが、アクセルやブレーキの操作にも相違点がある。


先代同様にワンペダル操作で加減速ができる新型ノート。その操作感はヤリスのハイブリッドシステムとは大きく違う(写真:日産自動車)

新型ノートでは、走行モードを「SPORT」や「ECO」にした場合に、アクセルを戻しただけで減速する、通称「ワンペダル操作」と呼ばれる機構がある。これは、2代目にも搭載されていたものだが、従来のアクセルペダルで加速、ブレーキペダルで減速といった方式に比べ、ペダルの踏み替えが不要になるのが利点だ。例えば、渋滞路など頻繁に発進と減速を繰り返すような場合に効果を発揮する。

ただし、アクセルを戻して減速する際には、人によっては「慣れないとギクシャクする」といった声も出ていた。新型ノートでは、その点も改良が施され、ワンペダル操作での減速がよりスムーズになり、急にアクセルを戻しても「体が前のめりになる」ことはないという。

一方のヤリスでは、従来からのペダル方式を採用するため、ハイブリッド車に初めて乗った人でも、違和感が出たり慣れが必要だということはない。新しさこそないが、運転初心者でも操作に不安を感じることはないだろう。

燃費ではヤリスが有利


燃費性能ではヤリスが圧倒。ヤリスの燃費は、カタログ値のWLTCモード(FF車の場合)で35.4〜36.0km/L(写真:トヨタ自動車)

ちなみに燃費だが、ヤリスのハイブリッドはWLTCモード(総合)で2WD(FF)仕様がなんと35.4〜36.0km/L(グレードで異なる)、4WD仕様でも30.2km/Lという驚異的な性能を発揮する。

新型ノートの場合は、先行で販売される2WD(FF)仕様が、同じWLTCモード(総合)で28.4〜29.5km/Lだ。なお、2020年12月に発表が予定されているノート4WD仕様(発売は2021年か)の燃費はまだ未発表。だが、一般的に4WD仕様のほうが燃費は落ちる傾向にあるため、2WD仕様ほどの燃費は出ないだろう。

これらは、あくまでもカタログ上の数値のため、実際は走り方や道路状況などで当然変わってくる。だが、それでもヤリスは実走行の燃費に関しても評判がいい。ノートの場合も、さすがにカタログ値そのままは難しいだろうが、実際に乗ってもかなりの低燃費が期待できるだろう。


新型ノートのフロントフェイスデザイン(写真:日産自動車)

新型ノートの外観デザインは、日産自動車の新しいデザインランゲージによる「Vモーション」と呼ばれる大型フロントグリルが印象的だ。グリルには、日本の伝統工芸である組子からインスパイアされたパターンも採用し、「日本の風景に溶け込む」ことを意識したデザインだ。

また、細くてシャープな形状のフロントヘッドライトなど、そのフォルムは2020年7月に発表したSUVタイプの新型EV(電気自動車)「アリア」と同コンセプトで開発されており、同社が強調する「先進性」を強く感じさせる。


ヤリスのフロントフェイスデザイン(写真:トヨタ自動車)

一方のヤリスも、近年のトヨタ車に採用されているデザインコンセプト「キーンルック」を踏襲した大型フロントグリルと、シャープな印象のフロントヘッドライトが目を引く。「鋭い加速で、弾丸のようにダッシュするイメージ」でデザインされたボディは、ノートに比べてスポーティなイメージだ。

コンパクトなヤリスに対して余裕のあるノート

ボディサイズは、新型ノートが全長4045mm×全幅1695mm×全高1505mm〜1520mmで、ホイールベースは2580mm。対するヤリスは、全長3940mm×全幅1695mm×全高1500mm〜1515mm、ホイールベース2550mmとなっている。


全長4045mm×全幅1695mm×全高1505mm〜1520mmと先代に比べてコンパクトになった新型ノート(写真:日産自動車)

新型ノートは先代と比べて全長で55mm、ホイールベースで20mm短くなっているが、それでもヤリスより大きい。ただ、サイズだけではなく、デザイン的な違いも両車の見え方が異なる要因だ。

それは、例えば、ヤリスは全体のフォルムに無駄をそぎ落としたような凝縮感があるのに対し、ノートでは車体後部のデザインなどにワイド感を強調した方向性を取るためだ。実際のサイズ比より、ノートのほうがより大きく見える。このあたりは、ユーザーによって好みが分かれるところだろう。

ヤリスの車体は、コンパクトカー向けに開発したTNGAプラットフォームの採用により、軽量かつ高剛性、低重心のボディを実現している。実際に筆者も試乗したがコーナリング時の安定感や、小柄な車体による軽快さなど、従来のコンパクトカーにはない上質な乗り味に好感を持てた。

一方の新型ノートも小型車向けの新型プラットフォームを採用することで、乗り心地や操縦安定性が向上しているという。ヤリスとの比較は実際に試乗してみないとわからないが、先代ノートのe-POWER車では、モーター駆動によるEVのような加速感が鮮烈だっただけに、新型の走りがどうグレードアップしたか気になるところだ。

なお、最小回転半径はノートが4.9m、ヤリスが4.8m〜5.1mとほぼ互角。いずれのモデルも、街中の細い路地などでも走りやすい、コンパクトカーならではの小回りのよさも魅力だ。

内装やシフトノブの違い


新型ノートのインパネまわり(写真:日産自動車)

新型ノートの運転席でまず目につくのは、先代モデルに比べ、より大型で見やすくなったセンターディスプレイだ。メーターと一体感を出したディスプレイの配置やコンソールなどのデザインも、より上質で新しさを感じられる。


ヤリスのインパネまわり(写真:トヨタ自動車)

ヤリスの運転席も、大型のセンターディスプレイが非常に見やすく、メーターにはアナログとデジタルが選べるマルチインフォメーションディスプレイを採用。ノートと比較すると、どちらかといえばシンプルな印象ではあるが、各スイッチ類の使い勝手なども良好だ。

前席シートは、どちらも背もたれが腰を包み込むため、ホールド感は高い。また、適度な硬さがあるため、柔らかすぎて長時間のドライブで腰が痛くなるということはないだろう。

シフトレバーは好みが分かれるところだ。新型ノートの電制レバーは、ハイブリッドやEVらしさを強調したような近未来感があるスクエアなボックス型だが、ヤリスでは、AT仕様のシフトレバーに、従来からあるスティック状の一般的タイプを採用している。

いずれも、前後に動かすことでシフト変更する操作方法はほぼ同じだが、デザインはかなり異なる。こういった仕様の違いも、初めて乗っても「いつもの感じで運転できる」ヤリス、「新しさや電動化」を全面に押し出したノートという、それぞれの性格がわかる点だ。

ステアリングは、ノートとヤリスのいずれも、角度(高さ)を調整できるチルト機構と、前後位置が調整できるテレスコピック機構の両方を持つ。

いずれも、ドライバーの体型などに合ったドライビングポジションを取るためには、非常に重要な機構だ。コンパクトカーなど小型車では、コストダウンのため両方の機構を持たないモデルもある。こういった細かいけれど、安全性にも関わる大切な機構が備わっている点も、これら2台が「真面目なクルマ作り」をしていることの証だといえる。

後席は、車体が大きい分、新型ノートのほうが運転席との間隔に若干余裕がある。ただし、2台ともに、4名以上が乗って長距離ドライブをするのはおすすめしない。もちろん、2モデル共に乗車定員は5名なので、できないことはない。だが、後席の乗員はかなり窮屈な思いをするだろう。

また、荷室についても、ノートのほうが多少広いが、大きな荷物を積む場合は後席を前に倒す必要があるなど、積載性にも大きな差はないようだ。

先進安全装備の違い

先進安全装備では、ヤリスがかなり秀逸だ。歩道の歩行者や自転車なども検知し、危険な場合は自動ブレーキが作動するプリクラッシュセーフティなど、最新の予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」を標準装備している(Mパッケージを除く)。

一方の新型ノートでも、前方だけでなく、側方や後方の衝突防止支援システムなどを装備した360度セーフティアシストを採用。さらに、注目なのは、高速道路でアクセルやブレーキを制御し、設定速度を上限に前車との車間距離を維持する前車追従型ACC(クルーズコントロール)である「プロパイロット」の搭載だ。


ナビゲーションシステムと連動し、より安全性と利便性を高めた「プロパイロット」(写真:日産自動車)

従来から、この機構は、軽自動車やミニバンなど日産車のさまざまなモデルに採用されているが、新型ノートではナビゲーションシステムと連動する新しいタイプになっている。大きな特徴は、ナビの地図情報を参照し、カーブの大きさに応じて減速したり、制限速度が変わった際に設定速度を自動で切り替えたりすることだ。

ヤリスのACCもレーダー式の前車追従タイプだが、設定した前車との車間距離に応じて加減速を行う方式。コーナーの大きさによって自動で減速するノートのほうが、一歩進んだシステムだといえる。ただし、ノートの場合も、上級グレードのXにオプション設定されているため、全車でこの機能が享受できるわけではない。

気になる価格だが、新型ノートで先行発売される2WD仕様の車両本体価格(税込)は、202万9500円〜218万6800円。ヤリスは、2WD仕様の場合、ガソリン車が139万5000円〜192万6000円で、ハイブリッド車は199万8000円〜229万5000円だ。

前述の通り、ノートでは、先代に設定があった比較的価格が安いガソリン車がなくなり、ハイブリッド車のみとなっている。価格競争が激しいコンパクトカーのジャンルで、かなり思い切ったラインアップの選択だ。

日産自動車の星野朝子副社長は、この点を「ゼロエミッションの社会をリードしていく企業としてのビジョン」を実現するためだとする。同社は、2020年5月に発表した事業構造改革「Nissan NEXT」の中で、「2023年度までに年間100万台以上の電動化技術搭載車の販売を目指す」ことや、「日本では、電気自動車2車種とe-POWER搭載車両4車種を追加」するといった目標を掲げている。


今後のビジョンを語る日産自動車 星野朝子副社長(写真:日産自動車)

つまり、新型ノートをe-POWERオンリーにしたのは、そういった同社が目指す事業戦略の一環なのだ。では、実際の販売現場での反応はどうだろう。日産車を扱う某販売店の担当者はこう語る。

「先代のノートだけでなく、セレナにもガソリン車とe-POWERの両方が設定されていますが、どちらもe-POWERのほうが多く売れています。(新型がe-POWERのみの設定になっても)あまり大きな影響はないと思います」

さらに、「新型ノートはもっと価格が高くなるだろうと思っていたのですが、発表された価格が意外に抑えられているのには驚きました。恐らく、(メーカー側は)安いという理由でガソリン車を選ばれるお客様も考慮して、価格面でも思い切ったのではないかと思います」とかなり好意的だ。

話を聞いた11月末の時点では、まだディーラーには展示用や試乗用の現車はなかったのだが、それでもすでに新型の予約が数件入っているという。また、それら顧客の中には、先代ノートでガソリン車に乗っていて、「e-POWER車に乗り換えたい」ユーザーも多いのだという。

「新しさ」の日産、「安心感」のトヨタが明確に

以上、新型ノートとヤリスをさまざまな角度や装備で比較してみた。概していえるのは、ヤリスは先進機能も数多く採用する新しいモデルだが、その細部を見てみると、運転操作などに関わる装備などは意外にオーソドックスだ。そして、その点が、初めてこのクルマを運転した人でも違和感なく乗れる、高い「安心感」に繫がっているといえる。

対するノートは、スタイリングから装備まで、全体的に「新しさ」を追求したモデルだ。特に、第2世代のe-POWERを搭載した走りが、どのように進化したのかは気になるところ。見た目の先進性が、実際の走行性能にもうまく反映されていることに期待したい。


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近年、コンパクトカーを購入するユーザー層には、60歳以上が増えているという。そういった世代には、子供が成長するなどで、大人数が乗れる大・中型の車両が不要となり、ミニバンなどからの乗り換え組も多い。夫婦2人がゆったりと乗れて、日本の道路事情でも使い勝手がいい、より小型の車両に「ダウンサイジング」するのだ。

「新しさ」のノートと「安心感」のヤリス。高齢者をはじめ、コンパクトカーの幅広いユーザー層が、各車の性格や味付けも含め、どちらをより多く支持するのか、今後の動向に興味が尽きない。