手越祐也

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 近年、こんなに買うのが恥ずかしかった本はない。手越祐也の告白フォトエッセイ「AVARANCHE〜雪崩〜」。読まずにあれこれいうのも、と思い読んでみたものの、彼のヤバさを再確認しただけだった。

 一番引いたのは、暴力に訴えて自分の主張を通そうとするくだりが数回あることである。「スタバのカップを楽屋で叩きつけた」「スタジオの椅子を投げた」「マイクを床に叩きつけた」など。本人によれば、日本人は事なかれ主義でいい子ちゃんが多すぎる。多少モメても自分の信じる道を貫き通せ、と伝えたいようだ。しかしテレビ局にとって、芸能人は「お客様」でもある。しかも天下のジャニーズ事務所なんて、超VIPだ。そのVIPが激昂して物に当たってきたら、引き下がるしかないだろう。手越が「自分の信念を曲げずに戦うオレ」と正当化し、だから自分に続けとばかりに読者を煽るのは疑問が残る。チャラ男どころかモラハラ・パワハラのハラ男と言うべきだ。

手越祐也

 そして彼の行動基準は、相手の肩書きや容姿で大きく変わる。象徴的なのが、外出自粛期間中に女性同伴で医療従事者と会った件である。「手越キャバクラ」と報道されたが、ビジネスの打ち合わせをしただけ。でも「男ばかりでは味気ないので女性も一緒に」と言われたから、ちゃんと外出自粛していた女性を連れて行った、という言い訳はおかしい。会見では「コロナウイルスうつされてもめんどくさいんで」という言葉も出たが、医療従事者という有資格者の機嫌を損ねないために、同伴する無名の女性の健康は二の次だったように見える。男どうしの接待のために、飲食代を払って、女性の時間を買う。キャバクラという言い方が気に入らないだろうが、やっていることは一緒である。

 彼の女性観は、芸能人との交友でも垣間見える。エッセイの中では数々の女性についても実名で触れているが、笑ったのは柏木由紀沢尻エリカの対比だ。写真つきで交際報道が出た柏木のことは終始「柏木」呼ばわりで、友達グループの一人にすぎず全く好意がない旨を書きながら、交際報道さえ出ていない沢尻のことはイイ女だと褒めそやしている。カラオケで沢尻に「歌うまいねえ!」と言われ、「普通の女の子にそんな言い方をされたらふざけんな、と思うが、彼女の美貌で言われたら微笑んでしまう」という反応に、女性のルックスで態度を変える片鱗が見える。極めつけは沢尻の「別に…」事件に関して、バッシングするのはブスの妬みだろうという書き方をしているところだ。

 道理の通らないことには怒って当たり前、と椅子まで投げつける奴が何言ってるんだ?と不可解な気持ちにとらわれた。シングルマザーへのボランティアや、ファンへの思いを声高に語る割に、身近な女性たちには冷淡なのだろう。特にゆきりんには同情するばかりだ。

正直さは実業家に必要か? 手越に感じるズレと不安

 今回の出版は、「生身の手越」を伝えたいから、ということだった。自分のまっすぐさゆえに、過去の報道で相手の女性やファンに迷惑をかけた。自分もモヤモヤした思いを抱えたままでは人生第二章に進めない。真実を語ることでバッシングもあるだろうが、スーパーポジティブな姿勢で頑張る自分を見てほしい。そんなメッセージもあった。

 しかし、ハラスメント気質とスーパーポジティブを掛け合わせると、周囲を傷つけても何とも思わないサイコパスの出来上がりだ。世界目線でビジネスを語る前に、怒りのコントロールや女性への接し方を学ぶべきではないか。

 何より、信用が一番の担保になるビジネス界で、果たして「正直さ」がそんなに大事なのだろうか。何でもかんでもしゃべってしまう相手は怖い。かばうつもりはないが、例の医療従事者もそうだろう。女性を同伴したのは相手から頼まれたから、とけろっとバラされてはメンツ丸つぶれである。身元が特定されようものなら商売に差し障りが出る。手越の「正直に話します」は、「ボロが出ています」になるリスクが大きい。

 そもそも正直さや実直さは、自分でアピールするものではない。普段の行動を見て周りが判断するものだ。「嘘がつけないタイプで」とか「サバサバしてるってよく言われる」と自称する人々が、ただ無神経と紙一重の放言をすることはままある。手越と交際報道があった女性たちにとって、この本はそれこそ不要不急の火種となったことだろう。

 権力者や有識者との会食を重ね、世界目線でビジョンを語るまっすぐなオレ。言っとくけど無名の人とブスは邪魔しないでね。そんなオレ様気質が見え隠れする手越の告白本。なおパワハラ気質で知られた名実業家スティーブ・ジョブズが憧れのようで、エッセイでも触れられている。「ステイハングリー、ステイフーリッシュ」の名演説を思い出すが、手越には今度こそ、「ステイホーム、ステイホーム」と繰り返し伝えてあげた方がいいように思う。肩書きばかりの悪い人間に利用され、取り返しがつかなくなる前に。

冨士海ネコ

2020年8月14日 掲載