スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE (10)

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 現在のバレーボール男子代表で、大きな期待と注目を集めている20歳の西田有志。そのバレー人生を辿る連載の第10回は、W杯終盤戦と、大会を締めくくった西田の超絶サーブについて振り返る。


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W杯最終戦のカナダ戦で連続サービスエースを決めた西田

 2019年10月のW杯初戦で強豪・イタリアにストレート勝ちし、幸先のいいスタートを切った日本代表。第7戦には3大大会(オリンピック、世界選手権、W杯)で何度も頂点に立ってきたロシアにも勝利するなど、5勝2敗で42年ぶりのメダル獲得に望みをつないでいた。

 8試合目の相手であるエジプトは、当時の世界ランキング13位で、同11位の日本代表にとっては確実に白星がほしい試合だった。西田は出だしから順調に得点を重ねていたが、セットカウント2−1とリードして迎えた第4セットは、「これまでに感じたことがないようなプレッシャーを感じて、思うようなプレーができなくなっていた」という。

 メダル獲得が見えていたからこそ感じた重圧なのだろう。その第4セットをデュースの末に28−30で落とし、試合はフルセットに突入。最終セットも1点差の攻防が続いたが、手に汗を握る展開の中で西田は気持ちを立て直した。

「周りの方にたくさん声をかけていただいて、やっと気持ちを切り替えることができました。(フルセットになったことで)勝ち点はひとつ落としましたが、どんな形であっても勝ち切ることができて、本当によかったです」

 第5セットは15−13で日本がモノにして6勝目。西田は苦しんだとはいえ、エース・石川祐希の24得点に次ぐ23得点を記録し、ロシア戦に続いて5点をサービスエースで挙げた。

 続く9試合目は、同年9月に行なわれたアジア選手権の覇者であるイランに、セットカウント3−1で勝利。日本は史上初のW杯5連勝で4位以上を確定させた。残るは2戦。10試合目の相手は、リオ五輪王者のブラジルだった。

 その試合に優勝がかかっていたブラジルはベストメンバーを揃えてきた。本気のブラジルに対して、日本は第1セットを先取された後の第2セットをデュースに持ち込み、26−24で制す。続く第3セットは14−25という大差で落とし、そのまま一気に崩れてもおかしくなかったが、第4セットはブラジルの猛攻をしのいで再びデュースに持ち込んだ。

 この試合でチームトップの17得点を挙げた西田も粘りを見せたが、最後は王者に押し切られた。その時点で日本の4位が確定。目標としていた表彰台にはあと一歩届かなかったが、28年ぶりのベスト4は確かなチーム力がもたらしたものだった。

 そして、実りが多かったW杯を締めくくる最後のカナダ戦で、西田はさらなるビッグサプライズを日本のファンに届けた。

 それまで出場機会が限られていた清水邦広や柳田将洋らがスタメンで活躍し、西田もポイントで交代出場して確実に得点を奪っていく。試合はフルセットの熱戦になり、第5セット序盤は日本が4−1とスタートダッシュを決めたが、カナダのサービスエースや日本のミスが重なって逆転を許す。1点ビハインドの8−9の場面で、西田はライトからスパイクを決め、そのままサーブに下がった。

 西田はこの時、相手コートをしっかりと確認した。カナダは後衛のレフト側にスパイカーが並ぶローテーション。サーブレシーブは、リベロが絡むゾーンよりも、スパイカー2人の間のほうが弱くなるのは定石だ。

「もともと、そこ(レフト側)は自分が得意なコースだったので、狙いにいきました」という西田が打ったサーブは、後衛の真ん中のサイドアタッカーを弾き、日本が10−9と再びリードする。続く2本目は、レフトのアタッカーのサーブレシーブを崩して連続エースを決めた。

 西田は観客席に向かって、両腕を激しく動かしてガッツポーズをした。この日はベンチスタートで、アップゾーンからもチームを盛り上げようと大きな身振りで喜びを表現していたため、コート内でも動きが派手になってしまったという。

「あとから見直すと、ちょっと恥ずかしいくらいに大げさなガッツポーズをしちゃいましたね(笑)。でも、それがかえってよかったかなと」

 その言葉通り、西田のガッツポーズで会場のボルテージはさらに一段階上がった。

 3本目のサーブはエースにはならなかったものの、やはりサーブレシーブを崩し、ミドルブロッカーの山内晶大がブロックでシャットアウト。4本目はまたもサービスエースで、13−9と試合をほぼ決定づけた。

 5本目のサーブはトスが少し前に流れた。それでも「今日は跳べる日」と感じていた西田は、緩めに入れることなく全力で打ち込んでエースを奪った。日本がマッチポイントを握ったところでカナダがタイムアウトをとったが、西田を止めることはできなかった。

 タイムアウトが明けてコートに戻った西田は、いつものように右手にボールを持ってまっすぐ前に差し出した。左手で右肩の袖を触り相手コートを睨みつけ、高くトスを上げてジャンプ。西田が「この日、一番ボールのスピードが速かったと思う」と振り返るサーブは、カナダのリベロを弾き飛ばし、コートの外に飛んでいった。

「途中までは、アップゾーンから『(その試合で25得点を挙げた)清水さん、すげえ』と思いながら見ていて、自分がコートに入った時もその高いテンションのままプレーした感じです。3本目のエースを決めた時にカナダが戦意を失ったことを感じましたけど、最後はもう”無”でしたね。『あれが”ゾーン”ってやつなんかな』って思いました」

 西田はこの大会で合計174得点を挙げ、ベストスコアラーランキングで全体の3位に入った。サービスエースの本数は、出場選手の中で唯一の20本以上となる29得点。堂々たる成績で「ベストサーバー」と「ベストオポジット」を受賞している。


カナダ戦を終えた後の(左から)清水邦広、福澤達哉、西田有志、石川祐希

 チームのベスト4に貢献した個人の活躍について、当時の西田は「海外のオポジットたちと戦って、一番小さい選手が賞をいただけたことはうれしいです。大きい選手には絶対に負けたくないと思って、ここまでやってきましたから」と喜びを語った。

 身長186cmの西田が、2m級の海外選手たちをサーブで弾き飛ばし、ブロックをものともせずにスパイクを打ち抜く。ファンからは「まるで漫画みたい」という驚きの声も上がったが、西田の視線はさらに先を見据えていた。

「チームとしては表彰台に立っていない。今回のふたつの賞は『よかった』で終わらせて、次はチームとしてもっと勝てるようにしないといけない。個人で賞をもらうより、チームでメダルをもらうほうが絶対にうれしいはずなので」

 28年ぶりのベスト4にも満足しなかった西田は、その後のVリーグでチームを初の快挙に導いた。

(第11回につづく)