バルセロナと初対戦したマジョルカMF久保建英【写真:Getty Images】

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【スペイン発コラム】ブーイングを浴びた古巣バルセロナ戦、動じずに好プレーを継続

 日本代表MF久保建英は7日、下部組織で4年間を過ごした古巣バルセロナとリーガ・エスパニョーラ第16節で対戦。

 マジョルカで5試合連続のスタメン出場を果たし、幼少時代に夢見たカンプ・ノウのピッチに初めて立った。

 ホームで行われた前節ベティス戦、久保は4試合連続で先発し、チームで最も評価される一人となるプレーを見せた。しかしマジョルカは前半だけで2点差をつけられ、1-2で敗れ2連敗を喫した。15試合を終えて4勝2分9敗の勝ち点14と、降格圏ギリギリの17位となっていた。

 今回の対戦相手であるバルセロナは、久保が少年時代に下部組織に在籍していた、言わずと知れた世界屈指の強豪クラブ。10月26日に開催予定だったレアル・マドリードとの“エル・クラシコ”が、カタルーニャ独立を強行に進め失敗した同州政府幹部9名に対し、長期の禁固刑が言い渡されたことによる抗議活動が激化したため12月18日に延期され、1試合少ないものの通算成績は14試合10勝1分3敗の勝ち点31で、レアルと並び首位に立っていた。

 キックオフ時間は21時と遅いものの、気温は15度とカンプ・ノウはそれほど寒くはなかった。試合前日にFWラゴ・ジュニオールの負傷欠場が決定したこともあり、久保は5試合連続の先発出場を果たしている。

 システムはベティス戦の4-3-3から4-4-2に変更され、久保はいつもの右サイドハーフでプレー。しかし前節、敵地で強豪アトレチコ・マドリードを撃破し、勢いに乗る首位チームを止めるのは非常に難しいものとなった。

 キックオフから完全にバルセロナにゲームを支配され、前半17分までにFWアントワーヌ・グリーズマン、史上最多6度目のバロンドールを手にしたFWリオネル・メッシに、立て続けにゴールを許してしまう。

 また、“ラ・マシア”(バルセロナの下部組織)で育ちながらレアルと契約したことにより「裏切り者」と見なされた久保は、ファーストタッチから試合終了まで激しいブーイングを浴び続けた。しかしこれは、久保がその実力を認められ、相手にとって怖い存在であることを知らしめるものでもあるだろう。

久保の守備は日々向上、守備ブロックの一員として機能

 そうしたなかでも久保は前半、左サイドのMFダニ・ロドリゲスと頻繁にポジションチェンジしながら攻撃のチャンスを窺った。前半6分に際どいクロスを上げると、2分後には激しい競り合いによって相手DFセルジ・ロベルトのイエローカードを引き出し、時折ドリブルも仕掛け、ビジャレアル戦から続くパフォーマンスの良さをアピールした。

 そしてマジョルカは同35分、MFサルバ・セビージャのスルーパスを受けたFWアンテ・ブディミルが決めて1点を返すも、メッシの鮮やかなミドルシュート、そしてFWルイス・スアレスのファンタスティックなヒールシュートにより、前半は1-4で終了した。

 後半に入りバルセロナがペースダウンしたことにより、マジョルカは前半よりも前に出る機会が増えた。そんな状況の中、久保は後半17分にこの日初めてのシュートを放つと、その2分後には久保のパスを受けたDFフラン・ガメスが右クロスを送り、ブディミルが打点の高いヘッドで合わせて2点差に迫る。さらに後半32分、久保のシュートが相手の手に当たったように見えたが、笛は吹かれなかった。また実りはしなかったが、隙を見て積極的にクロスを入れるシーンもあった。

 しかし迎えた後半38分、メッシにハットトリックを達成され万事休す。2-5と完敗を喫したマジョルカは3連敗、そして今季アウェーゲームは開幕から7連敗となった。

 敵地カンプ・ノウで大敗を喫し、これまでよりもチャンスを作れなかったものの、久保はリーガ初得点を記録した第13節ビジャレアル戦(3-1)を皮切りに、4試合連続でチームトップレベルのパフォーマンスを見せていると言っていいだろう。

 また前節ベティス戦でも感じられたが、久保の守備は日々向上しているように見える。この日は相手が相手だけに、守備に費やす時間が圧倒的に長く、多くのゴールを決められたものの、久保は我慢強く耐えて簡単に足を出すことなく、猛攻を受け続けたチームの守備ブロックの一員として、しっかりと機能した。

マジョルカの地元記者も脱帽 「18歳だけど強い個性を備えている」

 久保は試合後、バルセロナ戦について「幸運にもフル出場することができた。全力を尽くしたが十分ではなかった」と振り返った。

 ボールを持つたびに大ブーイングを受けたことについて、「ブーイングは観衆の決断だ。僕が自分の決断を下した一方、彼らには僕にブーイングをする権利があると思う。でも僕に拍手を送ってくれる人もいたし、それが力になった」と、“禁断の移籍”を果たしたことにより起こりえる事態であることを理解していた。そして、「18歳の少年ではなく、ライバルとして見てくれた。そのことが嬉しい」とも語っている。

 スペイン紙「マルカ」は、この日の久保の評価について、GKマノロ・レイナ、FWブディミルと並ぶチームトップの2点(最高3点)を与えている。またチームMVPに選出し、「いいパフォーマンスだった。カンプ・ノウでブーイングを浴びせられた」と評価。また「チームで最も素晴らしい選手だった」とも伝えている。

 一方、スペイン紙「AS」の久保の評価は1点(最高3点)。トップは2得点を決めたブディミルで3点、続いてさらなる大量失点を防ぐ役割を果たしたレイナが2点。その他の選手たち(FWアブドン・プラッツのみ出場時間が短く評価なし)は皆、久保と同じ1点だった。

 地元マジョルカのウェブメディア「フットボール・マジョルカ」のアルベルト・セルコス記者は試合後、この日の久保のプレーについて、「とてもアクティブだったし、カンプ・ノウでブーイングを受けるなか、試合を通じて自分が本当に素晴らしい選手であることを証明しようとする意欲に溢れていた。18歳だけど強い個性を備えているし、ボールを持った時のプレーやボールを求める姿勢はポジティブだったよ。私は久保が今日、マジョルカで一番良かったと思う」と称賛した。

 一方、スペインのラジオ局「オンダ・セロ」でバルセロナ番を務めるアルフレド・マルティネス記者は試合後、「今日は彼にとって、感情的なもの、そして対戦相手のクオリティーによりとても難しい試合だった。カンプ・ノウはフットボールをプレーする若い選手にとって、ベストのピッチではないと思う。心理的なプレッシャーがあっただろうし、観衆が選手の上に重くのしかかっていたからね」と、久保にとって激しく、重圧のある非常に難しいゲームだったことを強調した。

「クオリティーがとても素晴らしい」 バルサ番記者は重圧の中でのプレーに高評価

 しかしマルティネス記者は、「彼はフットボールのクオリティーがとても素晴らしいので、将来マジョルカ、そしておそらくレアル・マドリードや日本に大きな喜びを与えてくれるだろう。私たちは素晴らしい才能を備えている選手を目の当たりにしているんだと思う」と高く評価し、久保のさらなる成長に期待を寄せていた。

 久保は第12節バジャドリード戦(0-3)以降、5試合連続で先発出場を果たしており、監督の信頼を完全に勝ち取っているように見える一方、その間スタメン入りしやすい、なんらかの要素があったことも事実としてある。

 バジャドリード戦では、その3日前に平日開催の第11節オサスナ戦(2-2)があったことによるローテーションが行われ、久保に5試合ぶりの先発出場のチャンスが与えられた。続くビジャレアル戦ではサルバ・セビージャが出場停止。そして第14節レバンテ戦(1-2)と今回のバルセロナ戦ではラゴ・ジュニオールが負傷欠場し、ベティス戦では本調子ではないためベンチスタートになっていた。

 そのため、ビセンテ・モレノ監督がシーズン開幕から全幅の信頼を置いていると言っても過言ではない、固定メンバーであるMFイドリス・ババ、サルバ・セビージャ、MFアレイシュ・フェバス、ダニ・ロドリゲスにラゴ・ジュニオールが怪我から復帰して全員が揃った時、久保を含めた6選手の中から中盤5枚に誰を起用するのか。その決断に、大いに注目が集まることになる。

 モレノ監督はここ最近、欠場者が出ているため、幸いこの問題を先送りにすることができている。しかし近い将来、久保が真のレギュラーであるかどうかの決断を下す時が間違いなく訪れる。できることなら年内のリーグ戦残り2試合の間に、久保が本当の意味でスタメンの地位を確保した姿を見てみたい。そして久保は、間違いなくそれだけのパフォーマンスを見せていると言えるだろう。

 マジョルカは次節、12月15日に敵地バライードスでセルタと対戦する。順位が一つ下の残留争いの直接のライバルとの対戦、そしていまだ勝ち点を一つも獲得していない年内最後のアウェーゲームとなるため、是が非でも勝ちたい試合となる。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)