軍事力の拡充路線へ舵を切ったオーストラリア海軍が、いままさに大きく生まれ変わりつつあります。一部報道では原子力潜水艦も視野とか。日本との関係強化も進められていますが、そこにはどのような狙いやメリットがあるのでしょうか。

日豪イージス艦が初の共同訓練実施

 2019年10月15日と16日の2日間、関東南方の公海上の海空域で、海上自衛隊とオーストラリア海軍の共同訓練「日豪トライデント」が行なわれました。

 この訓練には海上自衛隊のミサイル護衛艦「あたご」と、オーストラリア海軍のミサイル駆逐艦「ホバート」が参加していますが、「ホバート」は「あたご」と同様、イージス戦闘システムを搭載しており、日豪のイージス艦による共同訓練は、今回が初となります。


共同訓練「日豪トライデント」に参加した海上自衛隊のミサイル護衛艦「あたご」(左)とオーストラリア海軍のミサイル駆逐艦「ホバート」(画像:海上自衛隊)。

 オーストラリア海軍は今回、共同訓練に参加した「ホバート」のほか、同型艦の「ブリスベン」を2018年10月に就役させており、3番艦の「シドニー」も2020年の就役に向けて洋上試験が行なわれています。

 このほかにも、オーストラリア海軍は近年、大幅な戦力の強化と近代化を進めており、2014年から2015年にかけて、海上自衛隊のいずも型ヘリコプター搭載護衛艦に近いサイズの、キャンベラ級強襲揚陸艦2隻も戦力化しています。キャンベラ級は搭載するヘリコプターと上陸用舟艇によって、戦力を揚陸させることが主任務ですが、艦首には発艦する固定翼機の滑走距離を短縮して燃料消費量を抑える効果を持つ、スキージャンプ台のような傾斜を設けており、飛行甲板の耐熱性強化などの改修を加えれば、F-35Bを運用できると見られています。

 オーストラリア軍は費用対効果などの観点からF-35Bの導入を見送り、現時点でキャンベラ級にF-35Bを搭載する計画はありません。しかし同国内では最近になって、キャンベラ級にF-35Bを搭載すべきという意見や、キャンベラ級とは別に、F-35Bを運用できる軽空母を保有すべきとの意見が強くなっています。

フリゲートや潜水艦も刷新、原子力潜水艦も視野か

 オーストラリア海軍は現在の主力水上戦闘艦である、8隻のアンザック級フリゲートを後継するハンター級フリゲートと、6隻のコリンズ級潜水艦を後継するアタック級潜水艦の導入計画も進めています。

 ハンター級はイギリス海軍の26型フリゲート(正式な艦種呼称は「グローバル戦闘艦」)に採用された、BAEシステムズの設計案をベースに開発される、対潜水艦戦を主任務とするフリゲートです。ところが、オーストラリアのマルコム・ターンブル前首相は在任中の2017年10月に、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威などを踏まえて、これに対処するイージス戦闘システムをハンター級に搭載する方針を発表しています。

 ハンター級は2020年から10年をかけて9隻の建造が計画されており、2030年代初頭のオーストラリア海軍は、イージス戦闘システムを搭載する水上戦闘艦のみを運用する海軍となります。


ハンター級フリゲート(上)とアタック級潜水艦(下)のイメージCG(画像:オーストラリア海軍)。

 アタック級潜水艦は、フランス海軍が新たに導入する攻撃型原子力潜水艦「シュフラン」級をベースに開発される、通常動力攻撃型潜水艦で、9隻の建造が計画されています。

 シュフラン級は魚雷や対艦ミサイルだけではなく、巡航ミサイルの発射能力や特殊部隊の隊員を敵地へ投入、回収する能力も備えています。アタック級潜水艦も、これらの能力を備えるものと見られています。

 アタック級潜水艦は2020年代から2050年代半ばにかけて、オーストラリア国内で12隻の建造が計画されていますが、建造を請け負うフランスの造船企業ナヴァル・グループは、オーストラリア政府に対してアタック級の一部を原子力推進艦にすることを提案したとも報じられています。

日豪関係は大きく進展 その背景と狙いやメリットは?

 オーストラリアは日本などと異なり、これまで周辺に大きな脅威となる国が存在していなかったことから、冷戦終結後のオーストラリア軍は自国の防衛に加えて、同盟国であるアメリカや、緊密な関係にあるニュージーランドと共同歩調を取れるレベルの戦力を維持してきました。

 しかしオーストラリア政府は2009(平成21)年に、中国をはじめとする地域諸国の軍事力強化に対抗するため、軍を強化する方針に転じます。オーストラリアはアメリカや日本などと同様、海洋の航行の自由を重要視しており、南シナ海や太平洋などで力による現状の変更も辞さない中国をけん制するため、海軍力の強化に乗り出しました。


艦首にスキージャンプ台のような傾斜を設けたオーストラリア海軍の強襲揚陸艦「キャンべラ」(竹内 修撮影)。

 ただ、オーストラリア1国の海軍力の強化には限界があります。また同盟国のアメリカ海軍も、中国の急速な海軍力の強化により、地域におけるプレゼンス(存在感や影響力)は相対的な低下を余儀なくされています。そこでオーストラリアは、アメリカの有力な同盟国である日本および、アジアでは屈指の戦力を保有する海上自衛隊との関係強化を進めている、というわけです。

 オーストラリアとの関係強化は、日本にとっても大きなメリットがあります。日本は少子高齢化が進んでおり、自衛隊の定員確保は年々困難になりつつあります。特に海上自衛隊は定員確保が深刻で、このままでは艦艇は建造できても、乗員不足で艦艇が動かせなくなることも懸念されています。

 現在の海上自衛隊は日本近海だけでなく、インド洋や太平洋などでも活動していますが、こうした活動をオーストラリア海軍と共同で行なえば、艦艇の総隻数が減少したとしても、海上自衛隊はインド洋や太平洋でのプレゼンス(影響力)を維持することができます。

 そう遠くない将来、オーストラリア海軍のキャンベラ級に航空自衛隊が導入するF-35Bが搭載されたり、いずも型ヘリコプター搭載護衛艦をハンター級フリゲートが護衛して、南シナ海やインド洋をパトロールしたりする、そんな光景が見られるのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

※誤字を修正しました(11月27日13時00分)。