外食チェーンによって、軽減税率への対応はさまざまだ(撮影:今井康一、風間仁一郎、記者撮影)

10月1日の消費増税実施に向けて、外食各社の対応が出そろってきた。飲食店では、店内飲食の場合は税率が10%に引き上げられる一方、持ち帰りの場合には軽減税率が適用され、税率8%となる。この変則的な税率に対し、各社の対応はまちまちだ。

外食で多数派となっているのは、「税抜きの本体価格を据え置き、そこに8%または10%の税率をかける」という最もオーソドックスな対応だ。

牛丼チェーンの吉野家やハンバーガー大手のモスバーガーなどが、これに該当する。吉野家は今年3月の時点で、それまでの税込み表示から「本体価格+消費税」の価格表示へと切り替え、準備を進めてきた。

多くの外食企業がこの対応を取るのは、「軽減税率の趣旨にのっとっている」との考えからだ。飲食店での持ち帰りを含む食料品に軽減税率が適用されるのは、「支出に占める食料品の割合が高い低所得者層への配慮」といった大義名分がある。外食各社は、この政治的な根拠を順守する方針だ。

税込み価格をそろえる最大手

一方で、最大手では違った動きが見られる。消費増税が目前に迫った9月に入り、牛丼最大手のすき家とハンバーガー最大手のマクドナルドは、ともに店内飲食と持ち帰りで税込み価格をそろえる方針を発表した。

例えば、すき家の牛丼(並盛)は、10月以降も店内飲食、持ち帰りにかかわらず税込み350円を維持する。「お客にとっていちばんわかりやすい方法をとった」と、すき家を運営するゼンショーホールディングスの広報担当者は話す。

店内飲食の場合は税抜き319円+消費税10%、持ち帰りの場合は税抜き325円+消費税8%とし、実際に顧客が支払うのは、どちらも税込み350円となる。すき家のこの対応は店内飲食の場合、本体価格を実質6円値下げしたことになる。

それでも、「すき家の牛丼は350円で定着している」(広報担当者)ことから、350円を訴求して集客を優先する。逆に、牛丼(並盛)以外の一部メニューでは10円単位で値上げし、全体で利益を確保していく。

マクドナルドも「ビッグマック」などの主力商品を含む全体の7割のメニューで、実質値下げして税込み価格を維持する。100円(税込み)〜のドリンクや500円(同)の「バリューセット」など、税込みでの価格が顧客になじんでいるものは増税分を飲み込み、税込み価格を維持する。他方、残りの3割の商品は値上げしてバランスを取る。「マックフライポテト(Mサイズ)」や「てりやきマックバーガー」は値上げになる。


ケンタッキーフライドチキンも同様に、税込み価格をそろえる。3月時点では本体価格をそろえる方針を示していたが一転、7月に税込み価格の統一へと判断を変えた。その理由は「店頭でのトラブル防止のため」(日本KFCホールディングス広報担当者)。

本体価格をそろえて持ち帰りのほうが安いと、持ち帰りで買ったのに席について食べる顧客が出てきかねない。その対応にスタッフが追われるような事態を避けた。また、表示がややこしくなることも懸念した。例えば「500円ランチ」などのセット販売の場合、「店内で召し上がる場合は509円です」といった煩雑な表示をしなければならない。

値下げに踏み切る大戸屋

勝負に出るのは、定食チェーンの大戸屋ごはん処。10月のメニュー改定に際し、全32品のうち4品を税込み価格維持と、実質値下げする。さらに、ほかの4品を税込みでも値下げする。


足元で苦戦が続く大戸屋。値下げで巻き返しを図れるか(記者撮影)

その結果、10月以降の大戸屋の客単価は約10円下がる見込みだ。大戸屋の既存店は4〜8%の客数減が続いている。これを受け、運営会社である大戸屋ホールディングスの今2019年4〜6月期業績は営業損失1.2億円となり、赤字に陥った(前年同期は2700万円の黒字)。「店舗運営コストは上昇しており、なかなか下げられない。メニュー改定で単価を下げ、来店の頻度を上げて業績を回復させたい」と、事業会社大戸屋の山本匡哉社長は話す。

だが、値下げした分を客数増でカバーするのは容易ではない。人件費などのコスト上昇分を吸収するとなると、ハードルはいっそう高い。業績が好転するかどうかの見通しは不透明だ。

価格面での対応だけでなく、軽減税率が適用される持ち帰りや宅配など「中食」へのニーズが高まると見て、展開に力を入れる動きもある。


モスバーガーは時間が経ってもおいしく食べられるように、保水性をアップしたバンズに変更した(撮影:今井康一)

モスバーガーは7月、ハンバーガーに使うバンズ(パンの部分)を改良した。保水性をアップした生地に変更し、持ち帰りで時間が経ってから食べてもパサつかないようにした。「2%安い持ち帰りに需要がシフトするなら、対応する必要がある。コンビニとの競争環境も厳しくなる」と、運営会社であるモスフードサービスの広報・IR担当者は強調する。

スターバックスコーヒーも、持ち帰り需要の増加を見据えた施策を打つ。自社アプリを活用し、スマートフォンから持ち帰りの事前注文と決済ができる仕組みを6月に導入した。都内56店でサービスを開始し、2020年中の全店展開を目指す。

ピザや弁当といった飲食店の宅配も軽減税率の対象のため、ウーバーイーツや出前館などの外部事業者を利用した宅配サービスを導入する外食チェーンも多い。時短・簡便志向を受けて、近年大きく伸びている宅配分野は、軽減税率がさらに追い風になりそうだ。

求められる地道なサービス向上

軽減税率実施をきっかけに、顧客を逃すまいと新たな施策を打ち出す外食各社。だが、コンビニやスーパーといった、外食以外のチェーンと顧客の奪い合いが激化する懸念がある。税率8%のコンビニ弁当などに顧客を持って行かれることを恐れる外食企業は多い。

「同業他社だけでなく、食を提供するすべての企業が競合だ」と、吉野家ホールディングスの河村泰貴社長は危機感を示す。吉野家は9月、PayPayなど4種類のQR決済を新たに導入した。これらのQR決済の運営会社と提携した割引に加え、10月1日から15日の期間限定で牛丼・牛皿全品10%オフの販促を打ち、消費増税後に客足が遠のくことを防ぐ。

奇手、妙手だけでは、いずれ顧客にソッポを向かれることになる。外食各社が増税後の激しい競争を勝ち抜くには、地道なサービス向上が求められる。