「中国共産党の国民用アプリ、使ってポイントが貯まる仕組みの「真の狙い」」の写真・リンク付きの記事はこちら

中国が全体主義国家であるという批判は、14億人に上る人口の多様性を無視したもので、必ずしも正確ではない場合も多い。ただ、中国共産党のプロパガンダ機関が開発したゲームをやることを強制されるとすれば、全体主義という形容は的を射ていると言わざるを得ないだろう。

中国共産党は今年に入って、「学習強国」というアプリの配布を始めた。まさにその名が示す通りのアプリで、ユーザーは毎日配信されるニュースや動画、クイズなどを通じて、中華人民共和国について学んでいく。

さらに“ディストピア的”とも言える要素もある。全国の共産党員と学生はゲームをプレイすることが必須で、しかも上司や教師にアプリで獲得したポイント数を報告しなければならないのだ。ポイントは、ニュース記事を読んだり動画を5分間以上視聴すればもらえるようになっている。

プロパガンダ記事へのコメントでポイント付与

それでは、このデジタル版『毛主席語録』の中身はどのようなものだろうか。まず第一に、アプリの主役は毛沢東ではなく、現国家主席の習近平だ。習はこれまでの指導者のなかで最も強大な権力を手にしており、同時に毛のような個人崇拝を得ようとしているとも噂される。

アプリの名前である「学習」には国家主席の名が含まれており、ちょっとしたダジャレのようにも見える。ただ、冗談ではなく、ゲームの大部分は習が2017年10月に打ち出した「習近平新時代中国特色社会主義思想(習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想)」を学ぶことに割かれている。

この政治理念は翌年に行われた憲法改正により、憲法に盛り込まれた。このときには併せて国家主席の任期制限が撤廃され、習による”終身”支配体制が確立されている。

アプリは共産党の中央宣伝部とアリババが共同開発した。立ち上げると、「自然資源部、自然災害の防止と管理で大きな成果」「アフリカ大陸の各地で習主席の言葉に高い評価」といった勇ましい見出しのニュースが並ぶ。

記事にコメントするとやはりポイントが付与されるようになっているほか、チャットやToDoリストの作成、スケジュール管理といったソーシャルネットワークを意識した機能もある。ただ、メインのコンテンツは、やはり共産党のプロパガンダの学習だ。

アプリの利用規約に書かれていた「秘密」

ポイントに関しては、職場や学校での目標を達成するだけでなく、将来的にはさまざまな特典や商品と交換できるようになるという。一方で、ポイントが一定水準に達しなかった人を対象に、「公開反省会」や反省文の提出といったことが行われているとの報道もある。

中国共産党の公式アプリということもあり、学習強国は公開後すぐに中国の「App Store」でダウンロード数ランキングの首位に立った。ただ、一般の評価はそれほど高くはなく、評価欄には「自発的にやっているが悪くはない」「なんで(ゲームは)必須なの?」といった感想と並んで、星1つのレヴューも見られる(なお、2月からはレヴューの投稿ができなくなった)。

北京在住の教師チウ・ユアンは、アプリの利用規約を詳しく読んでからダウンロードをやめた。そこには、「アプリは国民識別番号、本名、生体情報、電話番号、買物履歴、位置情報、削除したコンテンツ、その他の個人情報を取得する」と書かれていたからだ(生体情報は職場での健康診断を通じて収集されているという)。チウは「これはただのゲームではありません」と警告する。

一方、強制的にダウンロードさせられたが、中国共産党の監視の裏をかく方法を見つけた人たちもいるようだ。ソースコードの共有プラットフォーム「GitHub」で進められている「Fuck-XueXiQiangGuo」[編註:「XueXiQiangGuo」は「学習強国」の拼音(ピンイン)表記]というプロジェクトでは、「大人の自動学習を助ける」ソフトウェアを無料でダウンロードできる。このソフトを使うと、アプリを立ち上げていればボットが自動的にゲームをプレイし、ポイントを稼いでくれるのだ。

国民の信用力を「点数化」する壮大な計画

共産党は、このアプリによって党の理念を全国民に知らしめ、同時に個人の動向を把握することを目指している。個人情報のゲーム化は、世界的に知られるようになった「社会信用システム」の目的のひとつだ。

中国共産党は少し前から、社会活動のあらゆる側面から個人の信用力を点数化し、社会秩序を乱す者への処罰に利用するという壮大な計画を進めている。信号無視や公共交通機関での喫煙、債務不履行、政府批判といったことに関与すれば、日々の生活にただちに影響が及ぶようなシステムをつくり上げようとしているのだ。

ILLUSTRATION BY KEVIN HONG

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現時点で本格的に実施されているのは、裁判所の支払督促に関するものだけだ。具体的には、一定期間を過ぎても支払督促に応じないとブラックリストに名前が乗り、航空券が買えなくなるというものだ。すでに1,700万人が影響を受けているという。一方で、中国共産党は2020年までにシステム全体の本格運用を始める方針で、学習強国のようなアプリもデータ収集に使われる見通しだ。

参考までに、中国では政府はすでに国民の個人情報の大半にアクセスできるようになっている。顔認識技術はさまざまな場所で実用化されているほか、日常生活に深く浸透するメッセージアプリ「WeChat(微信)」や決済サーヴィス「Alipay(支付宝)」を提供する国内の大手テック企業は、いずれも共産党と深いつながりがある。2017年に施行された「網絡安全法(サイバーセキュリティー法)」では、企業が政府にユーザーデータを提供することが、事実上義務づけられた。

「見られる」ことを望む支配者

一方で今年2月には、深圳に拠点を置くSenseNets(深網視界科技)という企業が、新疆ウイグル自治区の住民250万人以上の行動を追跡していたことがハッカーによって暴露されている。中国ではウイグル族などのイスラム系の少数民族に対する弾圧が行われており、これまでに約100万人が違法に身柄を拘束された。

拘束は免れても、デジタルでの監視は日常的に行われている。携帯電話に個人の追跡を可能にするアプリをインストールしていなかったり、監視の目を逃れるためにVPN(仮想私設網)を使うと、処罰の対象になるという。

中国共産党はすでに国民を見張るためのさまざまな手段をもっているが、学習強国はこれまでのテクノロジーとは性質が異なる。このアプリは、「偉大なる祖国」に国民が注目することを目指しているのだ。誰もが監視下にある社会において、支配者は自分たちも「見られる」ことを望んでいるようである。