多くのビジネスパーソンがSNSで自分のことを発信する時代。いわゆる“セルフブランディング”に精を出している人も目にします。

ある種その先駆者的存在なのが、現在株式会社ZOZOコミュニケーションデザイン室長を務める田端信太郎さん。

田端さんは「Twitterでフォロワー1000人いないやつは終わっている」と公言していました。

…が!

最近の田端さん、「1000人目指せ」って全然言わなくなったんですよね…。

いったいなぜ? もしかして考えが変わったのか?

そこで、田端さんが現在考えている「本当のブランディング」とは何かを聞いてきました。

〈聞き手:天野俊吉(新R25副編集長)〉


【田端信太郎(たばた・しんたろう)】株式会社ZOZO コミュニケーションデザイン室長。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン『R25』を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN JAPANを経て、2018年3月から現職

天野:
田端さん、以前は著書『ブランド人になれ!』とかで「(Twitterで)フォロワー1000人を超えない人間は終わっている」って言ってたけど、最近言わなくなってませんか?

田端さん:
だって…言うと燃えるしさあ(笑)


いや今さら?

田端さん:
燃えるのはいいんだけど(笑)、前置きをすっとばして「フォロワー数が人間の価値なんですか!」とか言葉尻つかまえてくるヤツらがいるから、もう面倒くさくなっちゃって。

天野:
考えが変わったわけではないんですか?

田端さん:
変わってはない。言語コミュニケーションをする仕事、たとえば営業、メディア、広告、広報といった仕事をしてるなら、やっぱり1000人は最低の足切りラインだろうね。

足切りができるだけで、フォロワーが多けりゃすごいとも思わないから、フォロワー5万人の人とくらべて俺(フォロワー約20万人)が4倍エライとはまったく思わないけど。

天野:
「フォロワー1000人」が、どんな能力を見極める足切りラインになるんですか?

田端さん:
「What to say」と「How to say」。つまり「何を伝えたいか」「どう伝えるか」の能力だよね。自分をブランディングしたいと言うなら、この二つの能力は必須だと思う。

営業だったら、「御社はこういう理由でこれを導入すべきである」と伝えるためにムービーなりパワポなり、口八丁のセールストークなり、いろんな手段を用意する。

人事だってそうでしょう。いい学生がいたら、「君はここで働くべきだ」と伝えるためにアベマタワーズに連れてきて先輩に会わせる…とかいろいろ演出するわけでしょ。


※今日は天野がハイボールを買ってくるのを忘れたため、田端さん飲んでません

天野:
「みんながやってるTwitterで今さらブランディングしようとするのは悪手だ」という声もありますが、それはどう思います?

田端さん:
まあ正しいね。別にインスタでもTikTokでも、その人が得意なことをやればいい

でも、テキストベースの言語コミュニケーションでいうと、Twitterが一番シンプル。野球でたとえるなら“地肩の強さ”が表れると思う。

100年経ってもテキストベースの言語コミュニケーションはなくならないと思うから、ホワイトカラーの仕事において役立つと思うんだよね。

天野:
なるほど…

では、どんな発信をしたらビジネスパーソンの「ブランディング」につながると思いますか?

田端さん:
ネットって民主主義だからね。「間違ってるかもしれないけど、本音で言ってること」がいい。

それを今から説明しましょうか!


はいお待たせしました、↓ここからが記事の本番です!

コーヒーショップが「禁煙」にするのはブランディングになり得るか?

田端さん:
ブランディングを説明するのにわかりやすい話があって…スターバックスって禁煙じゃないですか。

天野:
ですね。僕はタバコが苦手なんで、めちゃくちゃありがたいです。

田端さん:
じゃあ、ドトールが最近一部のお店を禁煙にしてるけど、これはブランディングに寄与してると思う?


また田端さんからのクイズ来た…毎回わからないんだよな…

天野:
うーん、最近ドトールがきれいになって行くようになったという人をよく見ますし…。ブランディングになってるんじゃないでしょうか。


ハズレですか? どっち?

田端さん:
多分だけどさあ、スタバが日本に上陸した90年代、普通にマーケティングリサーチして「タバコを吸えないコーヒーショップってどう思いますか?」ってきいたら、多くの人がありえないでしょって答えたはずなんだよね。

天野:
喫茶店といえばコーヒーとタバコで一服する場所でしたもんね。

田端さん:
最初のうちは店員さんが「タバコ吸えないのかよ!」って怒られるとか、トラブルも多かったんじゃないかなって想像できるよね。

つまり、経営的に考えたら禁煙にするメリットってあんまり見えないんだよ。



田端さん:
何が言いたいかというと、スタバにとって禁煙とは、目先の損得を超えたDNAというか、コーヒー屋としての哲学みたいなものだと思うんだよね。

これがまさにブランディングなの。経済的には非合理だったとしても、絶対ゆずれないことや、にじみ出てくるもの。

天野:
なるほど…! じゃあドトールの場合は?

田端さん:
世の中の流れに合わせて店舗のスタイルを変えていくことは素晴らしいことだし、経営的にも正解なんだと思う。でも“ブランディング”という観点では…

天野:
寄与してないかもしれないと。

田端さん:
俺、そろそろルノアールが「喫煙者以外お断り!」なんて打ち出したら、ブランディング的には逆に面白いなと思ってて。

天野:
たしかにタバコのイメージ強いですね。

田端さん:
そうそう。みんな薄々そう思ってるじゃん。それこそがブランドなわけ。

最近喫煙者は迫害されてるから、「さすがルノアール!」って拍手喝采すると思うよ。


恒例の田端クイズ、今回も納得感がすごかった

セルフブランディングなんてクソだ」と言うことが、最高のブランディングになる?

天野:
つまり、それを個人のブランディングに置き換えると…?

田端さん:
まわりがやってることに合わせるんじゃなくて、自分からにじみ出てくるものが何か考えるべきなんだよね。

俺、よく「炎上マーケティング」とか言われるんだけど、Twitterで話題にされることで、別にそんなに得はしてなくて。むしろ損してるかもしれないぐらい。

でも、思ったことはネットで自由に言いたいタチだから。スタバの“哲学”みたいなカッコいい話ではないけど、それがブランディングってことだと思うんだよね。

天野:
何かを狙ってツイートしてるわけじゃないってことなんですね。

田端さん:
うん、最近よく「炎上マーケティングでフォロワー増やします!」「1万人目指します」とか言ってるヤツいるけど、そういうヤツらって全然面白くないじゃん。

言いたいことも特にないのに「炎上させてフォロワー増やしたいです」なんて…俺に言わせれば意味がわからないというか本末転倒なのよ。


これ、うなずいてる人多いと思います

田端さん:
逆説的だけど、「セルフブランディングなんてクソだ」って思ったら、その本音をパブリックに言うことが最高のセルフブランディングになるんですよ。

この逆説に気付けるかどうか?がセルフブランディングのすべてと言ってもいい。

天野:
あああ、そういうことか…!

フォロワー○人目指してます!」みたいなのはやっぱり微妙なんですね。

田端さん:
「目標がないとPDCAがまわせないから目標数字を置く」ってのはわかるんだけど、結局、「フォロワー1万人になって、それでどうすんの?」って思うもん。



田端さんの語る「社内ブランディング術」とは

天野:
R25世代のビジネスパーソンのために「社内ブランディング」についてもお伺いしたいんですが…

田端さんってよく、社内の人から「ああ見えていい人ですよ」って言われてますよね。何かそういうブランディングをしてるんですか?

田端さん:
いや〜、別に社内ブランディングを意識してるわけじゃないけど、とにかく自分にできることは何でも協力するようにしてる

社内でのコミュニケーションに関しては、ひとつ決めてることがあって…

天野:
なんですか?

田端さん:
同じ会社の身内に、社外のマーケットの論理を持ち込むべきじゃない」ってこと。会社内は生き馬の目を抜くようなマーケットではないし、そこは基本的に仲間だという気持ちでコミュニケーションするね。

天野:
社外にはビシビシ言う田端さんも、社内には接し方が違うんですね。

田端さん:
そう。家庭と同じでさ。たとえば、嫁さんに「ちょっと美容院に行ってくるから、しばらく子ども見ててくれない?」って言われて「俺の時給いくらだと思ってんだよ、そんなのできるか!」って言ったら家庭崩壊でしょ(笑)。

経済合理性だけでは正論かもしれないけど、そこはもうマーケットのロジックで考えちゃいけないフィールドなのよ。


「いや、あんた社内でも家庭内でも好き勝手言ってるじゃんって怒られるかもしれないけどさ(笑)」

天野:
「服装や髪型でブランディングをする」みたいなのはどうですか?

田端さん:
それはまあ表面上の話だよね。「社内ブランディング」に関しての本質を言うなら、矛盾するようだけど「敵を作ることを恐れるな」ってことだね。

天野:
身内としてコミュニケーションするという話でしたが…敵を作ってもいいんですか?

田端さん:
むやみにケンカしろってことじゃないよ。でもこうあるべきだっていう像を描けていれば、誰かとぶつかることもある

敵を作るっていうのは、「とりあえずその場をおさめるよりも、優先したい大義がある」ってこと。

ブランドって何かを大事だと思うことなんだよ。何かを大事だと思ってたら、ニュートラルなんかじゃいられない

そのときの衝突を恐れないことが、本当の意味での「社内ブランディング」じゃないですかね。

天野:
なるほどなあ…!



SNSで“何者かになれる”とチャンスをつかもうとする人も多い昨今。

一方で、何をすればいいか分からなくなってしまったり、躍起になっている人を見てゲンナリしたりすることも増えましたよね…。

田端さんの教えてくれた「本質的なブランディング術」を胸に、軽やかにSNSを駆使していきましょう!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=中山駿(@shunnakayama_)〉

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