ノムさん「高校野球のタイブレーク制は大反対」。野球本来の醍醐味が失われる危険性

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「攻撃の形を作り上げてから得点する」という野球の醍醐味



 これからの野球は、私たちが現役を送っていた時代とは大きくかけ離れたものが増えてくるに違いない。その1つが高校野球における、延長13回からの「タイブレーク制度」である。
 
 正直言って、私個人はこの制度には大反対である。いきなり無死一、二塁のシチュエーションとなって攻撃が開始される。子どもたちの体力の消耗度を考えて、「そのイニングの間で得点が入って決着しやすいように」という発想から生み出されたアイデアかもしれないが、野球本来の「攻撃の形を作り上げてから得点する」という醍醐味が失われてしまうような気がしてならない。
 
 たしかに小中学生の体の出来上がっていない子たちに対しては、有効かもしれない。だが、高校生の段階になってこの制度で野球をやること自体、間違っている。「決着がつくまでやればいいじゃないか」というのが本音だ。
 
 それでは高校野球の現場ではタイブレークに備えての練習を行っているのだろうか? 2018年の夏の甲子園の100回大会で2試合、タイブレークになった試合があったが、このうち3校は「タイブレークに備えての練習はしていなかった」というではないか。「日頃からタイブレークに備えての練習を行うのであれば、試合と同じ走者、同じ打者、同じ打順で始めなければならない。そこまで想定するのは難しい」
 
 このように現場の指導者たちは話しているというが、これはもっともなことである。たとえばタイブレークのイニングになって、下位の打者が先頭となった場合、送りバントもあれば、ヒットエンドランだって考えられるだろう。だが、中軸を打つ打者が先頭になった場合は、送りバントよりは強行策のほうが得点になる確率が高くなる。それをあえて練習で想定するのではなく、「もしタイブレークの場面が訪れたら、そのときの状況でサインを出す以外にない」という考えをしたって、おかしな話ではない。

「タイブレークの練習そのものには意味がない」



 先の100回大会の話で言えば、4校のうち1校は、タイブレークの練習を日頃から行っていたそうだ。だが、結果的にこの学校は負けてしまった。どうもその学校は「まずは1点をとってリードすること」に主眼を置いた攻撃をしていたようだが、この考え方も間違っている。
 
 タイブレークになったら、先攻のチームは、「1点と言わず、できるだけ多くの点をとること」を重視し、後攻のチームは、「相手よりも1点でも多く得点をとること」をしなければ負けてしまう。当たり前のことではあるが、タイブレークの練習というのは、先攻、後攻のどちらを選択するかで攻撃のバリエーションが変わってくる。
 
 つまり、先攻のチームが1点しかとっていなければ2点以上とればいいわけだし、5点とられたら6点以上とらなければ負けてしまう。そうなると走者を塁上にためて、攻めることで状況を打破するしか打つ手はない。
 
 このようにタイブレークという制度は、ゼロの状態からチャンスを作るというプロセスが省かれてしまうことで、野球の醍醐味は失われてしまうのではないかと危惧している。
 
 もちろん決まった以上はルールに対応していかなくてはならないのもまた事実だが、「タイブレークの練習そのものには意味がない」ということを、ここではあえて付け加えさせてもらいたい。
 

著者プロフィール



野村克也
1935年、京都府生まれ。峰山高校卒業後、1954年にテスト生として南海ホークス(現福岡ソフトバンクホークス)に入団。3年目でレギュラーに定着すると以降、球界を代表する捕手として活躍。70年には南海ホークスの選手兼任監督に就任し、73年にパ・リーグ優勝を果たす。78年、選手としてロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)に移籍。79年、西武ライオンズに移籍、翌80年に45歳で現役引退。27年間の現役生活では、三冠王1回、MVP5回、本塁打王9回、打点王7回、首位打者1回、ベストナイン19回。 三冠王は戦後初、通算657本塁打は歴代2位の記録。90年、ヤクルトスワローズの監督に就任後に低迷していたチームを再建し、98年までの在任期間中に4回のリーグ優勝(日本シリーズ優勝3回)を果たす。99年~2001年阪神タイガース監督。06年~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。著書に『野村ノート』(小学館)『野村の流儀』(ぴあ)など

書籍概要



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