-そのための具体的な取り組みとして新たな拠点を設立されました。
 「青色LEDの材料である窒化ガリウムの結晶成長から評価、デバイス試作、システム応用までを一気通貫で行う実験拠点『エネルギー変換エレクトロニクス実験施設(C―TEFs)』と、研究拠点『エネルギー変換エレクトロニクス研究館(C―TECs)』が18年から始動しています」

 「これら施設では、窒化ガリウムの共通技術の開発に取り組み、出口戦略として参画企業に事業化を目指してもらいます。さらに名大を中心に企業や大学、国立研究開発法人など72機関が参加してGaN研究コンソーシアムという組織が立ち上がっています。また海外機関から『顧客として技術の種(シーズ)があれば買いたい』という申し出があります。今後は海外との機関との連携もあるかも知れません」

「工学」の考え、広めたい
 -日本の大学では、新しいモノを作り製品化するという『工学』の考えが根付いていないと指摘していますね。
 「日本の大学の教員の考えとして、日本の工学は米国ではいわゆる理学に相当する場合が多いです。学問に引きこもり、本来の工学のセンスが欠けているのではないかと思います。こうした問題を解決する上でもオープンイノベーションの効用は大きいですね。産学連携の良いところは企業の人が大学に来て一緒に研究開発を進める点です。大学は企業の人の動きを、一方で企業の人は大学の若い学生を身近で見られるため、互いの存在が刺激になります。名大を中心とする産学連携拠点で研究と教育との両輪の取り組みをきっかけに、『工学』の考え方を日本全体に広げたいと思っています」

 -産学連携の教育的効果として期待することは。
 「50年までに温室効果ガスの排出量を8割削減するという目標がありますが実現は非常に困難でしょう。こうした難解な課題に先頭に立って取り組むのは今の学生やその学生が教える次の世代の学生です。若い人が本気でやらなければ達成できない課題は多く、次につなぐため、オープンイノベーションを通して、こうした研究者を育てることが必要だと考えています」 

 -産学連携をうまく進めるために重要なことは何でしょうか。
 「産学連携の拠点として企業から『大学主導で企業を集めてほしい』との要望がありました。企業同士では言いにくいことも、大学という場を利用すれば互いの立場を超えて気楽に研究の議論ができる可能性があります。産学連携において企業間の壁が低くなることのメリットは大きいと思います。ただし窒化ガリウムを使い『省エネルギー化を目指す』という誰もが納得するテーマを掲げたことが成功するための前提にあると思います」

窒化ガリウムが拓く未来
 -窒化ガリウムの実用化はどのような社会や夢の実現につながるとお考えですか。
 「大きな目標として無線による充電技術を実現したいと思っています。例えば電気自動車(EV)の航続距離を長くするためにはバッテリー自体を大きくするか、走りながら充電するかの2択となります。この選択肢を比べると、走りながら充電する方が実現しやすいでしょうね。そのためには走行しながら無線充電できる技術が必要になります。さらにスマートフォンへの無線電力供給も可能になるでしょう。また高齢化で増加する介護や工場内での運搬に使うロボットへの無線での電力供給は今後の重要な技術となるとみています」

 -こうした技術の実現には何が必要でしょうか。
 「窒化ガリウムはシリコンに比べ半導体として高い性能を持ちますが、高コストであることが課題です。シリコンであれば12インチの結晶の製造コストは数千円で済みますが、窒化ガリウムでは2インチ程度の小さな結晶しかできずそれでも10万-30万円かかってしまいます。少なくともこのコストを10分の1以下に抑える必要があります。窒化ガリウムの日本の基板市場の占有率は85%以上で米欧はこの分野に手を出せません。ぜひ国内の大学で窒化ガリウムの低コスト化に取り組むべきだと考えています」