汗をかく必要がないところで、汗をかくように強いている日本の環境がおかしい(撮影:尾形文繁)

人生100年時代、長い人生を豊かに送るために、日本人は働き方をどう変えていくべきなのか。
2009年よりカルビー株式会社のCEOとして業績をV字回復させ「カリスマ会長」と呼ばれてきた松本晃氏(71)が、今年3月突然退任、RIZAPグループ株式会社代表取締役COOに就任して業界を驚かせた。
小泉小委員会で日本の未来についてタブーなき激論を交わし、『人生100年時代の国家戦略 小泉小委員会の500日』でそのすべてが明かされた衆議院議員・小泉進次郎氏(37)とともに、世代を超えて日本人の働き方について語り合った。

人生100年時代の「食」と「健康」

小泉進次郎(以下、小泉):僕は、松本さんのことを、すごくいい意味で「脳みそが溶けている」方だと思っているんです。一定のところに染まらず、つねに振れ幅を持ち、柔軟な発想を持ち、自由です。それを僕なりに「脳みそが溶けている」と表現しているんです。だから、今回カルビーからRIZAPグループのCOOに就任とお聞きしても、正直、驚きませんでした。


松本晃(以下、松本):まあ、周りの反応は、あいつは相変わらず変わったことをやる奴だなという感じですよ。そもそも、ぼくは伊藤忠商事で医療機器を手掛けて、ジョンソン・エンド・ジョンソンでヘルスケアにどっぷりと浸かりました。そしてその次が、なんの関連もないスナック屋さんで「かっぱえびせん」でしたからね。

小泉:しかし、すべて「食」と「健康」ですね。特に僕は、これからの時代、スポーツが本当に大切になると思っているんです。僕は小学校2年生から高校3年生まで野球をやってきた生粋の体育会系で、体を動かすことが大好きなんですが、いまは国会で長時間座っていなければならない。それがストレスなんです。実は、僕のオフィスにはいすがありません。国会では嫌でも座らなきゃならない分、事務所には座れない環境をつくって、立って仕事をしているんです。だけど、世の中には意外と運動をしない人が多いんですね。しかし、運動が縁遠いものになると、いずれ健康問題にかかわってきます。

2022年には団塊の世代の方が後期高齢者に突入しはじめ、2024年には人口の半分以上が50歳以上になる。そして、2025年には団塊の世代のすべての人が75歳に入り込む。医療費と介護費は膨張しますし、さらに寿命は延びて人生100年となる。どうすればよいのか? RIZAPのように体を動かしてスポーツや健康づくりに取り組みやすい環境をつくる。これはみんなにとっていい社会変革でもあると思いますよ。


小泉 進次郎(こいずみ しんじろう)/衆議院議員。1981年生まれ、神奈川県出身。関東学院大学経済学部卒業、米・コロンビア大学大学院政治学部修士号取得。米国戦略国際問題研究所研究員、衆議院議員秘書を経て、2009年に初当選。内閣府大臣政務官、復興大臣政務官、党農林部会長、自民党「人生100年時代戦略本部」事務局長、党筆頭副幹事長などを歴任(撮影:尾形文繁)

小泉:僕は、街づくりに関しても、運動が当たり前になるような仕掛けを作っていくことが大切だと思っています。たとえば、議員会館と国会議事堂には、地下連絡通路があります。ジャンプすれば届くほど天井の低い通路なんですが、僕はいつも「この天井に雲梯(うんてい)がついていれば、移動しながら運動できて一挙両得なのになあ」なんて思うんですよ。階段もそう。バリアフリーのほかに、あえて負荷をかけたい人のための「超バリア」があってもいいんじゃないか、なんてね。

僕が運動に親しむことを奨励するのは、日本という国を「病気になってからお金を使う国」から、「病気にならないようにお金を使う国」に変えたいからです。たとえば、公園を活用する手もあると思っています。公園に、健康器具を含めたジムのような機能があって、ゼロ歳から100歳までが集う。規制を緩和して、飲食や営業もできるようにする。RIZAPにとっては、会社の業績に反する話かもしれませんが、そういう社会をつくっていけば、長い人生、そう悪くないものになるんじゃないかと思っています。

松本:おっしゃるとおり。まったく同感しますよ。

「息子を超一流の経営者にしたい」

小泉:松本さんは、大企業カルビーから、創業15年の若い会社への転身ですね。どういった感覚なのですか?

松本:RIZAP創業社長の瀬戸健さんは、小泉先生と同年代なんですよ。僕の息子がちょうど瀬戸さんと同い年で40歳。年齢でいうと、父親みたいなものです。ですから、息子をなんとか超一流の経営者にしたいという感覚ですね。特に、日本の社会というのは瀬戸さんのような若くして成功した人を、みんなで潰してしまう。現に、潰された方もいますからね。

小泉:具体的には、どういったことをアドバイスされていらっしゃるんですか?

松本:会社として必要な基本です。RIZAPグループという会社は非常に成功思考ですから、足をすくおうとする人間は当然現れますし、自分でコケる可能性もあります。自分がコケることも、仕事で失敗することも、どうということはないんですが、たとえば、社員の一人が事件を起こす、コンプライアンスの問題などは、誰がやっても許されない時代ですからね。

最初にやっておくべきだと思っているのは、コーポレートガバナンス。いまのRIZAPが失格とは思いませんが、必ずしも満足できるレベルにあるとは思いません。土台をしっかり作っておかないと、会社というところは危ないんです。いまの時代は、何かあればすぐに世間みんなからたたかれる。成功した人間には、みんなが嫉妬心を持ちますし、出てきた者は潰してやれという人は必ずいますからね。

――RIZAPグループでは、若手の瀬戸さんがCEO、そして松本さんがCOOという立場になられましたが、どのようなご感想をお持ちでしょうか。

松本:なんの違和感もありませんよ。そもそも僕は、仕事をやるためにRIZAPへ行ったわけで、CEOでもなんでも、肩書はどうでもいいわけです。それよりも僕は、カルビーで9年間CEOでしたが、CEOというのはCOOにちゃんと仕事をやらせてあげる立場。だからあまり口は出さない。そうするとフラストレーションが溜まるんですよ。だから今回は、あえてCOOをやってみたいというところはあります。ただ、RIZAPは瀬戸さんが社長なので、できるだけ彼を立てていこうと思っています。


松本晃(まつもと あきら)/RIZAPグループCOO。1947年、京都府生まれ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。1972年伊藤忠商事入社。1986年に子会社センチュリーメディカルに取締役として出向し、倒産寸前の会社の売上高を6年で約20倍にする。1993年ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカルに入社。1999年にジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長。2009年にカルビー会長兼最高経営責任者(CEO)。2018年より現職(撮影:尾形文繁)

松本:人生100年時代と言えば、リンダ・グラットン氏の『ライフ・シフト』という本に、これからはマルチステージの生き方になって、若い人が上司になることもありうる、というようなことが書いてありましたね。もともと僕は、あの本に書かれている「20年学び、40年働き、20年余暇を過ごす」という旧来型の3ステージの人生が、自分には向いていないと思って生きてきました。

仕事というのは、とにかくやりがいがあるものなんです。世のため人のためになって、儲かる。儲かると、いいことがある。もし、毎日ゴルフをやったり旅行に行ったりするのが楽しいのなら、そうしますけれど、それが本当に仕事よりも面白いのかというと、僕にとってはそうでもない。仕事のやりがいというものは、なかなか捨てられないんですよ。

僕が仕事を辞めることがあるならば、ボケたり、身体がダメになったりしたときです。でも、仕事をしているほうが健康なんですよね。人生100年、人それぞれの過ごし方でいいと思いますが、「20年学び、40年働き、40年余暇を過ごす」なんてのは無理でしょう。40年も余暇なんて経済的にも持ちませんよ。やはり、75歳くらいまで、少なくとも55年間くらいは働いたほうが、人生100年の生きがいも感じられるんじゃないかと思いますね。

就職でも就社でもない、就ライフだ

小泉:55年間働くとおっしゃいましたが、おそらく、そういった区切りさえもどうでもいいのかもしれませんね。いま、この時代に問われていることは、「働く」という概念そのものなのでしょう。僕や松本さんは、仕事に燃えているとき、「働いている」という感覚ではないと思うんです。最近は、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が根付いてきましたが、僕は、「政治という職業」ではなく、「政治家という生き方」をしていると考えていますから、「ワーク・アズ・ライフ」という言葉のほうがフィットするんです。


これは「学ぶ」ということにも当てはまります。僕は、学生さんにこう言うんです。「大学には18歳から22歳まで4年間通うものと決めなくていいんだよ。何歳でもいいんだ。と。

ある学生さんが「新聞社の政治部の記者になりたいんです」と言って、アドバイスを求めてきたんです。僕はこう答えました。「あなたはそもそもなぜ記者になりたいの? 新聞社に入るのは、『就社』。新聞記者として働くのは『就職』だよね。でも、多くの人が知るべき世の中に埋もれた、報じるべきことを報じたい、という目的があるなら、実はそれは新聞社である必要も、新聞記者である必要も、政治部である必要もないかもしれない。新聞に限らずさまざまなメディアがあるし、誰もがメディアになれる時代だ。自分が本当にやりたいことはなんなのか。そこに立ち返るのが『就ライフ』だよ」と。自分がどう生きたいのか。そこをしっかり持っていることが大事だと思いますね。

松本:僕は、やっぱり仕事してきて面白かったなと思っていますよ。それなりに世の中の役に立ったんじゃないかな。たくさんの人の命も助けたし、人を喜ばせたし、社員たちも喜んでくれたし。僕は会社の経営者をやってきて、何がいちばん面白いかって、社員の月給を上げることだと思っているんですよ。


会社の経営とは、すべてのステークホルダーを喜ばせること、それが僕の定義です。そして、ステークホルダーには順序があります。1番は顧客と取引先。2番は従業員とその家族。3番はコミュニティ。そして、最後が株主です。その順番どおりに喜ばせていかないと、うまくいかない。小泉先生も、ちゃんとみんなを喜ばせておられますね。

小泉:そんなことはないですよ。結構、敵もいます。

松本:いやいや、何をやっても抵抗勢力は必ずいるものです。仕組みや制度を変えるということは、必ず損する人が出てくるということですから。やはりマジョリティを喜ばせることです。

小泉:変えるというのは、自分のエネルギーコストを含めて、ストレスもかかりますよね。それでもやるのは、やはり、変えた先に広がる景色が描けているからだと思うんです。その景色が見えていれば、変える過程で障壁があっても、自分にかかる負荷が大きくてもやる気がわいてくる。

それに、僕は、日本人の力を信じているんです。強烈に。海外留学の経験もありますから、日本人、そして日本という国は本当にすごいと痛感しています。いまの日本がこのままであることは、それが限界なのではなくて、本当はもっとできるのに「できない」と思い込んでいるだけなんですよ。

松本:まったく同感です。

小泉:人口減少。高齢化。日本は厳しい。お隣の中国を見て「あんなに大きく成長して、どんどん置いて行かれるなあ」と思っているでしょ。確かに中国はすごい。スケールもかなわない。だけどね、「中国のような社会を実現したい」と考える国がどのくらいあるだろうか? やっぱり日本のような社会にしたいと考える国のほうが圧倒的に多いと思いますよ。

だって、いつも監視されていて嫌じゃないですか。便利と引き換えに何を失っているのか。政治家は批判もされますし、いろんな意見を言われますが、それは日本がいろんなことを言える自由のある国ということなんですよ。日本にはまだまだやれることがある。その、日本の潜在力に対する強烈な思い。これがエネルギーになっています。

誰が決めた? 無意味な就業規則

松本:どこの会社でも、どこの国でも、可能性がないなんてことはめったにありませんよ。必ずある。その可能性をどう引き出すかということです。だからまずは、あらゆることを変えてみるということですよ。変えてみて、失敗したなら、また直せばいいんだから。

会社なんて、環境と制度を変えれば変わるものです。考えてみれば、会社の中には変な制度がいっぱいあるわけですよ。たとえば、就業規則。ほとんどの会社が同じことを守ってるけど、あんなものは大昔の規則です。どうして朝9時に来て、18時に帰るのか? 誰が決めたのか? 僕は、基本的には成果主義者ですから、成果が出せるなら好きなようにやればいいと考えています。だから、カルビーでは完全在宅勤務に変えました。年に1回も会社に来なくていい、好きにやって成果を出してください、と。

松本:若い人の扱いもよくないですよね。会社には、いまだに偉い人から下の人までヒエラルキーがあるでしょ。そんなことはやめて、若い人には勝手に好きなことやらせてあげればいいんです。もちろん失敗はするでしょう。でも、若い人が失敗したところで、会社はめったに潰れません。会社を潰すのはトップなんですよ。だから、若い人には自由にやらせてあげて、その代わり、失敗したときには、なぜ失敗したのかをちゃんと学ばせる。負けに不思議の負けはないんだぞ、と。

小泉:僕は、自民党もこのままではダメだと思って、すごく小さなことだけどペーパーレス化に乗り出したんです。自民党の会議には若手官僚がたくさん来るんです。前日の夜に何百部もの資料を用意して、修正が入ると全部捨てて、作り直して、それを封筒に入れて検品して……。そして、早朝から段ボール詰めにした資料を車で運んで、議員一人ひとりのテーブルに配る。厳しい勉強をして東大や有名大学に入って官僚になった若者たちが、そんなことをやらされているんですよ。

ところが、ペーパーレス化にはとんでもない抵抗勢力が現れました。私の耳に入ってきたのは、議員の秘書が「仕事がなくなる。紙の資料を渡しに行った先で関係を深めていたのに、それができなくなる」と。あきれましたね。紙の資料が欲しければ自分で印刷すればいいし、紙を使わなくても関係を深める方法はほかにいくらでもある。

みんなの仕事を楽にするというのは、仕事を減らすことそのものが目的ではなく、汗をかくべきところでかくための環境づくりなんですよ。働き方改革にしても、単純に「長時間働くこと=悪」という考えは違うと思います。汗をかく必要がないところに、汗をかくように強いている日本の環境、これがおかしいんです。

会社とは、魅力的な人間をつくる場所

松本:僕も小泉先生の考えと同じです。会社とは、本来、魅力的な人間をつくる場所なんですよ。魅力的な人はいい仕事をします。いい仕事をすると会社が栄える。そして、みんなに返ってくる。ところが、いまの会社は、若い人をどんどんダメにしているでしょ。何の意味もない仕事を、みんなが「これが正しい」と思ってやり続けている。大部分は勘違いなんですよ。

小泉:お話しさせていただいて、やはり「溶ける」ということが大切だなと改めて思いました。今後は、日本の産業構造も溶けていくでしょう。業界を超えたビジネスが生まれているんだから。

松本:かなり溶けているんですけど。たとえば、新聞の「株式」欄。「食品」「薬品」と業種順に掲載されていますが、ここはもはや食品会社じゃないだろうということもある。すでにぐちゃぐちゃになっているんですよ。ウォール・ストリート・ジャーナルはABC順に掲載していますよ。

小泉:最近は、クールビズでも思うところがある。僕は夏でもたまにネクタイを締めるんです。そういうスーツスタイルが好きなんですよ。ところが、「クールビズなのになんでネクタイしてるの?」なんて言われる。クールビズ期間中の肌寒い日に無理にクールビズをする必要なんてないのにネクタイをしないで「寒い、寒い」と言っている人もいる。もっと自由に、自分の頭で考えて、自分らしくいられる国にしたい。

全国で、農業・漁業や地域のために頑張る現場の方々に会ったりすると「日本は大丈夫だ」と思うんですよ。でも、国会に戻ると「大丈夫か!?」と思ってしまう。国民の皆さんも、きっとそう感じていると思うんです。国会を見て、「よし、この国は大丈夫だ」と思っていただけるようにしたい、そう思っています。