初対面では相手の名前を連呼。起業家けんすうの「人見知りのためのビジネスTips」
SNSで目立つのは、強者の意見。デキるビジネスマンが、とにかくまぶしい。自分も仕事を頑張っているけど、なかなか強気に振る舞えない…そんな人も多いのでは?
ということでお話を伺うのは、19才で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げて大学在学中に起業、現在はIT企業の取締役をつとめるけんすうさん。
【けんすう】1981年生まれ。19才で学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学在学中にネット企業の社長に就任。2006年、リクルートに入社。2009年に退職し、nanapi代表取締役に就任
前回の記事では「リスクをとれ」「実名で発信しろ」などの強者のアドバイスをやさしく擁護くれたけんすうさんですが、意外にも(?)自らのことを「水気の多い豆腐くらいメンタルが弱い」と評しています。
今回は、そんなけんすうさんに「人見知りでも即実践できるビジネスTips」を教えてもらいました!
〈聞き手:ライター・小沢あや〉
「緊張して、自己紹介でスベってしまう」…どうしたら?
小沢:
まず、つまずきがちなのがトークの“つかみ”自己紹介。けんすうさんは、どんなテクを使っていますか?
けんすうさん:
よく「苦手」っていう人がいるんで聞いてみると、用意も練習もしてないんですよね。それは失敗するよって思っちゃいます…
事前に用意すれば、誰でもできるようになるんですよ。自己紹介は「10秒、30秒、1分、3分」版をそれぞれ用意しておいたほうがいい。
小沢:
キャッチフレーズ的なもの、長尺のもの、何パターンか用意するんですね。
けんすうさん:
そう、いろんな場面で使えますよ。
人って緊張すると頭で考えられないから、「体に染み付いてる習慣」に頼るんです。徹底的に染み込ませておいたほうがいい。
10秒の自己紹介を100回練習しても、1000秒でできる。ずっと必要になるものだから、投資としてはお得だと思いますよ。
小沢:
影で壁打ちのような努力をしてるんですね!
けんすうさん:
僕はプレゼン資料や原稿も、事前にめっちゃ作り込みますよ。
取材やパネルディスカッションの前も、「これ、ログミーにそのまま載せられるな」というレベルで台本を準備してます。
小沢:
セルフログミー!(笑) 会話の流れを想定して、台本を作るんですね。
けんすうさん:
僕、すごいビビりなんですよ。怖いから、絶対準備します。「あの人はこういう質問をしそうだな」とかね。想定問答していると、言葉が詰まらず出てくる。
「みんなの前で喋るのが怖い」という人も、事前準備さえすれば大丈夫なんです。やってみてください。
小沢:
それでも緊張してしまう…という人はどうしたらいいですかね?
けんすうさん:
あ、「緊張」に対しては、僕は「手足を温める」「呼吸を深くする」をやってます。緊張すると手足は冷たくなるので、温める。
呼吸は、5回ぐらいで息を全部吐ききるようにすると、めっちゃ苦しいので自然と大きく息を吸えます。このふたつを繰り返してると、緊張がほぐれますよ。
出典 作成:いしかわゆき
「初対面の人との会話が苦手」…どうしたら?
小沢:
「初対面の人と話すことがなくて、雑談が苦手…」という人もいるようなんですが、どうしたらいいでしょうか?
けんすうさん:
僕は、「10分間に相手の苗字を何回言えるか」試してますね。
小沢:
えっ、どういうことですか? ゲームみたい。
けんすうさん:
「人が興味を持っていること=圧倒的に自分のこと」っていうデータがあって。
しかも、名前を呼ばれると、その相手のことを好きになるらしいんですよ。だから、意識して相手の名前を呼ぶ。
小沢:
論理的ですね。
けんすうさん:
話す内容より、名前を呼ばれたほうが印象に残るなら、KPIをそこに設定するのがいいはずなんですよ。
「小沢さん、今日ここまでどうやって来たんですか?」「小沢さん、ランチどうするんですか?」と。常に相手の名前を出す。
そうると、相手に多くの質問をしなきゃいけなくなるから、自然と聞き役の姿勢になれるんですよね。相槌を打つ時にも「小沢さん、そういうタイプなんですね〜」と、名前を入れ込む。
小沢:
実践すると、どうなるんですか? ちょっと不自然とかにはならないですかね?(笑)
けんすうさん:
それがね…なんと、「けんすうさんは話すのが上手」という評価になるんですよ。僕はぜんぜん話してないのにですよ。
相手が気持ちよく喋ってるから(笑)。相槌を打っているだけなのに、チョロいですよね。
小沢:
もはや、会話っていうか音ゲーじゃないですか(笑)。自分のことを喋らなくても、コミュニケーションはうまくいくんですね。
けんすうさん:
いけちゃいますね。自分から発信するより、情報を受け取る側でいたほうが、圧倒的に得だと思ってます。
出典 作成:いしかわゆき
「社内のコミュニケーションが苦手」…どうしたら?
小沢:
社内での会話や、コミュニケーションに対してはアドバイスはありますか?
けんすうさん:
「ゴマを擦りつづけると、圧倒的に出世する」という研究結果があるんですよ。だから、自分をとにかく下げて周りを上げる。それに徹しちゃっていいと思います。
僕は、「常にその場で自分が一番下っ端」として振る舞いますね。
得ですよ〜、格下だと思われると。おごってもらえるし。超得じゃないですか?
小沢:
…素朴な疑問です。その下っ端後輩キャラ、30代半ばくらいで限界こなかったんですか?
けんすうさん:
こないですよ。年下にも、常に低姿勢だから。
学生起業家にも、「タメ口でアドバイスして」って言うんです。最初はみんなビビるけど、だんだん本当にナメてくるんですよ。「けんすうくん、もっとこうしたほうがいいよ」って(笑)。
おじさんが優秀な年下にアドバイスもらえるって、すごいことじゃないですか? アドバイスはされるほうが得ですから。
小沢:
アラサーにもなると、「ナメられない」「デキる風に見せる」スキルが必要だと思い込んでいました。目から鱗だ…
けんすうさん:
むしろ、僕が若い人にアドバイスするときは、僕がお金を払います。
小沢:
えっ、けんすうさんがアドバイスをして、さらにお金を渡す…? ちょっと意味がわからない…どういうことですか?
けんすうさん:
おじさんがアドバイスをしていいことって、「気持ちよくなる」だけですよ。
自分が気持ちよくなるだけなら、マッサージと一緒なんですよね。だから、お金を払います。
おじさんにアドバイスさせてあげてお金をもらうサービス、作ったら需要あると思いますよ。若い人にアドバイスしたいおじさん、いっぱいいるので。
小沢:
そのサービスめちゃめちゃ流行ってほしいです。
出典 作成:いしかわゆき
「職場に雰囲気を悪くする人がいる」…どうしたら?
小沢:
会社員のお悩みとして結構多いのが「職場の雰囲気を悪くする人への対応」。
不機嫌であることを大げさにアピールする人がいたりすると、すごく気をつかいますよね…
けんすうさん:
今なら、「あいつイライラしてるぜ! ウケる、何やったらキレるかな」って、めっちゃ笑いますね。
不機嫌な人に対して、周囲が気を使っちゃうからいけないんですよ。
それって、不機嫌でいることにインセンティブを与えてることになっちゃうじゃないですか。絶対ダメ。
小沢:
イライラすることがばかばかしくなるような環境をつくればいい、と。
けんすうさん:
まだ若い会社員で、そんな強く出られなくても、「イライラしてる人は無視」ぐらい決めちゃったほうがいいです。
泣いたらおもちゃ買ってもらえると思ってわざと泣く子供と一緒なんですよね。
派閥とかがあっても、僕はなるべく誰にでも機嫌よくするようにしてますよ。そっちのほうが、お得じゃないですか。
出典 作成:いしかわゆき
小沢:
ここまで「得」っていうワードがたくさん出てきましたね。けんすうさんの優しさは、自分の利益を最優先した結果なんですか?
けんすうさん:
そうっすね! 人見知りだからこそ、意図的に全員にいい顔してると、圧倒的に得なんです。その「得」を最優先にして、次に周囲の幸せを考える。
それをみんなが実行すると、結果的に社会全体の幸福度が上がっていくと思います。
まとめ
取材中も、とにかく穏やかで低姿勢なけんすうさん。笑顔の理由は「自分がお得だから」。本当に菩薩みたいな人だとしたらまぶしすぎるなと思ったので、打算的だったことに安心しました。
けんすうさん、超実用的なアドバイスをありがとうございました!
〈取材・文=小沢あや(@hibicoto)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影・イラスト=いしかわゆき(@milkprincess17)〉