かつては車体後部から地面にゴムのベルトを引きずって走行していた車両を見かけましたが、現在、この商品は取り扱いも少なくなってきています。そもそもどのような役割があるのでしょうか。

あのベルトは電気を通す

 リアバンパー付近からゴムのようなベルトを引きずっているクルマがあります。しかしながらその数は、とても少なくなっているようです。


アースベルトを装着したクルマ(画像:@taka_channel86さん〈Twitter〉)。

 あのベルトは、「アースベルト」「アースゴム」などと呼ばれ、一部のカー用品店などで現在も販売されています。ある製造メーカーによると、クルマに溜まった静電気を大地に逃がす「アース」の役割があるとのこと。

 ベルトには導線が内蔵されていて、電気を通す性質があるそうです。現在のクルマはバンパーが樹脂製で電気を通さないため、車体下のマフラーやタンク付近など、金属部品を探して取り付けるのだといいます。

 ただし、人体に溜まった静電気の除去には意味がないとのこと。人体に溜まった静電気を除去する場合はキーやピラーの金属部を触る必要があるといいますが、そのほかにも人体の静電気を除去する様々なグッズが登場したこともあり、アースベルトのニーズが少なくなっていったのではないかと、製造メーカーは話します。

車両の静電気除去、危険物を扱う大型車ではどうしているのか

 車両に溜まった静電気を放電するという役割は、たとえば危険物を扱うタンクローリーなどでは、火災予防の意味をもつことかもしれません。かつてはアースベルトではなく、金属チェーンを引きずって走る大型車も見られましたが、これも目的としては同じで、車体の静電気を大地に逃がすためです。

 特装車の架装メーカーである東邦車輛(横浜市鶴見区)によると、タンクローリーなどにはアースリールと呼ばれる巻き取り式のコードが備わっており、ガソリンスタンドなどで荷下ろしする際には、これを地上設備に接続して静電気を放電するといいます。このアースリール(接地導線)は、ガソリンやベンゼンなど静電気による災害のおそれがある液体の危険物を運ぶ車両には消防法で設置が義務付けられています。

「あくまでも荷下ろし中(停止中)の静電気対策です。一般の人がガソリンスタンドで静電気除去パッドに触れるのと同じようなものかもしれません」(東邦車輛)

 では走行中の車両はというと、じつは、アースベルトのようなものがなくても静電気は地上に放電されています。ブリヂストンによると、タイヤゴムの主成分であるカーボンブラックに電気を通す性質があるうえ、一般的なタイヤにはスチールも内蔵されているので、基本的には走行しているだけで放電されているのだとか。


シリカが多く配合されたタイヤに採用されている「導電スリット」。導電性が低くなることから設けられているが、そもそもタイヤに含まれるカーボンに導電性がある(画像:ブリヂストン)。

「たとえば、燃費性能やウエット性能を向上させるためにシリカと呼ばれる物質を多く含んだタイヤは、確かに導電性が悪くなることから、導電スリットと呼ばれる微細な溝を付けて静電気の逃げ道を作ることもあります。しかしながら、このような商品もここ10年のあいだに登場したものです」(ブリヂストン)とのこと。近年目立ってタイヤの導電性能が向上したというわけではないといいます。

そもそも効果があるのか?

 カー用品総合メーカーのカーメイト(東京都豊島区)でも、かつてはマグネットで取り付けるタイプのアースチェーンを、その後はアースベルトを製造販売していたものの、10年以上前に廃盤になったといいます。アースベルトはロングセラー商品のひとつだったそうですが、あるとき効果の根拠を見直した結果、販売停止を決めたそうです。

「タイヤのなかにスチールが組み込まれた時点、これはもう大昔のことですが、この段階でもう意味がなかったのではないか、という話もあります」(カーメイト)

 いまではほとんど見なくなったアースベルトですが、現在販売されている商品のなかには「懐かしのアイテム」とうたっているものもあり、一種のドレスアップアクセサリーとして取り付けている人もいるようです。一方で前出のアースベルト製造メーカーによると、やはり静電気除去に主眼を置いている人もいて、「たとえば車内で無線を楽しむ方からは、アースベルトを装着したことで電波状況がよくなったというお話も聞きます」とのこと。

 同メーカーは「製造メーカーは本当に少なくなりましたが、当社はスキマを狙って製造を続けています」と話します。

【写真】運転後の「バチッ」を防ぐにはここに触る


金属がむき出しのドアフックに触ると静電気対策につながる(乗りものニュース編集部撮影)。