目をつぶるのは逆効果! ホラーのスペシャリスト直伝「4つの恐怖回避法」
今年も夏が来てしまいました。それと同時に、「待ってました!」と言わんばかりに舞い込む友人からの「ホラー映画を観に行こうよ!」の誘い…。
誘われてつい受けてしまうけど、私はホラーが本当に苦手。楽しむフリをして肝心の一番怖いであろうシーンではガッチリと目をつぶってやり過ごすのがデフォルトです。
でも、皆さんも一度は考えたことがありませんか。ホラーを好きになれたら人生もっと楽しいんじゃないか…と。
〈聞き手=いしかわゆき(新R25編集部)〉話を聞いたのはこの人!
【頓花聖太郎(とんか・せいたろう)】株式会社 闇代表取締役。ホラー×テクノロジー=ホラテクをテーマに、ホラーイベントの企画やプロデュース、ホラー技術の提供、ホラーを使ったプロモーションなどを行い、新しい恐怖感動を作り出している
いしかわ:
(…すでに呪われそうな雰囲気…)
トンカさん:
あ、ちょっと準備をするのでこちらを着けてもらっててもいいですか?
「…?」スチャッ
「…!! あっあかん!! それは…あかん!!」(※開発中のVRを体験中。襲い来る様々なヤバイ物をガードしているの図)
いしかわ:
(VR体験終了)はぁ…はぁ…怖すぎる…
これがマジで怖くなくなる方法があるんですか…? そもそも私は何でこんなに怖がっているの?
トンカさん:
いやいや、怖がるのは当たり前のこと。生き残る上で必要な生存本能なんですよ。そもそも恐怖心がなかったら人類はライオンにも普通に立ち向かっていって死んじゃいますからね!
ただ、それだけだと環境の変化に耐えられなくなってくる。例えば食料がなくなったら、ライオンとも戦わなくちゃならないし、新天地にも繰り出していかなければならない。
そういう、どこかで恐怖心に打ち勝つ体験が必要になってきますよね。
いしかわ:
怖がってばかりじゃ生きていけないですもんね…
トンカさん:
そう。それで立ち向かっていくうちに段々と「好奇心」が生まれてくる。そんな好奇心と恐怖心が合わさるところにスリルと快感があるんだと思うんですよ。
だから、ホラーが好きな人は恐怖自体を楽しんでいるというより恐怖を乗り越える体験を楽しんでいる。
恐怖心よりも好奇心が勝つ人はホラーを楽しめるんです!
いしかわ:
割合の問題なのかぁ。それは生まれつきなんですかね?
トンカさん:
それもありますが、一部後天的ですね。非常に「慣れ」が大事です。
脳には側坐核という快感を司る部分の近くに、恐怖心を司る扁桃体というのがあるんですけど、この2つはとても近いところにあり、扁桃体が刺激されると側坐核も刺激される、と言われています。
つまり、恐怖を感じている時は、快感も感じているんです。さらに、恐怖心には耐性ができるので、体験すればするほど、次第に快感だけが残り、「もっと怖いのが欲しい!」という依存性が生まれていくという。
いしかわ:
怖いのが気持ちいい!? そんなミラクルが…!
ホラーを怖がりすぎないためにはどうすれば?
いしかわ:
「怖がり」とそうでない人の違いがわかったところで、今日から使える「怖がらなくなるテクニック」を教えてください!
トンカさん:
まず、大切なのがネガティブな感情と結びつけないこと。
例えば、辛いものを食べるとき、「辛いのがやだ」と思いながら食べてもただ辛いだけでおいしいと感じにくいですけど、「辛いのが食べてみたい!」と食べるとおいしかったりするじゃないですか。そういう前向きに飛び込める姿勢が大事。
あとは、実践として有効なのが「アウトプット」をすることです。
アウトプット…?
トンカさん:
多くの人が誤解してると思うんですけど、ジェットコースターは叫ぶのがそんな恥ずかしくないのに、お化け屋敷は叫ぶのは恥ずかしいという風潮がありませんか?
いしかわ:
まぁ、ちょっと恥ずかしいみたいなのはありますね。
トンカさん:
本来、ホラーはビビって、それをアウトプットすることを積極的に楽しむものなんです!!
ライブやカラオケで大声を出して楽しむのと一緒。気持ちよくなるのに、声を挙げたら負け、みたいなマインドじゃ楽しいワケがないんですよ!
ぐっと縮こまっちゃうと、ストレスが溜まるだけで、更にホラーへの苦手意識が高まってしまう。だから、ホラーを体験している時はガンガン叫びまくりましょう!!
いしかわ:
叫ぶのを堪えているから辛いのか…!
…いやいや、でも、海外ならまだしも日本では「映画館では静かにしましょう」的な風潮もあって、リアクションが取りにくくないですか?
トンカさん:
そんな時は、ボディランゲージでアウトプットしていきましょう。
例えば、誰かと一緒に見ていたら、手を強く握ってあげたり身を寄せ合うだけでもアウトプットになるのでオススメです。
いしかわ:
なるほど、それならシャイな人でもできそう!
トンカさん:
あとは、どうしてもだめなシーンでは「耳をふさいじゃう」こと。ホラーは音がとても大事なんですよ。
人間は視覚だけでなく、聴覚からも「部屋の広さ」や「まわりにいる人の存在」などが、音の跳ね返りなどでわかる。
音をしっかり作り込めば、ユーザーをその世界に放り込むことができるんです。だから、怖すぎるな、と思ったら耳をふさぐだけでもとても効果的なんですよ!
もちろん、ホラーの良さ(怖さ)を完全に消してしまうのでちょっともったいないですけどね…
いしかわ:
目をつぶるよりも耳をふさいだほうがいいんだ!? めっちゃ目をつぶってた…!
トンカさん:
実は目をつぶると頭の中で想像力が働いてしまうのでもっと怖いし、嫌な気持ちが溜まってしまうんですよ! だから、耳をふさぐと良い形で怖さを軽減できます。
制作サイドは、音を出すタイミングを0.1秒レベルで調整しているぐらい、音の影響は大きいですからね!
ビビらせるにはこんな努力があった。ホラーの設計の秘密
いしかわ:
ちょっと制作の裏側の話も気になってきました。
ホラーは恐怖という感情を楽しむことを目的にさまざまな設計がされているとのことですが、具体的にどんな設計がされているんですか?
トンカさん:
僕の場合は、モチーフ・信憑性・自分への関連度の3つを変数的に組み合わせるケースが多いですね。
お人形さんを嬉々として振り回さないでおくれ
トンカさん:
まず、モチーフでベースを作っていきます。
たとえば、人形は怖いけど、ペットボトルだとあんまり怖くない。モチーフ自体にそれぞれ攻撃力が設定されているので、怖いものをうまく組み合わせた方が恐怖にうまくたどり着くわけです。
次に、信憑性。話のディテールが細かければ細かいほど、これはどうも本当っぽいぞ、と思うので、嘘っぽくない、「信じられる」話にしてあげるのは大事です。
最後は、自分への関連度。自分との距離感が近いと一気に「自分の話」になります。例えば、「この話を聞いた人は呪われる」と言われると一気に怖くなりませんか?
いしかわ:
…ですね。じゃあ極論、めっちゃ強いモチーフで信憑性があり、あなたに降りかかる話ですよ!ってなると最高に怖いものが出来上がるわけですね?
トンカさん:
そう。ただ、みんながそうやって作ると似通ってきてパターンが読めてしまうようになるので、いかに「裏切り」を作るかを意識しています。
例えば、『リング』の「呪いのビデオテープ」という設定は衝撃でしたよね。そんな科学的なものが呪われるのー!? って(笑)。
でも、『リング』はそれを言いきって信じさせちゃって。それ以降、全世界で「ビデオテープは怖いもの」と認識されるようになっちゃったんですよ。
いしかわ:
怖さの設計って奥が深い…
あとは、「バアン!」と脅かしてくる演出があるじゃないですか。あれが大嫌いなんですけど何なんですかあれは…(怒りすら覚えるわ…)
トンカさん:
いわゆる「ジャンプスケア」ですね。
ホラーは設計的にぞわぞわとした不安をベースにした精神攻撃的なものと、音や映像などで物理的に驚かせるものがあるんですけど、後者が善か悪かっていうのが議論になっているのは確かです(笑)。
ただ、ジャンプスケアは非常に重要な役割も担っています。メリットとしては、精神攻撃だけを続けると不安だけ残ってしまうので、驚かせることでストレスを発散させるポイントを定期的に作れること。
とはいえ入れすぎると下品なものになってしまうし、何の脈絡もなくジャンプスケアが出てきても、見た側はそれ自体が「怒り」になってくるんですよ。「こんな低俗なものに脅かされた自分がイヤ!」ってなって、それが低品質なジャンプスケアが嫌われる原因ですね。
いしかわ:
低品質なジャンプスケア(笑)。
驚かせるにもいろいろあるんだな…
「家に帰って思い出してトイレに行けなくなっちゃう問題」はどうすれば?
いしかわ:
ここまでお話を聞いてきましたが、実は私の最も大事な問題が解決されていないんです。
それは、「友だちとホラーを観て家に帰ってきてふっと思い出してしまい、トイレに行けなくなる」問題。
トンカさん:
出ましたね(笑)。仕方ないのでとっておきの方法を教えましょう!
トイレが怖くなるのは、それは、自分が絶対に安全と思っていたところが、安全地帯ではなくなる恐怖ですよね。
そして、家のトイレという場所にまで恐怖を引きずっているのは、「作品との距離」が持てていないからです。
いしかわ:
作品との距離?
トンカさん:
ホラーをひとつの「作品」として対峙することです。
極端な話、「これは、いい大人たちが、一生懸命作った作品なんだァ!!!」と考えちゃえば良いんです!
↑ホラーを一生懸命作っているいい大人
いしかわ:
え!? それってどういうことですか!?
トンカさん:
一概には言えないけど、ホラーって低予算で作られることが多いんです。例えば有名な『パラノーマル・アクティビティ』なんて135万円程で出来ていますからね。
だからこそちょっとでも品質を上げようといろんな頑張りがあるし、逆に言うとほころびが見えてくる部分でもあるんです。
だから、「今のは怖かったよ、いいよ〜」と褒めてあげたり、「ここはちょっとチープじゃない?」と批判を入れると良い距離感ができますね。
すごく幽霊が怖かったら、スタッフロールを調べて、「ああこの女優さんか!こんな明るい役をやっとるやないかい〜」と調べるとかね(笑)。
いしかわ:
完全に一作品として鑑賞するという(笑)。
トンカさん:
そう。ホラーって直接的な映像だけじゃなくて、相手の想像力も使って怖さが暴走するような設計がされているんです。
だから、そういう客観的な視点や距離感があれば、想像力が暴走して勝手にひとりで怖くなってしまうことがなくなるはずです!
いしかわ:
ふむ、つまり想像力を働かせすぎないために作品と距離を取るということか…!
トンカさん:
その通り。
ただ、「自分には関係ないっ!」「恐くない恐くない!」と完全に拒絶すると全く楽しめないので、感動もしつつ良い感じに距離を取ってほしいですね。
我々は最終的には“恐怖による感動”を味わってほしいので、そこを全部拒絶されちゃうと何もなくなるし、嫌な思いしか残らなくなっちゃいますからね!
ヤフオクでゲットしたという一見怖いお人形さんたちも、「作品」と思えば…!?
ホラーはビビってナンボのもの。大切なのはポジティブに受け入れてみること。ということで、最後に、皆さんがホラー耐性をつけ、ドーパミンをドバドバ出せる夏になるように、トンカさんから初心者にオススメのホラーを教えてもらいました。
『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』
ディレクターがホラー番組を作りに行くというモキュメンタリー。主役が「オラァ、おばけ出てこい!」とバットを振り回しているような人なので心強いのが魅力。
『エイリアン』
違うジャンルから攻めるのもおすすめ。超有名アーティストのH・R・ギーガーさんが造形を担当したというエイリアンの美しさを堪能すれば怖さも忘れてウットリ!?
『エクソシスト』
昔のホラー映画は、音でビビらせず、今ほど過剰な演出もないのでとても上質。演出も有名で、後のいろんな作品に転用されているものが多い。押さえておくと他のホラーで同様の演出を見つけたとき、テンションが上がったり上がらなかったり。
さらに、現在お台場のパレットタウンでは、期間限定で株式会社闇が企画したホラー観覧車「血バサミ女の観覧車」が絶賛運行中。たぶん世界初、プロジェクションと立体音響と振動シートで体感する観覧車ホラーとなっております。
ヘッドフォンを装着するので残念ながら耳は塞ぐことが出来ませんが、上空に浮かぶ個室、ということで、思う存分叫んで、恐怖を快感に変えてみてはいかがでしょう?
血バサミ女の観覧車
http://kanransya.death.co.jp/
〈取材・文・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉