中西氏は安倍首相と親しい経済人とともに会食を重ねる仲だ。原発などエネルギー政策や社会保障政策、財政再建などの課題に是々非々で臨めるのかを問う声があるのも事実。ただ、グローバル経済の不確実性が増す中、経団連のプレゼンスをとやかく言う暇はない。中西経団連には実行あるのみだ。

インタビュー「デジタルが最も大事な横断的施策だ」
 ―就任の抱負は。
 「中西色を大きく打ち出す考えはない。榊原経団連の副会長として経済成長、構造改革、経済外交を進めてきた。結果を具体的な形にしたい。デジタル技術を活用した自動化では日本は最先端。日本が遅れているという前提に立つ必要ない」

 ―デフレ脱却に必要なことは。
 「力強い経済成長さえあれば物価水準は安定的な上昇気流に乗る。経済成長にはソサエティー5・0を軸とした、ITが社会のあらゆる分野に入る『デジタルトランスフォーメーション』が必要。デジタル技術を社会基盤として活用できれば、日本には成長機会がたくさんある。政府も全面賛成しているが、言葉ほど進んでいない。いかにブレークスルーさせるかが大きな宿題だ」

 ―任期中にどこまで進められますか。
 「技術革新の問題ではない。いかに人が幸せを感じられるか、人間味の勝負だ。社会課題と結びつけ、人間本位の社会がどのように出来上がるのか、ゴールを共有しながら解答を創造しなければならない。最もやりたいことはゴールの共有だ」

 ―ソサエティー5・0推進で政府の役割は。
 「製造・流通・サービスなど業界の垣根がなくなる中、産業構造を真正面から捉え、従来型産業を守る姿勢より、新産業をつくり上げていくアプローチが必要だ。そのような経済界、産業界の動きを政府が助けていくのが基本スタンスになるだろう」

 ―デジタル省創設を提言しました。
 「従来型の縦割り行政では片づかない課題が多く出てきた。政府も認識しており、内閣府に(司令塔機能を)集めているが、予算権限なしでは進まない。省庁横断が問題ではなく、今の時代認識からデジタルが最も大事な横断的施策だ」

 ―財政再建の課題は。
 「財政再建の最大のボトルネックは社会保障関連費用。少子高齢化で構造的に無理がきて国民が将来不安を覚える中、一歩も二歩も明確に踏み出さねばならない。共通理解があれば多少の痛みを伴う改革もできる」

 ―政権との距離感については。
 「経済界と意見の対立があることが望ましいとは思わない。ただ、互いに背負っている社会的責任は異なる。見解に相違があるのは当たり前。意見交換できる関係を築くことが政治との距離感だ」

 ―働き方改革関連法案の成立が大詰めを迎えています。
 「(働き方改革は)基本的には経営者と従業員で決める問題。ただ、やる気を引き出す賃上げをしなければ企業は競争力を失う。賃金体系の変更と働き方改革は一体だ。政府が一緒にやろうと音頭を取っていただけるのは非常によいことだ」

 ―経済外交の課題と米国との関係は。
 「地政学的リスクが企業経営で無視できない。(日米は)国同士の率直な対話をぜひやってほしい。ただ、それだけで全ては片付かない。米国は典型。州単位などコミュニケーションの多様化が重要になる」

 ―エネルギー政策について。
 「遠い将来ではなく、化石燃料が枯渇した時に再生可能エネルギーだけでは賄えない。大型原発の安全性は良く議論すべきだが、原子力エネルギーの利用技術は人類にとって必要。経団連としてもしっかり言っていくべきだ」

(聞き手=鈴木真央)