馬場氏

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 「イノベーションの量産」、「タテパナをヨコパナに」など独特のスローガンをかかげ、パナソニックのビジネス改革を主導する馬場渉ビジネスイノベーション本部本部長。2017年4月まで基幹系業務ソフトウエア世界最大手、独SAP本社や米シリコンバレー拠点の幹部を務め、米シリコンバレー流の開発手法にも精通する。そんな馬場氏から見て、日本を代表する電機メーカーの1社、パナソニックの強みや課題は何か。そしてビジネス改革のあり方について聞いた。

グーグルとフェイスブックの違い
 ー馬場さんからみて、パナソニックの強みは。
 「当社はリアル(現実世界)データを豊富に持っており、(コンピューター上で現実世界を精密に再現する)サイバーフィジカルシステム(CPS)を実現しやすい。リモコンでテレビを操作する、炊飯器のボタンを押すなど、家庭内にある機器一回ごとの操作を(インターネットサイトのように)”クリック”と表現するなら、パナソニック製品のDAU(一日当たり製品サービスを一度は使ったユーザー数)は日本だけで3000万世帯、5000万‐7000万人に相当する」

 「例えば、当社は照明スイッチの国内シェア8割を持つ。照明を付ける・消す行為は毎日必ず行われる。照明スイッチをデジタルでつなげば、当社はCPSの分野で『プラットフォーマー』になりえる位置にいる」

 -グーグルなどインターネット上のプラットフォーマーもこのリアルの世界に進出しつつあります。
 「グーグルやフェイスブックのように主にインターネット上のサービスを手がける企業はできることが限られている。またスマートフォンやテレビで世界シェアトップを持つ企業であっても、これらの製品で集めたデータだけでは、生活の一部しか網羅していない。この点、パナソニックの事業は『これでもか』ってほど広い。家電、エネルギー、産業機械、車載を手掛けており、住宅内だけでなく、産業の黒子役である『B ツー B』事業としても、社会と広く接している」

パナソニックβは出島
 ーただ、パナソニックは製品・サービスの間で相乗効果を十分に引き出せていません。馬場さんは製品・サービスごとに縦割りの現状を「タテパナ」と称し、クロスバリューが生まれる組織「ヨコパナ」へと変革中です。
 「事業の広さが売り上げ上の足し算にしかなっておらず、顧客価値に結びつく広さにはなっていないのは事実だ。当社のスマートフォン用アプリは、アプリストアに100個以上あるが、UI(ユーザーインターフェース)はバラバラだ。これはスマホアプリに始まったことではなく、家電各種で統一感のないリモコンもしかり。こうした事態を許してきてしまったのは、タテパナの弊害だ。データ量は膨大に存在していても、タテに最適化されたデータなので、別の事業部にはデータの意味が分からず、活用されていない」

 「ただ、会社の構造を破壊してカオスな(混沌とした)状態に持っていけばよいのではない。企業改革には西洋医学、東洋医学の2タイプがある。西洋医学では、赤字企業に対し患部を切除したり、直接効く薬を処方したりする。”プロ経営者”と呼ばれる人の多くは西洋医学の分野にいる。私の試みは東洋医学。組織のゆがみを正し、個人や組織が本来持つ自然治癒力による次の成長を促す。タテの最適化された今の状態を、タテとヨコのバランスをとるのが狙いだ。その一環で、技術開発の共通基盤を運用し始めたほか、シリコンバレーにイノベーションを産むための専門手法を導入した『パナソニックβ』という、当社にとって"出島"となる組織を設けた」

インダストリー4.0にジャイアントはまだいない