『ひよっこ』最終回目前、脚本家がぶっちゃけトーク「いつか続きを書きたいな〜」
9月30日に最終回を迎える、NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』が、ついにクランクアップした。有村架純が演じる主人公・みね子の成長ぶりに多く視聴者が釘づけとなり、視聴率は20%超えをキープ。そんな人気ドラマの脚本家・岡田惠和さんに独占インタビュー。
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「書き終えたという実感は、正直まだあまりなくて。たぶん放送が終わったときに感じるのかな。3度目の朝ドラでしたけど、今回がいちばん大変でした(笑)」
視聴率20%超えをキープし絶好調の『ひよっこ』。岡田惠和は『ちゅらさん』『おひさま』に続き、今回で3作目の朝ドラ執筆となった。
朝ドラでは聞かれる“ある質問”
「当初のプランといちばん違ったのは物語が4年しかたたなかったってことですかね。書き始める前は、東京五輪の1964年から'70年代初頭まで行こうかなって思ってたんですけど、わりと早めに“これは絶対行かないな”ってことがわかり(笑)。
でも、今回は登場人物みんなそれぞれに人生があって、いろんなキャラクターの人気が出るようなものにしたいと思っていたので。それをやっていたら4年しかたたなかったんです」
朝ドラといえば“夢や目標まっしぐら”なヒロイン像が定番。今回のみね子(有村架純)とは違いがあるようにも思われるが、それが視聴者の共感を呼んだ。
「基本的に自分がいちばん愛せる人、気持ちがいちばん入りやすい人は、そんなに前向きでもなく、リーダーシップをとるタイプでもなく、無謀な行動もできない、でも別につらいことばかりの中で生きているわけでもない人なんです。
世の中、高い目標に向かって自己実現していく人ばかりではありませんし、そうでない人間のほうが現実には多い。みね子は朝ドラのヒロインとしては少し珍しいタイプかもしれませんが、人物像としては決して珍しい人ではないと思うんですよね」
“島谷くんロス”という言葉が生まれるほど、みね子と島谷(竹内涼真)の恋模様は注目を集めていたが、
「月9の会見では“誰と結ばれるんですか?”っていう質問はしないと思うんですけど(笑)、朝ドラでは聞かれるんですよね……。“言わなきゃいけないのかな?”って思って、決まっていないふうを装っておりましたが、最初からみね子とヒデくん(磯村勇斗)が結ばれることは既定路線でした。磯村くん本人には知らせてなかったですけど。
だから、すずふり亭の厨房の中でも、ときどきヒデくんにワンフックつける撮り方をしていただけるようにしたり。“なんか、みね子のこと気にしてんな”っていう芝居はわりと当初からチクチクとやっておりました(笑)」
時子(佐久間由衣)と三男(泉澤祐希)、さおり(伊藤沙莉)の一風変わった三角関係やシェフ・省吾(佐々木蔵之介)と愛子(和久井映見)など、それぞれの恋にほっこりとした視聴者も多い。
「特に女の子にとっては恋愛ってものすごい一大事だし、恋愛をすると世界が変わって見えたり、人に力を与えたりする一方で、恋愛によってダメになったりすることもあって。でも、恋してることによって、なにか仕事に影響があったりとかっていうふうには描きたくなかったので、みね子が島谷と失恋したあとも、ちゃんと次の日から働くっていうのが大事だな、と。
だから、今までの朝ドラに比べたら、恋愛部分は少なかったかもしれないですね。まあヒデがじれったいっていうのもあるんですけど(笑)」
脚本家にしか味わえない贅沢とは
全156回。実にさまざまな場面を描いてきたが、特に印象深いのは?
「実は“何にも起こらない回”なんですよ。これは朝ドラの脚本家にしか味わえない贅沢で。例えばですけど、漫画家(浅香航大と岡山天音)がいなくなる回(8月21日放送)とかって、ぶっちゃけ物語の進行上、必ずしも重要ではない(笑)。豊子(藤野涼子)がクイズに優勝して、澄子(松本穂香)とハワイに行くって回(8月15日放送)もそう。まさに“連続テレビ小説”という枠だから与えられる自由です。
僕はみんながワチャワチャしてるのを描くのが好きだし、楽しいし、実は何も起きない回を描くことのほうがよっぽど技術的には難しい。たぶん視聴者の方が“うっすいな〜今日は”って思ってる回のほうが、脚本家としては大変なんです(笑)」
一方で、実(沢村一樹)を連れ戻すため、世津子(菅野美穂)のマンションを美代子(木村佳乃)とみね子が訪ねる緊迫したシーンでは、岡田の筆がさえわたった。
「本当にあの日が来るのはいやだったんですよ……。変な話、こういう深刻なシーンって、なしにもできるじゃないですか。もっとゆる〜い話にスライドすることもできてしまう。そんな自分への楔として、あらかじめ菅野美穂さんという信頼できる女優さんに出演をお願いしていたので自分もしっかり描かなきゃいけないだろう! っていう気持ちもありまして。本当に逃げずにやろうと思いました。
あの場にいる4人は、ヒロインはほぼしゃべっていないんですけど、それでも成立するだけの力量のある人たちだし、演出も含めて何も不安はなかったです。画面に4人しか登場しない15分を描けるのは、とても幸せだなって思いました」
そんな“逃げない”姿勢は実がみね子に家の経済事情を話して聞かす印象的なシーン(4月7日放送)にも。
「農家である谷田部家の収入や支出がどうなっているかということは、うやむやにしようと思えばできちゃうんです。でも、あえて具体的な数字を出し、みね子の給料の使い道であるとか、仕送りの額も何とか伝えたいと思って。そういうときに増田(明美)さんの語りがあると、本当に便利なんです(笑)。
増田さんは、ドラマの中にいる妖精みたいな感じですかね。“どっから見てるんだ”っていう(笑)。増田さんの声の気持ちよさとか、どんなことを書いても真剣に取り組んでいただけるのも魅力です。僕が書いていないナレーションもあるので、演出部が楽しんでいたんじゃないでしょうか(笑)」
「いつか続きを書きたい」
登場人物みんなが愛すべきキャラクターで、誰ひとりとして悪人がいない。
ある意味“ユートピア”のようにも見える『ひよっこ』の世界。
「敵がいるとドラマは動くんですけど、敵がいなくなると解決するので……。たぶん人生って、敵がいようがいまいが、基本ままならないものだし、自分の人生経験からも、何かがうまくいかなかったことが、他人のせいであったことがあんまりないなって。
これまでドラマみたいな敵役の人には会ったことがないし、僕をうまくいかせないためだけに生きている人はいなかったし(笑)、人間を一面的に描くことはしたくなかったんです。なので唯一、救えなかった登場人物は(実からお金を盗んだ)ひったくりの人くらいかな(笑)」
約半年間、私たちを魅了し続けてくれた『ひよっこ』の最終回は9月30日(土)。気になるラストは?
「大きな出来事はないけど、最終的にはみんな少しは幸せになっているというふうに思います。また、ドラマは終わりますが、登場人物たちの人生はこれからも続いていくので、そこを想像して応援してあげてほしいなと思います。作中で4年しかたたなかったっていうのが若干、心残りではあるので、いつか『ひよっこ』の続きを書きたいな〜って思っています(笑)」