スキップができない人、というのがたまにいる。

 できる人からすれば、スキップの何が難しいのかがさっぱり分からないのだが、できない人にとっては、あの"跳んだ足で着地する"独特のステップが難しい。手足をぎこちなく動かし、リズム感のないおかしなステップを踏むことしかできなくなるのだ。

 この日の日本は、まるで「スキップができない人」のようだった。

 フランスで開かれているトゥーロン国際トーナメントに出場しているU−23日本代表が5月21日(現地時間)、グループリーグ第1戦を行ない、パラグアイに1−2で敗れた。

 日本は1試合を通じて、どこかリズムに乗れていなかった。0−1で迎えた後半開始から同点に追いつくまでの20分くらいは、主導権を握っていたと言ってもいいかもしれないが、それ以外の60分(試合は40分ハーフ)は、常にオドオドとして余裕がなく、パラグアイのプレッシャーにおびえながらプレーしているかのようだった。

 ここがチャンスと見れば、縦方向へ一気にスピードアップできるパラグアイに対し、日本は一人ひとりがボールを持ってからパスコースを探す場面が目立ち、なかなか攻撃のスピードが上がらない。

 そして、苦し紛れに切り返して相手をかわそうとしたり、バックパスしたりするところをまんまと狙われてボールを奪われてしまう。軽快にスキップしているパラグアイの傍らで、日本はドタバタとリズム感のないステップを踏み続けていた。

 この試合でキャプテンを務めた、MF矢島慎也が語る。

「(パス回しの)テンポが遅いのは感じていたが、ミスから失点して、そこまで(試合内容が)悪くないのに悪いほうに考えてしまった」

 確かに、前半18分のパラグアイの先制点を呼んだのは、日本のミスである。DFファン・ウェルメスケルケン際の不用意なバックパスをカットされたことから、それは生まれた。

 だが、日本のミスが目立ったのは、この時間帯に限ったことではない。だとすれば、そのミスは簡単に修正可能な不注意から生まれたものというより、相手によって引き起こされるべくして引き起こされたと考えるべきではないだろうか。MF原川力は言う。

「(パラグアイは)たいして強いとは感じなかったが、賢さがあった。(日本が)ボールを持ってチャンスを作るなかで、向こうはミスを狙っていた。その抜け目のなさは、Jリーグでは感じられないものだった」

 相手が狙っている、まさに"そこ"へパスを出してしまうのだから、ボールを奪われるのは当然のこと。とりわけ前半に関して言えば、日本はパラグアイに飲まれていた。そう表現しても、決して大袈裟ではないだろう。

 断っておくが、今大会のパラグアイの登録メンバー20名の内訳は、1995年生まれがふたりと、1996年生まれがひとりいるだけで、残る17名はすべて1997年以降の生まれである。

 つまりは、一応U−21代表ということにはなるが、実質的にはU−19代表と呼んでもいい編成なのだ。U−23代表で臨んでいる日本は、本来であれば、経験に基づく試合運びのうまさや、したたかさで上回らなければいけないところを、逆にそうした要素で手玉に取られていたのでは、この結果もやむを得ない。

 矢島は「1個のミスで得点まで持っていかれることは、アジアではなかった」と、一瞬のスキを突くパラグアイのしたたかさに舌を巻いた。

 おそらく手倉森誠監督も、実質U−19代表のパラグアイ相手に負けるとは思っていなかったのだろう。試合後には、「(1−1の)同点にできたとき、もう負けはないと決めつけてしまった。そこは僕の反省」とも話している。

 実際、実力的に言えば、日本が負ける相手ではなかった。その是非はともかく、指揮官が過信してしまったのも無理はない。

 にもかかわらず、日本は敗れた。そこで露わになったのは、厳しい試合経験の不足。さらに言えば、国際経験の不足である。

 現在のJリーグは、互いにプレッシャーをかけ合うこともなく、楽にボールを持ち合う"緩い"試合が頻繁に行なわれている。そこでは当然、無造作に出した横パスやバックパスが狙われることもない。世界基準では狙われて当然のプレーを、日本の選手たちは当たり前のように日々やっている。残念ながら、Jリーグの弊害が間違いなく表れていた。

 加えて、このリオ世代(1993年以降生まれ)はU−20ワールドカップ(W杯)をまったく経験していない。U−17W杯に出場した選手こそ何人かいるものの、絶対的に国際経験が不足していることは否めない。本来であれば、この年齢になる前にパラグアイのような相手に対する免疫をつけておくべきなのだが、彼らはそのために必要な経験をしてきていないのである。

 つまりは、アジアレベルでは露呈することのなかった致命的弱点が、ようやくこのレベルの相手と対戦してみて表に出てきたということだ。

「初戦で負けて、自分たちがどうするべきか。ここからの姿勢が試される」

 手倉森監督はそう語り、残り3戦の必勝を期す。もちろん、それを期待したい。

 しかし、トレーニングする暇もほとんどなく、すべて中1日でこなさなければならないわずか3試合で、どこまで意識を変え、実際のプレーを変えられるのだろうか。

 リオデジャネイロ五輪本番を考えると、悲しくなるほど無残な敗戦だった。

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki