選手に対するブーイングに、指揮官(手前)は「不満があれば、選手ではなく、自分に向けて言ってほしい」とサポーターに伝えた。写真:SOCCER DIGEST

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 J1第1ステージ13節の湘南-仙台の試合直後(試合は1-0で仙台勝利)、選手への痛烈なブーイングが起きたことに対し、湘南の曹監督がゴール裏のサポーターと話し合いの場を持った。そのなかで罵声も飛び交い、一触即発の事態に。帰りかけていた観客も足を止めてその様子を見守り、スタジアムは騒然とした雰囲気に包まれた。
 
 今季初めての顔触れでスタートしたホームチームだが、前半は特にCF端戸、シャドー大竹、長谷川という前線のトライアングルがまったくと言っていいほど機能せず。シュートを1本しか打てず、ほとんど見せ場もないまま折り返した。
 
 しかし後半に下田を投入し、ボランチの菊池を左ウイングバック(WB)に、左WBの三竿を左ストッパーへと、本来のポジションに戻し、立て直しを図る。すると徐々にペースを掴み、何度か良い形を作り仙台ゴールに迫った。
 
 ところが76分、前掛かったところで逆襲を食らい、途中出場の奥埜に決勝ゴールを決められてしまう。結局、後半の湘南はペースを握ったとはいえ、決定的なチャンスはDFの島村が攻撃参加から作った二回と、大槻のクロスに合わせた端戸のシュートのみ。内容的にも、仙台に上回られたと言えた。
 
 試合後、湘南の選手と曹監督がスタジアムを一周し、観客にあいさつをしていった。最後、大勢の湘南サポーターが待つゴール裏に来て、全員で一礼。そこで事件は起きた。
 
 指揮官は選手へのブーイングの嵐が起きたことに対し、居残っていたサポーターの中心メンバーのもとに近寄り話し合いを始める。

 そこで曹監督は選手にだけは矛先を向けないでほしいと強く訴えた。

「馬入(練習場)で日々、前向きに取り組んでいる。責任はすべて自分にある。だから不満があれば、俺に言ってくれ」

 しかし、そこで「辞めろ!」「責任を取れ!」という罵声もあるサポーターから飛んだ。今季ホーム7連敗という不甲斐なさに不満が爆発した形だ。こうした状況だからこそ、培ってきたスタイルを大事にしていくべきだという話し合いをしているタイミングでもあった。

 そうした状況下で、気持ちを昂ぶらせた曹監督がスタンドに詰め寄ると、コーチやスタッフ数人掛かりで抱きかかえられて、スタンドから引き離された。
 
 試合後の記者会見で、曹監督は複雑な心境を吐露した。
 
 指揮官は言葉を選びながら、説明していった。

「ストロングな部分をさらにストロングにして、ウィークなところを自然に隠れていくマネジメントをしてきた。賛であり、否であり、どちらとも言えないと、いろいろな意見があるなかで、僕は監督として、それがこのチームに一番必要だと思っている。それによってチームと選手を成長させられる。そうサポーターにも伝えた」
 
 そして選手たちに対する、変わらぬ「信頼」についても語った。
 
「勝点を取りきれなかったところは反省している。それでも希望は持っている。選手たちには期待しているし、これから取り組んでいることを必ず実現していけると信じている。
 
 それでも多くの人が『つまらない』と思っていたら、手前味噌なだけ。選手たちも、サポーターも負けた悔しさはある。しかし選手たちには、ある意味、勝敗の部分のプレッシャーは取り除いて戦ってほしいと言っている。もちろん同時に、それを背負って戦えるのも、さらに良い選手になるための条件だと思ってもいる」
 
 指揮官とサポーターのそのような騒動が起き、主将の高山は唇を噛み締めた。
 
「今、なにより勝つことが大事なのは分かっている。でも、やり方を変えてまで勝とうとしたら、それは湘南ではなくなる。下を向いていても、なにも始まらない。しっかり反省して、次に向けて課題に取り組み準備したい」