「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今日の漢字は「声」。3月22日は放送記念日。1925年、大正14年のこの日、ラジオの仮放送が行われたことを記念して制定されました。あの日から、ラジオにのった声は、何を届けてきたのでしょうか。今回は「声」に込められた物語を紹介します。



「声」という漢字の古い字体(「聲」)を、上下に分けてひもときます。

上の左側は「声」、そして右側を「殳(るまた)」と呼びます。

「声」と「殳」は、石で出来た楽器をつるして打ち鳴らす様子を描いたもの。

その下に添えた「耳」は、その音が耳に届いている、ということを示します。

そこから「声」という字は「おと、ひびき」という意味をもつようになりました。

さらに、人の発する「こえ」や「ことば」、人の耳に入る「うわさ」や「ほまれ」といった意味にも使われるようになったのです。

結束を何よりも重んじる、閉じられた小さな社会。

騒々しさや煩わしさに疲れたいにしえの人は、ひとり、早朝の森へと分け入って行きます。

お気に入りの場所に腰を下ろし、心を落ち着けて耳をすますひととき。

水しぶきをたてる川魚、ゆれる木々の葉、鳥たちのさえずり。

自然が奏でるさまざまな声が、いにしえのその人の内なる声を呼び覚まし、ゆっくりと呼応し始めます。

春風にのって、子どもたちの歌声がどこかから運ばれてきました。

声とは、いのちそのもの、生きている証。

自分の想いを声に出して、誰かにそっと、伝えてみよう。

いにしえのその人は、ふたたび歩き出す情熱を、声の力で取り戻すのでした。

ではここで、もう一度「声」という字を感じてみてください。

身振りや手振りを使い、声を出し、言葉にすること。

いにしえの人々にとってのコミュニケーションとは、互いの肉体を使って交わされるものでした。

遠く離れた人と意思疎通をはかる方法もまた、太鼓を叩いたり、火をおこして狼煙をあげたり、からだ全体を動かす作業を伴うものだったのです。

――声になった言葉は脳と同時にからだ全体に働きかける。

詩人の谷川俊太郎氏は、こう語っています。

肉声が運ぶ想いは鼓膜をふるわせ、肌からしみこんでゆきます。

それはいつまでも消えることのない、ずっと持ち歩くことのできる宝物。

心をのせ、からだを使って奏でられたその声を、あなたは誰に届けますか?

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

『声の力 ――歌・語り・子ども――』(河合隼雄、阪田寛夫、谷川俊太郎、池田直樹/岩波書店)

3月26日の放送では「復」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/