マイナス金利拡大で年金運用はどうなる?
日銀がマイナス金利を導入したことで金利の低下に注目が集まっていますが、国債に投資した際に得られる金利収入と価格変動を考慮した利回りという指標で見ればマイナス金利の導入以前から満期まで10年以下の短い年限では既にマイナスになっていました。確かに日銀の新しい政策で利回りはさらに押し下げられた側面はありますが。
最近では10年国債の利回りもマイナスとなり、年金基金などの運用機関はいよいよ運用難の厳しい状況に置かれていると思われます。いわゆる“教科書的な”運用理論のプロセスにおいては、まず各資産から統計的に期待することができる将来の期待リターン、リスク(標準偏差)、相関係数という数値をもとにリスクあたりのリターンが最大となる資産の組み合わせを計算して導き出します。リスクごとにリターンが最大となる点を結んだものを効率的フロンティア(または有効フロンティア)といいます。下図の青線(厳密には点の集まり)は年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が公表している各数値をもとに筆者が作成した効率的フロンティアです。図中の円グラフはGPIFの基本資産配分(ポートフォリオ)です。
利回りの低下で何が問題になるかというと、GPIFにおいては1.77%(経済中位ケースの実質的なリターン)という運用目標に届かなくなることが挙げられます。GPIFだけでなく各運用機関には運用目標となるリターンがあり、それを達成するために効率的フロンティア近傍の資産の組み合わせを選択します。しかしベースとなる国債利回りがマイナスとなり、仮に今後さらにマイナス金利の幅が拡大されるとなると、目標リターンを得るには基本ポートフォリオにおいて、リスクを高めなければならなくなります。
リスクを高めることが何を意味するかというと株式や社債など国債よりもリスクが高い資産の運用比率を高めることを意味します。日銀がマイナス金利を導入した意図の一つに運用機関にリスク資産への投資拡大を促すこともあったかもしれません。しかし、世界的な景気減速や資源関連企業を中心に格付けの引き下げがある中で、これ以上リスク資産への投資拡大を実行できるかというと難しいかもしれません。運用機関が採れる選択肢は、運用目標を引き下げて保守的な運用を続けるか、運用目標を変えずにリスク資産への投資拡大を実行するかです。後者の場合、運用目標を達成できたとしてもいずれ起こる株価低迷と景気後退によって、リスク資産への投資拡大した分だけ運用資産の毀損も大きくなるでしょう。
(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
※筆者は「Gadgetwear」のコラムニストです。本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。
最近では10年国債の利回りもマイナスとなり、年金基金などの運用機関はいよいよ運用難の厳しい状況に置かれていると思われます。いわゆる“教科書的な”運用理論のプロセスにおいては、まず各資産から統計的に期待することができる将来の期待リターン、リスク(標準偏差)、相関係数という数値をもとにリスクあたりのリターンが最大となる資産の組み合わせを計算して導き出します。リスクごとにリターンが最大となる点を結んだものを効率的フロンティア(または有効フロンティア)といいます。下図の青線(厳密には点の集まり)は年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が公表している各数値をもとに筆者が作成した効率的フロンティアです。図中の円グラフはGPIFの基本資産配分(ポートフォリオ)です。
リスクを高めることが何を意味するかというと株式や社債など国債よりもリスクが高い資産の運用比率を高めることを意味します。日銀がマイナス金利を導入した意図の一つに運用機関にリスク資産への投資拡大を促すこともあったかもしれません。しかし、世界的な景気減速や資源関連企業を中心に格付けの引き下げがある中で、これ以上リスク資産への投資拡大を実行できるかというと難しいかもしれません。運用機関が採れる選択肢は、運用目標を引き下げて保守的な運用を続けるか、運用目標を変えずにリスク資産への投資拡大を実行するかです。後者の場合、運用目標を達成できたとしてもいずれ起こる株価低迷と景気後退によって、リスク資産への投資拡大した分だけ運用資産の毀損も大きくなるでしょう。
(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)
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