■近視・乱視の矯正の新技術

国民の半数が近視であり、日本は世界一近視が多い国といわれる。その近視と乱視を矯正する方法として、トラブル増大で件数が激減しているレーシックに代わって、注目を集めているのが「眼内コンタクトレンズ挿入術(ICL)」だ。

専門的には「フェイキックIOC」とも呼ばれる方法で、点眼麻酔をした後3ミリほど角膜の縁を切開し、眼の茶色い部分(紅彩)と水晶体の間にソフトコンタクトレンズのような薄い眼内レンズを移植する。3ミリの縁から細く折りたたまれたレンズを挿入すると、眼内でゆっくり広がる仕組みになっている。角膜を切開すると聞くと痛そうだが、この手術を受けた女性は、「まったく痛くありませんでした。手術は両眼合わせて15分くらいで、あっという間に終わった感じです」と話す。

ICLは、日本では2010年に厚生労働省が認可した比較的新しい近視・乱視矯正法だが、1997年にヨーロッパで薬事承認されて以降、すでに韓国、米国でも普及している治療法。従来の眼内レンズは眼圧が高まったり白内障になりやすかったりと問題点があったため、レーシックでは治療ができない強度の近視・乱視を中心にこの手術が行われてきたが、今年4月、これらの欠点を克服した「ホール(穴あき)ICL」と呼ばれる新レンズが認可された。

ホールICLは、北里大学病院眼科の清水公也主任教授が考案したもので、このレンズも海外ではすでに普及しており、施術後7年のデータでは白内障を発症したとの報告はない。特に乱視はレーシックでは矯正が難しい場合があるが、ICLでは100%矯正が可能という。手術の対象は21歳〜45歳で、残念ながら老眼が進む年齢になると効果が得られにくい。

■長期間視力が安定し、トラブルが少ない

一方、近視矯正法としてお馴染みなのが、エキシマレーザーで角膜を削り、視力を矯正するレーシックだ。一般的に、レーザーで角膜の一部を切り取って作ったフラップ(ふた)をめくり、レーザーを照射して近視・乱視を矯正し、フラップでふたをする。

レーシックでは時間が経つと視力が悪化しメガネやコンタクトレンズが再び必要になることがあるが、ICLでは長期間視力が安定し、レーシックで発生しているトラブルが少ないのが人気の理由。レーシックでは、フラップがずれて眼が見えなくなるトラブルが施術後かなり経ってからでも発生する。

また、フラップをつくるときに角膜の知覚を司る三叉神経を切断してしまうのでレーシック後はドライアイになりやすく、光の調節が難しく暗いところで見えにくくなる視覚障害を生じる人もいるが、ICLでは三叉神経が温存でき、そういった障害も起こりにくいそうだ。レーシックを受けた米軍の兵士の中には夜間の戦闘ができなくなった人もおり、職業や生活スタイルによっては切実な問題を生じるリスクがある。

ICLの最大のメリットは、眼内レンズを取り出してもとの状態に戻せること。年をとって白内障になったら再手術を受け、眼内レンズを入れ替えればいいわけだ。もしかしたら、将来的に老眼を矯正する夢の眼内レンズだって開発されるかもしれない。レーシックの場合は、たとえトラブルがなかったとしても、将来的に白内障になったときには正確なレンズ厚の計算ができないため、手術を受けてもクリアに見えなくなる恐れがあるという。レーシックとはタイプの異なるレーザーを使い、フラップを作らなくて済むSMILE(スマイル)と呼ばれる近視・乱視矯正手術も出てきているが、レーザーで削った角膜をもとに戻せない点はレーシックと同様だ。

■手術費用50万円は高いか、安いか

ICLの欠点は、近視・乱視は病気ではないため保険が効かず、オーダーメイドのレンズを使うので費用が高いこと。比較的安価な北里大学病院でも両眼50万円(税込み)、100万円近くかかるところもある。レーシックは施術する医療機関が増えたこともあって価格が下落気味で、7〜8万円で実施している医療機関があるのを知ると考えてしまうが、大事な眼のことであり費用面だけで判断するのは避けたいところだ。

また、ICLについては8年間以上の長期成績が出ていない。レーシックも最初のうちは利点ばかりが強調された点を考えると、ICLを受けるかどうかも、眼科医の説明をよく聞き納得したうえで選んでいただきたい。

ICLが実施できるのは、日本眼科学会が認定する眼科専門医で、なおかつ所定の研修を受けた医師がいる「ICL認定クリニック」のみ。認定クリニックはICL情報サイト http://www.icl-info.com/clinic/)で調べられる。

医療ジャーナリスト 福島安紀=文)