一昨日のNHK『クローズアップ現代』は、「統一球問題」を取り上げていた。現状については、ほぼ、この番組で言い尽くされていると思った。再録する。2013/6/19 NHK『クローズアップ現代』「隠された“飛ぶボール”」

・2010年の統一球導入は、加藤コミッショナーの方針によるもの。
・統一球は中心部のゴムを調整することで反発力を低く抑えている。
・反発係数が0.01変わると飛距離の変化は約2mになる。

注目すべきデータが提示された。この表の意味するところは大きい。NHKの表を基に作成。

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NPB機構が導入した統一球は、2012年まで導入時点から一度も規定反発係数の下限に達したことがなかった。
すべて、下限以下の規定違反の球だった。2年間にわたり、基準値を下回るボールが使われていた。

そこでNPBは、「基準値から0.01以内であれば問題はない」と言うルールをひそかに内部で作り、メーカー側に伝えていた。

そして昨年9月、基準値内に反発係数を上げるようにメーカーに指示した。

ミズノは反発係数の調整を指示された時、「公表しない方針である」と伝えられた。ミズノの久保田憲史部長は、「心苦しいものはあった」と話した。

NPBは「混乱を防ぐため公表しなかった」としている。
しかし、そのことがかえって選手を翻弄していく。
オリックス西勇輝は昨シーズン3被本塁打が今年はすでに7被本塁打。
二軍落ちした投手もいた。

セリーグのコーチの中にはボールをいくつも解体して探ろうとした人もいた。

プロ野球選手会の松原徹事務局長は、5月下旬、選手会としてNPBにデータの公表を求めた。
回答期限の6月11日、NPBはボールを調整した事実を初めて認めた。

松原徹事務局長
「あまりにもひどい、統一球のチェックをどういう体制でしているのか」
「誰がしたかわからない」「私は知らなかったでは済まない」
「人の人生が大きく狂った、それくらいの大きな問題だ」
「それをパートナーである我々に、先に知らされていなかったことが、本当に悔しい」

6月12日の「知らなかった」発言に批判が集中したのを受けて、加藤良三コミッショナーは6月14日、再度記者会見。
今回のことを「失態」と認め「猛省する」と話すも辞任の考えがないと述べた。

ゲストの生島淳は
・NPB側の想像力の欠如 ボールが変わると選手の生活がどう変わるか、ファンの反応はどうなるか、そういうことを考える力が欠如していた。
・歴史的に機構は選手会よりも球団のオーナーの方を向いて仕事をしている印象がある
・選手会は良い意味で権利意識に貪欲になっても良い。
・ボールのチェックについても、権利として選手会の代表を送り込むべき
・前提として統一球の導入は公平な競争のためにも賛成だが、変更内容を加藤コミッショナーが知らなかったのだとすれば、ガバナンスの欠如につながる。知っていたとしても裏切り。どちらに転んでも責任は重大。

番組は、「選手の気持ちを踏みにじるNPBの構造は、9年前の「球界再編問題」でもあらわになっていた」とする。
このときもコミッショナーは「権限がない」と役割を果たさなかった。
選手会はストライキに踏み切らざるを得なかった。



球団経営のコンサルタント並木裕太は、2年前MLBのビジネスモデルを説明するために、コミッショナーと球団経営者が出席するオーナー会議に出たが、そこで見たのは
球団オーナーに遠慮して、ほとんど発言しないコミッショナーの姿だった。
コミッショナーのもとで、一つに向かっていこうという雰囲気ではなかった」

大リーグではコミッショナーが強いリーダーシップで球界全体を導いてきた。
第6代コミッショナーのピーター・ユべロスは、今回の統一球の問題を知り
「そんなことは大リーグではありえない。選手会やオーナーと話し合わずに勝手に決めることは許されないからだ」
80年代、年俸アップを望む選手会とオーナー側が対立、ストが多発。危機に見舞われた。
このときにユべロスはコミッショナー権限を拡大。
放映権の一括管理や、収入の公平な分配を実現。チーム力は均衡し、市場は拡大し、選手の望んでいた年俸アップを実現した。

大リーグ全体のビジョンを明確に打ちだし、議論を重ねることで改革を成し遂げたのだ。
「私はできるだけフェアな仕組みを作った。すべての人を話し合いにつかせ、意見を聞くことが一番大事だ」

生島淳
・大リーグもプロ野球も、コミッショナーは球団オーナーの投票によって決まる。
・一つ違うのは、大リーグ球団のオーナーは、球界全体の繁栄をコミッショナーに『信託』している面がある。
・ときとしてオーナーと球団が利益相反することもあるが、それが良い緊張感をもたらしている。
・日本では現実的には難しい。しかし今回の事件で、コミッショナーの権限は逸失した。
コミッショナーの職を尊敬できるものに復権してほしい。その意味では、誰からも尊敬される野球人、例えば王貞治が就任すれば、みんなが野球の繁栄について考えるようになるだろう。
・選手会としても権利意識を向上させるべき。
・話し合いの中で理想の統一球を決めてほしい。理想の統一球を決めると言うことは「理想の野球はどうあるべきか」ということだ・
・昨シーズンの例では9月がボール発注の期限、今すぐ議論を始めるべき


天下のNHKが、ここまで痛烈に批評したのは珍しい。しかし、それでも今の「体制」はなかなか変わらないのだ。

この「まとめ」をベースとして、なおも考察を続けたい。