朝日新聞の報道
プロ野球の巨人と阪神が来季ペナントレースの開幕戦を米国で開催することが確実になった。16日、複数の球界関係者が認めた。日本国内での開幕に先立ち、3月にロサンゼルスのドジャースタジアムとアナハイムのエンゼルスタジアムで1試合ずつ行う予定。
米国での公式戦開催の構想は、加藤コミッショナーが数年前から描いていたもの。その意向を受け、巨人などが米国開催の可能性を探っていた。関係者によると、当初は12年の開幕戦を首都ワシントンDCで開催することを検討したが、東日本大震災の発生や収支面などの条件が整わず断念。その後、開催候補地を在留日本人の多い西海岸に移して再検討していた。


世知辛い世の中である。スポーツイベントも、漫然と「親善」「友好」で行われることはまずない、何らかのビジネス的な意図や政治意図を含んで開催されるのが常である。

MLBは過去、2000年(シカゴ・カブスvsニューヨーク・メッツ)、2003年(シアトル・マリナーズvsオークランド・アスレチックス 中止)、2004年(ニューヨーク・ヤンキースvsタンパベイ・デビルレイズ)、2008年(ボストン・レッドソックスvsオークランド・アスレチックス)、2012年(シアトル・マリナーズvsオークランド・アスレチックス)と5回(1回中止)日本で開幕戦を企図している。
名目上は野球を通じた「日米親善」だ。2012年はこれに東日本大震災の支援という目的が加わっていた。

しかし、MLBはきれいごとで海を渡ったわけではない。彼らは日本でMLBの開幕戦、真剣勝負を見せることで、日本のMLBファンを増やし、マーケットを拡大することを明確に目指している。

2000年と2010年の日本人の観戦スポーツのランキングがある。
SSF笹川スポーツ財団「スポーツ白書」に基づいて作成

NPB-Opning


これによれば、2000年、日本人が一番よく見たスポーツはプロ野球であり、2位はマラソン、駅伝だった。3位はJリーグ(この年はシドニー五輪マラソンで高橋尚子が金メダルを取った年であり、マラソン人気が高かったのかもしれない)。
2010年にはプロ野球についでプロ野球以外の野球が急伸して2位につけている。この中には高校野球も含まれているだろうが、大部分はMLB観戦だと思われる。

MLBがわざわざスケジュールを崩してまで日本で開幕戦をするのは、日本人のMLBファンを増やすためだったのだ。2000年をのぞいて、すべてのカードに日本人選手が含まれていることでも、それがうかがえる。

2000年当時にくらべて、MLBの放送チャネルは増えたし、報道量も飛躍的に増えている。
WBCが日本でここまで盛り上がったのも、MLBが十分に種まきをしたからだと思う。


来年に予定されるNPBのアメリカ開催には、今のところこうした戦略的意図は全く感じられない。
公式戦に先立って何試合かのエキシビションゲームが組まれてはいる。NPBの選手にとっては良い経験にはなるだろうが、ただそれだけのことである。

例えば讀賣グループなどの日本メディアが、これに先立ってNPBの試合をコンテンツとして、米のケーブル局に販売するとか、NPBグッズの販売提携をするとか、そういう話がでているのならばともかく、ただ「アメリカで日本のプロ野球をする」ことに何の意味があるのか、理解に苦しむ。

加藤良三コミッショナーは、真の意味での「ワールドシリーズ(NPBとMLBの勝者による優勝決定シリーズ)」の実現を口にしている。
その第一歩としての公式戦開催かも知れないが、プロ野球はアマチュアスポーツではない。しっかりしたビジネスモデルが伴わなければならないのだ。

アメリカは自分の国のスポーツが一番だと思っている。そこにNPBの球団が出かけて行って公式戦をしたとしても、物好き以外は集まらないはずだ。在米邦人や日系人の観客を期待して西海岸でやるとのことだが、空席が目立ったり、米での報道が小さかったりすれば、恥をかくだけのことだ。
CATVや、3大ネットワーク、ESPNなどに試合中継を販売するような話は進んでいるのだろうか。物珍しさに惹かれた米マスコミがハイライトを報道するだけではないのか。

放送コンテンツやグッズをビジネスベースで売らないのであれば、主催球団の本拠地での観客動員が8〜9万人減るだけではないのか。

NPBのビジネス感覚の無さには、無能を通り越して、気味悪ささえ感じるが、今回は、いくらなんでも「アメリカで野球をするだけ」ではないだろう。

追いかけて、何らかの「アメリカにおけるNPBのビジネス戦略」が発表されるのだろうと思う。今後の報道に期待したい。