今年に入り、アメリカは大手メディア企業を始めとする各所に大規模なサイバー攻撃を受けている。コンピューターセキュリティ会社・マンディアントの報告書によると、中国のサイバー専門部隊「人民解放軍総参謀部第3部第2局61398部隊」の関与が疑われているという。

ただし、61398部隊の情報内容に関しては疑問の声もある。陸上自衛隊システム防護隊の初代隊長で、現在は株式会社ラックのサイバーセキュリティ研究所で所長を務める伊東寛氏はこう指摘する。

「報告書によれば、『61398』なる部隊はマンディアント社によってIPアドレスや現実世界での拠点の場所まで暴かれたことになりますが、今の中国のサイバー部隊の技術力がそんな低レベルだとはとても思えません。報告書に記載されている人民解放軍の組織図も相当古いものですし、規模、技術ともに今では数段進んでいると見るべきでしょう」

この点については、人民解放軍の実態に詳しい軍事評論家の古是三春(ふるぜ・みつはる)氏も同調する。

「上海には、アメリカ留学経験者やアメリカ系企業に勤務した経験のあるIT専門家が多数在住しています。5年ほど前から中国は彼らを“サイバー民兵”としてリクルートしており、民間企業や国営企業、研究所に勤務しながら、軍のサイバー部隊に協力したり、公的機関のサイバー防衛システム構築に協力させている。その効果もあり、ここ3年ほどで中国の公的機関のサイバー技術は飛躍的に進歩したといいます」

サイバー戦争では民間人が国家間紛争に容易に参加できるため、取り締まりが法制上も困難なケースが多く、“21世紀の新ゲリラ戦”の様相を呈している。中国では、この“サイバー民兵”が影の巨大組織といわれ、英『フィナンシャル・タイムズ』紙の推計ではなんと総数800万人に上るという。

「さらに、人民解放軍は昨年から一般兵よりもはるかに好条件で、IT(情報技術)に長(た)けた学生などの志願を受けつけている。『懸垂が一回もできない人民解放軍戦士』が大量に生まれつつあります。また、サイバー戦を仕掛けているのは軍だけではありません。公安部(警察)、国家安全部(政府配下の諜報機関)、人民武装警察(人民解放軍から分枝した半軍事組織)が独自にサイバー戦部隊を持ち、国内外の反政府組織や海外情報機関などを攻撃しているようです」(古是氏)

軍隊から警察まで、すでにかなりの規模に達していると思われる中国のサイバー部隊。その矛先が日本に向く日も、そう遠くないかもしれない。

(取材・文/本誌軍事班[協力/世良光弘]、興山英雄)