■成績と借入金返済のノルマ

J1昇格に向けて“2つのノルマ”が課せられている大分トリニータが、7月8日の草津戦に勝利し、首位に立った。

経営再建中の大分がJ1に昇格を果たすには、成績面(2位以内で自動昇格か、6位以内に入りプレーオフを勝ち抜いて残り1枠の最終枠を勝ち取るか)以外にも高いハードルが残されている。2010年にJリーグの公式試合安定開催基金から借り入れた6億円の未返済分3億円を、リーグ最終戦1カ月前(10月12日)までに返済しなければ、自動昇格はもちろん、プレーオフ出場の道も断たれる。

クラブを運営する大分フットボールクラブの青野浩志社長は、「我々フロントは財政面で、監督、選手は成績で高いハードルをクリアしていかなければならない。双方でプレッシャーをかけながら苦難を乗り越えたい」と語り、ノルマ達成に向け走り続けている。かつて“地方クラブの星”と称されたチームとフロントの2つの視点から、今季のここまでの大分を振り返ってみたい。

■守備から主導権を握るスタイル

まずは好調のチームだが、23節草津戦を2-0の勝利で飾り、J1に在籍していた2008年の26節以来の首位となった。試合後に田坂和昭監督は「意識していないと言うと嘘になる」と前置きしたうえで、「リーグは混戦で今後もチーム力を上げていかないと勝てない。今は首位かもしれないが、内容をさらに突き詰めて、結果と内容が伴う試合をしたい」と振り返ったが、それが正直な感想だろう。

今季の大分は、圧倒的にボールを支配された試合に勝利したり、接戦を制する勝負強さを見せたかと思うと、狙いとするサッカーを実践できた試合では結果がついてこなかったりもする。評価のしにくいチームではあるが、ひとついえるのは「負けてはいけない」理由がある。それは後編で詳しく触れるので、以下、草津戦を振り返りながら23節までの収穫と、今後に向けた課題を総括したい。

はじめに収穫面。まず特筆すべきは「守備から入る手法」を必要に応じて取り入れ、それによって相応の結果を残している点である。今季の大分は“人もボールも動く攻撃サッカー”や“全員攻撃・全員守備”を目指しているが、選手の共通認識として「90分自分たちのサッカーができなければ、失点しないように自分たちの流れがくるまで耐える」手法もまた、主導権の握り方のひとつだとしている。後ろでブロックを作って守るだけでなく、ボールを失った瞬間からプレッシャーに行くこともある。どんな相手、どんな状況になっても勝利への道を探り当てることができている。

シーズン序盤は守備が安定せず、シュートを浴びたGK清水圭介は言う。
「好調を支えているのは、守備陣が局面で身体を張っているのもあるが、前線からの守備と切り替えの早さ。前の選手がパスコースを限定してくれるから、後ろは狙いを定められる。ボールを奪われた時は近くの選手がプレッシャーを掛け、相手の攻撃を遅らせている。多少バランスが崩れてもバタバタしなくなった。相手に合わせることなく、自分たちのサッカーができれば、いい結果が出せる自信がある」

■試合を読めるベテランの存在

第2のポイントとしては、試合を読める選手の存在は大きい。前線であれば高松大樹に村井慎二、中盤は宮沢正史、最終ラインは石神直哉といったベテランが各ポジションに散らばり、僅差の試合を勝ちにつなげている。昨季にはない1点差の試合をものにできているのは、彼らの試合をコントロールする能力の高さが多いに関係していると感じる。4人のベテランは、時間帯や状況を把握して何をやらなければならないかよく分かっている。

草津戦では、先制点を決めた高松が前線からの守備はもちろんのこと、攻撃ではドリブルで2、3人引きつけてからパスを出して味方を有利にするなど、状況に応じて必要なプレーを選択していた。リードしてからはアウェイの戦い方を自分たちで探り出し、効果的に試合を運び、効率よく追加点を奪い勝点3を持ち帰ることができた。