狙うは超新星の「ショックブレイクアウト現象」 - 木曽観測所の新計画始動

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東京大学大学院 理学系研究科附属 天文学教育研究センター 木曽観測所を中心とする研究グループは6月28日、同観測所が新しく開発した超広視野CCDカメラ「Kiso Wide Field Camera(KWFC)」(画像1)を用いた大規模な超新星探査プロジェクト「KIso Supernova Survey(KISS)」を2012年4月より開始し、早くも超新星爆発の発見に成功し、国際天文学連合(IAU)により「SN2012cm」(画像2)と命名されたことを発表した。

成果は、東大大学院 理学系研究科天文学専攻の諸隈智貴助教、同酒向重行助教、同三戸洋之特任研究員らを中心とした、甲南大学、国立天文台、ロチェスター工科大学、広島大学、台湾国立中央大学の研究者が協力した国際共同研究グループによるもの。

研究の詳細な内容は、国際天文学連合回報「International Astronomical Union Circulars」に掲載された。

太陽の8倍以上の非常に重い星や、2つの星がお互いの周囲を回っている連星の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こす。

宇宙に存在する水素とヘリウム以外の元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと現時点では考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象であるため、近年、世界中の多くの研究機関で、超新星爆発をターゲットとした観測が行われている。

超新星爆発は、そこに星が存在していたことを示す直接の証拠だ。

これまで可視光で爆発の瞬間である「ショックブレイクアウト現象」(画像3・4)をとらえた観測例はなく、爆発の詳細なメカニズムや、爆発直前の星の姿は未解明のままだ。

なお、ショックブレイクアウト現象とは、超新星爆発の瞬間に星内部で発生した衝撃波が、星の表面を通過する際に、急激に、わずか数時間の間、明るく青く(=高温)輝く現象のことである。

画像4は、ショックブレイクアウト現象で予想される明るさの変化(光度曲線)。

その見方だが、赤い線はこれまでによく観測されている超新星の光度曲線。

爆発の瞬間、ショックブレイクアウト現象により、わずか数時間だけ明るく輝く時期(拡大図の青線)があると理論的に予想されている。

その理由は、我々の天の川銀河や隣のアンドロメダ銀河のような地球に近い一部の銀河に属する星を除くと、遠方の銀河の個々の星々は暗いためである。

星を1つ1つ調べることは難しいので、短時間ながら太陽10億個分もの明るさで輝く超新星爆発の観測が重要になるのだ。

爆発の瞬間に超新星が発する光からは、多くの情報を引き出すことができる。

例えば、通常は測定することが難しい、爆発前の星の大きさをより正確に求めることができ、星の一生をより正確に理解できるようになるのだ。

また、2011年のノーベル物理学賞の受賞理由となった、宇宙の加速膨張の発見に使われた種類の超新星(Ia型)の爆発の瞬間の光は、いまだ不明な爆発前の連星の正体を知る手がかりになるのである。

そんな超新星をターゲットとした探査プロジェクトが、KISSである。

ほかの超新星探査とは手法を変え、一晩の間に1時間おきという短い間隔で空の同じ領域を監視する手法を採ることで、極めて稀な現象である超新星爆発の瞬間をとらえることにしたことが特徴である。

そもそもなぜ超新星爆発の瞬間をなかなか可視光で撮影できないかというと、超新星爆発は、普通の銀河では約100年に1度の頻度でしか起こらない現象だからだ。

よって、天の川銀河やアンドロメダ銀河などの地球近傍の銀河ではそうそう起こらず、効率よく発見するためには、一度に大量の銀河を観測する必要があるのである。

それを実現するために開発された広視野角CCDカメラのKWFCは、2度角四方の領域(満月16個分)を一度に観測することができ、珍しい現象をとらえるのに最適な性能を持つ(画像5・6)。