もし、出生率が低くなっているとすれば“フクシマの脅威”にさらされている私たちにとっても無関係ではない。国際電話で何人かのチェルノブイリ被曝者に当たってみた。
 「精神的なものもあるかもしれませんが、子供はできませんでした。放射線の被害じゃないかと何度もかけあいましたが、甲状腺がんではないので、『まずその可能性はないだろう』と。でもこっそりとドイツの知人医師に確認したら『まだ研究データが出ていないだけで、放射線被曝者の女性が不妊となりうる可能性は高い』ということでした」(ベラルーシの主婦・45歳)

 ソ連崩壊後、チェルノブイリはウクライナ共和国となり、賠償責任を問われることになったロシアの“政府御用達”学者たちは、偽データを流し続けたといわれている。極東事情に詳しい、ジャーナリストの田中健之氏が語る。
 「当時のソ連にとって原発被害に対しての医療は、人類で初めての経験だったので難航したという事情もあったでしょう。ウクライナは人種的に、ウクライナ系とロシア系に分かれており、政治がいま一つ安定していなかったこともあります。ただし、被曝者は住居も医療も無料で提供されていると聞きます。ベラルーシでも多くの放射性物質が飛散しましたが、同じく医療には今も手探りの感があるようです」

 事故から時が経ち、良識ある医師たちや関連団体の努力によって、今まで関係性が認められなかったさまざまな身体の異常に対しても、ようやく着目されるようになってきたという。

 そんな中、衝撃的なリポートの存在が明らかにされつつある。
 「実態ははるかに深刻だ。旧ソ連初代大統領ゴルバチョフ氏の科学顧問を務めたロシアの科学者アレクセイ・ヤブロコフ博士を中心とする研究グループが、2009年にまとめた報告書『チェルノブイリ−大惨事が人々と環境に及ぼした影響』(原題Chernobyl :Consequences of the Catastrophe for People and the Environment)は、英語だけでなくロシア語、またウクライナ、ベラルーシ現地の膨大な記録や文献から、犠牲者数を少なくとも98万5000人と見積もっている」

 これは、福島の原発事故を受け、より正確な被害報告を日本国内にもいち早く知らしめるために立ち上げられた『チェルノブイリ被害実態レポート翻訳プロジェクト』(http://chernobyl25.blogspot.com/)という研究サイトの発信文だ。
 その内容は、日本政府のゆるい見識を戒めるのに十分な言葉で埋め尽くされている。