「チェルノブイリ原発事故と比べて、汚染が及んだ距離は8分の1程度」
 文部科学省が3月13日に発表した、この福島第一原発事故による放射能土壌汚染調査報告を、そのまま信じていいのだろうか−−。

 事故直後の政府発表を思い返すと、とてもそんな気にはなれない。
 大震災翌日の午後、1号機で水素爆発が起きてから2時間以上が経過して、やっと会見場に現れた枝野幸男官房長官(当時)は、「何らかの爆発的事象があった」という何とも心もとない表現を用いた。
 その前日、つまり3・11の夜9時過ぎに、半径3キロ圏内への避難指示を出し、わずか数時間後の朝方に、その対象を10キロ圏内へ広げた際には、「万全を期しての措置。具体的に健康被害を及ぼす事態を想定する状況ではない」と説明。そして“爆発的事象”発言の後、避難範囲を今度は20キロ圏内に拡大した。
 対象エリアの住民は、この政府発表に翻弄され続けた。周辺の甚大な被害状況、ライフラインも途絶えている中で、移動手段を持たない病気治療中の人々も含めて全員が、3度にわたり行く先々への不安を抱えながら移動を繰り返したのだ。それもわざわざ、放射性物質が飛散していた北西方向へ沿うように…。

 発表でさらに問題なのは、引き合いに出したチェルノブイリ事故調査報告の信憑性だ。もしも、それが過小評価されているものだとしたら、比較には何の意味もないからである。
 1986年4月26日に起きたチェルノブイリ事故の被害をめぐっては、事故から20年が経過した2006年4月に、ウクライナ政府の主催で、国連、IAEA(国際原子力機関)、WHO(世界保健機構)も参加して開催された国際会議の最終結論として、将来の死亡予測数を従来発表の4000人から変更しないことが確認されている。
 しかし、「時間が経ってから起こる放射性物質による“がん”などの健康被害は、半減期が約30年の『セシウム137』の汚染の影響を考えるというのが、今日の医学的な公式見解」(在ロシアの日本人医師)という言葉からもわかるように、結論を出すのは本来もう少し先であるべきだ。

 チェルノブイリからおよそ100キロのキエフに引っ越しせざるを得なかった、農場を営むターニャさん(43)は怒りを交えて語る。
 「心配なのは未来ある子供たちです。子供の甲状腺がんの発症を証明するのに20年もかかっているのです。一体いつになったら元の状態に戻るのか…」

 恐ろしいのは、甲状腺がんだけではない。母乳からセシウムが検出される、出生率が極端に下がるなどが指摘されている点だ。
 「甲状腺の障害は、もちろん生殖機能に影響します。ロシアの非公式医療チームが、被曝者をモニタリングしたデータでは、男性女性とも生殖器機能障害の兆候が、8%近くあると出ています」(前出・日本人医師)