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 僕がずっと見たかった、ずっと待ち侘びていたダルビッシュが、そこにいた。


 スプリングトレーニング最後の登板となった30日コロラド戦。立ち上がりに41歳J.ジアンビーにライトスタンドへ爽快な一発を浴びたものの、6回で11三振を奪う快投でほぼほぼゲームをdominateし、いよいよ開幕に向けて上々の仕上がりを披露した。何と言っても圧巻だったのは、ロッキーズが誇るメジャー最強クラスの若きスラッガー、3番C.ゴンザレスと4番T.トゥロウィツキとの真っ向勝負。2人合わせて6打席6三振。スプリングトレーニングとはいえ、圧巻としか形容しようがなかった。決して資金が潤沢ではないロッキーズが2億ドル近く投資し2020年まで契約延長しているトゥロウィツキのバットが擦りもしないキレキレのスライダーには、アナウンサーも思わず"nasty…"と唸った。

 そう、これぞ僕が見たかったダルビッシュだった。MLBファンとして、ダルビッシュファンとして、そして同じ1986年生まれのダルビッシュ世代の1人として、世界最高の舞台で世界最高の勝負をするダルビッシュを、僕は見たかったのだ。





Darvish's 11 strikeouts

Darvish enjoys strong Cactus finish vs. Rox
Reactions to Yu Darvish's sparkling performance with 6 punch-outs from CarGo and Tulo
(ゴンザレス、トゥロウィツキから計6打席6奪三振のダルビッシュに対するTwitter上の反応まとめ)




 しっかり強烈なインパクトを残してスプリングトレーニングを締め括ったダルビッシュのレギュラーシーズンデビュー戦は、4/9のシアトル戦と発表された。いよいよ次は満を持して全米デビュー。MLBのボールにまだ違和感があるのか、ときどき球がバラつき"Wild"(荒れている)と形容されるシーンも見受けられる。また、松坂大輔の不良債権化事例もあり、ダルビッシュは本当に金額に見合った活躍ができるのか?という議論も当然ある。

 僕は全く心配していない。ダルビッシュ本人が「大丈夫」と言っているからだ。

 ダルビッシュの「大丈夫」は信頼できる。なぜなら彼は、気持ちやモチベーションといった精神論で自分を誤摩化すことを決してしないからだ。ダルビッシュ語録のひとつに「頭使わないと練習は普通に嘘つく」という発言があるが、ただ練習の量をこなして「これだけ頑張ってるんだから」と自分を納得させるような「考えない努力」に彼は一切の意味を見出さない。だから、仮にスランプに陥ろうともそれを「メンタルの問題」と片付けない。あらゆる問題を技術的問題と捉え、ロジカルに原因を特定し対処することに徹する。これの繰り返しこそが、ダルビッシュがアスリートとして今も進化し続けている理由に他ならない。

 ダルビッシュはフィールド上のメカニックだけでなく、トレーニングやサプリメントの知識にも精通し、また管理栄養士より栄養学に詳しいとも言われる。全ては自分を理解し自分自身で自分を管理するためだ。責任感が強いとかいう話ではなく、アスリートとして自分の身体に関わることは全て自分で根拠を持って理解、把握していないと気が済まないのだろう。自分のパフォーマンスと日々の行動との因果関係は全て自分で把握し、責任を持つ。そうしなければ、更なる進化のために何をすべきか、自分自身で理解できないからだ。何というプロフェッショナリズムだろうか。こんな男が「大丈夫」と言うのだから、大丈夫じゃないわけがない。子供みたいなロジックだがしかし、僕はそう考えているのだ。



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 さて、そんな訳でダルビッシュにはサイヤング賞獲得を期待せずにはいられないわけだが、僕はとにもかくにもダルビッシュのMLB移籍を待ち侘びていた。札幌ドームで、ひとりリトルリーグに混じっているかの如く貧弱な打者達を捻じ伏せるダルビッシュには、もう食傷気味だった。プロフェッショナル同士の真剣勝負はもはや成立せず、ひとり別次元のゲームを楽しむダルビッシュは凄みを通り越してある種のエンターテイメント性を提供していたが、もはやそれすら失われつつあった。何よりダルビッシュ自身が孤独なゲームに限界を感じ、楽しめなくなっていた。だからダルビッシュは、アメリカに来た。チープな精神論が入り込む余地のない、最高峰の技術と技術のぶつかり合いに完結した世界で「勝負」を楽しむダルビッシュを、僕は見たかったのだ。

 ダルビッシュがMLBへ移籍したことを残念に思う人もいるだろう。特に北海道日本ハムファイターズのファンの方ならなおさら。しかしこれまであまりMLBに興味がなかった人にも、是非ダルビッシュをキッカケにMLBを観て欲しい。それも「ダルビッシュ、好投で〜勝目」というニュースやハイライトだけ見て喜ぶ消費の仕方ではなく、是非ライブ観戦をして欲しい。ダルビッシュが世界最高のスラッガー達を相手に、日本では観られなかった最高の真剣勝負を繰り広げる「瞬間」のあの興奮を是非堪能して欲しい。それこそが今も昔も変わらない、メジャーリーグ最高の醍醐味である、と僕は思う。

 ダルビッシュとて、人の子。圧倒的なピッチングでゲームを支配する日もあれば、バックスクリーンに笑っちゃうくらいの豪快なホームランをぶち込まれる日もあるだろう。勝つ日も負ける日もあるだろう。その全てを堪能して欲しい。ゲームの結果だけを見て、勝ったor負けた、プーホルスを抑えたor打たれた、と一喜一憂するだけでは勿体ない。メジャーの打者をキリキリ舞いさせるダルビッシュに痺れるのはもちろん、真っ向勝負で完璧に打ち砕かれる(日本ではほとんど見ることができなかった)ダルビッシュも是非堪能して欲しい。MLBは本当に、世界中から凄い奴が集まっているドラゴンボールの世界だ。そのダイナミックなスケール感の下繰り広げられる勝負にこそ、僕等MLBジャンキーは懲りず痺れているのだ。

 他のスポーツもそうだが、MLBの楽しみ方は随分多様化した。スマートフォンのおかげでMLBの試合結果なんていつどこでも見れるし、あるいはコンピュータにかじりついてデータと格闘するような21世紀的楽しみ方も発達した。世界中の大学でスポーツビジネスのMBAが開設され、ビジネスの観点からMLBを語る人も増えた。テクノロジーや情報の変化と共に新しい楽しみ方が生まれるのはクリエイティブだし、先進的なイノベーションはMLBの魅力のひとつだ。

 しかし一方で、こんな時代だからこそできればボールパークで、MLBの魅力の原点ともいえる「勝負の瞬間」を味わい噛み締めたいものだ。非日常とさえ感じられる程の、凄い奴と凄い奴の真剣勝負。「アスリートとして真剣勝負がしたい」とアメリカへ渡ったダルビッシュは、そんな勝負を絶対に見せてくれるはずだから。


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 データを見てあれこれ語るのも文句なしに楽しいし、マネジメントに好き勝手口を出すのもやはり文句なしに楽しいが、今季は改めてMLBのドラゴンボールな世界を存分に楽しみたい。プロの勝負に対するダルビッシュの真摯で貪欲な姿勢を目の当たりにして、改めてメジャーリーグの根っこの魅力に気付かされたような、そんな気がする。

 全く凄い男だ。

 Rock with Yu!!!



halvish