ポスティングでメジャー移籍を目指す青木宜親(ヤクルト)に対し、1月17日までの独占交渉権を獲得しているミルウオーキー・ブルワーズは、交渉開始に当たり同球団のアリゾナのトレーニング施設での「入団テスト」を受けるよう要求してきました。
この前代未聞の状況に、ヤクルトのポスティング額受諾の段階で「憧れのメジャー入りに一歩近付いた」と、大きく夢を膨らませていた当の青木は、少々困惑しているようです。

このことには、ポスティングに関する彼我の認識の違いが如実に現れており、大変興味深いものがあります。
日本でのスポーツ新聞等のメディアの報道によると「在日スカウトが居ないブ軍ならでは」の事態となっていますが、実際はもう少々根が深い問題です。

まずは、ブルワーズは青木の日本での成績をメジャーに置き換えた場合にどう「翻訳」すれば良いか、図りかねているということでしょう。
アメリカのメディアでも「かつてはイチローの再来と呼ばれた」と紹介されているようですが、2007〜2010年の平均成績が打率.350、出塁率.430、長打率.500と文句なしなのに対し、統一球が採用された今季はそれぞれ.292/.358/.360という「凡庸な」ものだからです。
これは、投手であるダルビッシュ有にも言えることですが、現時点では「統一球採用後」のNPBでの成績をどう評価すべきか?
まだメジャーにはスタンダードが無い状態なのです。

したがって、ブルワーズは「とりあえず入札した」のですが、「必ずしも青木との契約成立を前提としていない」のです。
ポスティングフィーの250万ドルは決して「どうでも良い金額」ではありませんが、それほどリスクの大きな金額でもありません。
いわんや契約が不成立の場合は、支払う必要がないのですから。
したがって、(可能性は極めて低いとは思いますが)年明け早々のアリゾナでのテストの結果、ブルワーズがメジャー最低年俸程度のオファーしかしない、というシナリオは決してあり得ないとは言い切れません。
要するにブルワーズは青木という「商品」を極めて冷静に、ビジネスライクに見ているのです。

それに対し、純粋な青木は交渉相手も決まっていない段階でありながら、ファン感謝イベントで「メジャーに行って来ます」などと発言し、メジャー移籍の成立を既成事項のように振舞って来ました。このことで、青木を「甘っちょろい」と非難はしたくありあせん。

しかし、(かつてSLUGGER誌にも書かせていただきましたが)とかく日本人選手やNPB球団がポスティングを「夢を叶えるツール」として情緒的に捕らえているのに対し、メジャーにとってはあくまで「ビジネス・ツール」でしかありません。
今回の「青木入団テスト事件」はそのことを再認識させてくれました。

もっとも悲観ばかりもしていられません。
来季のブルワーズの外野は、レフトにMVPのライアン・ブラウン、センターに青木に似たタイプの俊足巧打のナイジャ・モーガン、ライトには今季26本塁打のコリー・ハートと一見「鉄板」ですが、ご存知の通りブラウンは薬物問題で開幕から50試合の出場停止処分の可能性が大です。

さらに、プリンス・フィルダーのFA流出が決定的な一塁にも弱点があります。
来季、フィルダーの後釜には若手のマット・ギャメル起用が有力との見方がありますが、なにせ実績が無いため未知数です。
仮に、(本来強打者が居座るべき」一塁のギャメルが「機能しない」ということになれば、ハートあたりが外野からコンバートされる可能性もあるでしょう。
そうなると、ますます青木のチャンスが広がることになるでしょう。