訳あってスペインのアストゥーリアス州に滞在しておりますが、この地方は古くはキニ、近年ではルイス・エンリケやダビド・ビジャなどを輩出しているフットボール処で、州都オビエドと隣町のヒホンにそれぞれスペイン国内では有名なクラブが存在します。僅か100万人強の人口を数えるスペイン北部のカンタブリア海岸に面した小さな州ですが、同国の歴史を語る上で欠かせないレコンキスタ発祥の地として知られ、世界遺産に登録される建築物を有するなど、伝統と格式のある地域です。因みにF1界の名パイロットとして名高いフェルナンド・アロンソも、このアストゥーリアス地方の出身です。

また、スペイン発のノーベル賞とも言うべきアストゥーリアス皇太子賞は、1981年から始まったスペインの皇太子が主宰する世界的に有名な賞ですが、過去には前述のアロンソやナダル(スポーツ部門)、ウッディ・アレン(芸術部門)等に授与され、今年の平和部門賞は、福島第一原子力発電所の危機対応に当たった作業員、消防士、自衛官に与えられています。私はこの地方を1980年代から十数回訪問しているのですが、日本人には馴染みの薄い地域とは言え、古都の趣を持つ山海の美しい自然に囲まれた素晴らしい地域なので、旅行好きの皆様には是非一度訪れて頂きたい場所であります。

折しも同じスペインのカタロニア地方からは州都バルセロナの誇るFCバルセロナがクラブ世界一決定戦の為に来日中ですが、同大会はこちらでも全試合生中継されていて、私もオンタイムで観戦しております。準決勝戦では前述のダビド・ビジャ選手が大怪我をしましたが、ここではさすがに故郷出身の選手に関する情報は早く、現地の知人であるAさんが「骨折で6か月の戦線離脱だそうだ」と私も知らないことまで教えてくれました。スポーツ紙もいかにして同選手が怪我を負った後、バルセロナに戻ったかを、図解入りで大々的に報じるなど、さすがはスペインと思わずにはいられません。
ところで、現在ヒホンを本拠地としているスポルティング・デ・ヒホンは、小さなクラブでありながらリーガ・エスパニョーラの1部で頑張っており、ヒホン市民は4季連続でトップリーグに留まっているおらがチームを誇りにしています。

一方、ヒホンにとってアストゥリアス・ダービーのライバルとなる隣町のクラブ、レアル・オビエドですが、2001〜2002シーズンに2部に降格してからは凋落の一途を辿り、現在は2部B(実質3部)に低迷し、宿敵スポルティング・デ・ヒホンに大きく水を開けられています。しかし、そんな不信を囲っているレアル・オビエドですが、今でも1万人強の会員がいて、今季のナイキ社製のレプリカ・ユニフォームは6000枚も売れ、メーカーを驚かせたとか。オビエド在住で、かれこれ30年来の付き合いのあるカルメンさんの御主人は、生まれた時からの会員で、ついこの間誕生したお孫さんも既に会員という筋金入りのサポーターです。

本場欧州にいると、このように自然と生活の中にフットボールが溶け込んでいる様子がひしひしと伝わってくるのですが、何かの洗礼を浴びているかのような気分にさせてくれます。

しかし、一方で押し寄せる欧州危機の波はスペイン・フットボール界にも悪影響を及ぼしており、グローバルなスポーツであるフットボールと世界経済が切っても切れない関係にあることも痛感する次第です。リーガ・エスパニョーラの試合はクラシコでもない限り満員になることはありませんし、今節のセヴィージャ対レアル・マドリード戦という好カードもサンチェス・ピスファンは7〜8割の入りでした。おまけにセヴィージャのユニフォームの胸にはスポンサーが入っておらず、白いユニフォームがやけに淋しく感じました。そして、その他のカードも多くが雨模様という天候のせいもありますが、押しなべて6割程度の観客しか入っていません。私の観戦したスポルティング・デ・ヒホン対エスパニョール戦もお寒い内容と比例するかのように6〜7割の入りでした。個人的には雨の降る寒い夜の上に、友人のいるスポルティング・デ・ヒホンが敗れた為に、心底寒い思いをする羽目になってしまいました。