2011年の米メジャーリーグは、セントルイス・カージナルス5年ぶり11度目のワールド・シリーズ制覇で幕を閉じた。

 第6戦の大逆転勝利で王手をかけたカージナルスは、最終戦、3回にアレン・クレイグのソロホームランでテキサス・レンジャーズに3対2と勝ち越すと、5回に2点、7回に1点を追加。投げては、先発のクリス・カーペンターが6回2失点にレンジャーズ打線を封じ込めた。

 なお、MVPには、ポストシーズン史上最多の21打点を記録したデービッド・フリースが選ばれた。

 トロフィー・ワイフという言葉がある。金持ちの男性が若くて美しいご夫人を、まるで優勝トロフィーのように見せびらかすというのが本来の意味だが、メジャーリーグにはもう1つの意味がある。
 ボストン・レッドソックスは2004年、ワールド・シリーズを制したが、その際、スケジュールの都合、球団の営業部長であるチャック・スティードマン氏が1日だけ自宅で優勝トロフィを保管することになった。
 なにせ86年ぶりの快挙である。トロフィにもしものことがあったら、大問題だ。スティードマン氏は、寝室から妻を追い出し、トロフィを抱いて寝て保管したそうだ。
 このことからトロフィ・ワイフは、「妻の代わりに抱いて寝るトロフィ」という別の意味を持つようになった。

 米メジャーリーグでは、ワールド・チャンピオンはそれぐらい重要な意味を持っているのだ。優勝会見時、主砲、アルバート・プホルスに、来季以降の契約に関する質問が向けられた。
 プホルスの今季の年俸は1,600万ドル(12億1,600万円)。財政問題から、カージナルスにプホルスを惹きとめる余裕は無い。そのため、空振り三振に倒れた最終打席が、カージナルスでの最後になる可能性が高い。ファンならずとも、来季以降のプホルスには注目が高い。
 だが、歓喜の中でのこの手の質問は、いかにも不粋。プホルスも、「今は歓喜を味わいたい。契約のことなんて、不適切な質問だ」と、質問を遮った。

 このような質問は、わが国でも見られる。オリンピックのような大舞台で、選手が競技を終えるなり、現役続行を問う質問がマスコミから寄せられる。

 スクープを求めるのはマスコミの性だが、選手はこの日のために、長い年月を犠牲にしてきた。記録更新での歓喜、挑戦に失敗したことへの失望などで、翌日以降のことなど頭に無い。
 そんな状況であのような質問は、他人の家に土足で上がりこむようなものだ

 わが国のプロ野球でも、昨日からクライマックス・シリーズが開幕した。パリーグでは、福岡ソフトバンクホークス和田毅北海道日本ハムファイターズダルビッシュ有埼玉西武ライオンズ中島裕之と、今オフのメジャー挑戦が噂されている選手がいるが、どこのチームが勝ち進んでも、マスコミから「来季はメジャーですか?」の質問はご勘弁を。当人はもちろん、チームメイト、ファンもしらけてしまう。