ダルビッシュに10億円の価値はあるのか
北海道日本ハムファイターズが、今オフ、ポスティング・システムによる米メジャーリーグ挑戦が噂されているエースのダルビッシュ有の引きとめに、最大で年俸10億円を用意していることが明らかになった。18日付のスポーツニッポン紙が報じた。
10億円は、今季の年俸5億円から倍増で、球界でも最高額。メジャーリーグでは、仮にダルビッシュが移籍した場合、その年俸は1,000万ドル(7億7,000万円)前後と言われているから、それをも凌駕する。
それでも大社啓二球団オーナーは、「ダルビッシュの5年連続防御率1点台は金田正一、稲尾和久さんでもできなかった偉大な記録。あれだけの大エースが残ってくれるなら7億、いや10億円まで考える必要があるんじゃないか」と、エースの引きとめに必死だ。
はたして、ダルビッシュに10億円の価値があるのか。
これまでの成績を見れば、10億円という高額も惜しくない。ダルビッシュは入団から昨年までの6年間で、75勝を積み重ね、防御率は2.12。大社オーナーが指摘したとおり、2007年から防御率1点台が続いている。奪った三振数は974個だ。
今季も、18勝で、防御率は1.44。東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大にリーグトップは譲ったものの、堂々の2位だ。また奪三振数は、リーグ1位の276個を記録している。
昨年までに獲得したタイトルは、2度の最優秀防御率と最多奪三振、1度の最高勝率をはじめ、MVP、沢村賞、ゴールデングラブ賞、ベストナインと枚挙に暇が無い。
まさにわが国を代表するエースに、10億円という大金は決して高くは無いだろう。
だが、営業面から見た費用対効果では、話は別だ。大社オーナーは「費用対効果は十分にある」と強調しているが、そもそも選手の費用対効果を計算するのは難しい。ダルビッシュ一人のおかげで、観客動員数がこれだけ増え、グッズが売れ、メディアとの放映権契約の金額が跳ね上がり、スポンサーも増えたと、定量的に表せないからだ。
そもそも、プロ野球球団の営業は、われわれの一般企業と大きく異なっている。球団の営業日は一般企業とほぼ同じだが、収入が見込まれるのは、本拠地で試合が開催される72日間。それも、球場に観客がいる時間は、1日あたり4時間から5時間だ。一般企業と比べ、圧倒的に短い。
しかも、先発ローテーション投手であるダルビッシュが、札幌ドームのマウンドに上がるのは、年間12日間前後。もちろん、ダルビッシュが登板しない日も彼のグッズは売れるだろうが、ダルビッシュが直接営業に貢献できるのは、1年間に12日しかないのだ。
さらに、球場にはキャパシティがある。札幌ドームの収容人数は4万,476人。2010年の1試合あたりの平均観客動員数は2万7,027人で、1万3,449人の空席があったが、この空席を埋めたとしても、球団が10億円を投資を回収できるとは思えない。
当ブログで幾度となく紹介したように、ファイターズは2004年に本拠地を移転して以来、親会社からの自立を目指し、数々の改革を実行してきた。
企業理念に「Sports Community」、経営理念に「Challenge with Dream」、活動指針に「Fan Service First」を掲げ、企業理念の「Sports Community」では、球団株の26%をJR北海道、北海道新聞社など地元企業に持ってもらうことで、地元に根付かせた。釧路や旭川といった道内の球場で公式戦を開催している他、オフには、選手や、マスコットのブリスキー・ザ・ベアー、通称B・Bが道内各地を回り、イベントに参加している。
経営理念の「Challenge with Dream」では、婚活シートなど、他球団の先陣を切る形で新たなイベントに挑戦している。活動指針の「Fan Service First」では、全選手にファンサービスを徹底させている。
他にも、親会社からの資金援助を、これまでの赤字の補填から予算制度に切り替えた。援助額が定額になったことで、球団スタッフに緊張感をもたらした。
チームの編成では、GM(General Manager)制度、独自の指標で選手を評価するBOS(Baseball Operation System)を採用したことで、効率化を図った。
これら一連の改革が実を結び、球団の純損益は、2003年度の39億円の赤字から、2009年度には3億3,000万円の黒字に変わったが、ダルビッシュに用意したと言われる10億円は、これまでの改革をいっきに吹き飛ばしてしまう破壊力を持っている。
一方で、10億円もの大金を用意する球界に、期待していないわけでもない。わが国では毎年、スター選手のメジャー流出が懸念されている。これまでにも、イチロー(シアトル・マリナーズ)、松井秀喜(オークランド・アスレチックス)、松坂大輔(ボストン・レッドソックス)、黒田博樹(ロサンゼルス・ドジャース)、上原浩治(テキサス・レンジャーズ)、高橋尚成(ロサンゼルス・エンゼルス)などが海を渡ったが、潤沢な資金を持つメジャーリーグに、わが国の球団はまったく太刀打ちできなかった。
そんな中で、ファイターズが用意していると言われる10億円は、メジャーリーグにわが国の存在感を訴えることになる。
また、球界自体が大きく変わることも、期待できる。仮にファイターズがダルビッシュと10億円で契約できれば、これに引っ張られるようにして、他の選手年俸も上がるだろう。かつては大台といわれた1億円プレーヤーが、今では日本人選手だけで74人、日本人選手全体の10%も占めるように、ダルビッシュの年俸10億円は、選手年俸を引き上げる。
そうなると、球団にはいっそうの努力が求められる。メジャーリーグでも、FA制度が採用されて以来、選手年俸は右肩上がりだが、リーグは、傘下球団の増加、南米・アジアへの市場の拡大、インターネットビジネスの展開、WBC(World Baseball Classic)の開催などと、次々と収益拡大策を打ち出してきた。
ダルビッシュの10億円で、わが国でも球団に危機感が募り、これまで以上に改革を打ち出さざるを得なくなる。
先日、ファイターズの球団職員と会話をする機会があったが、その際職員は、「仮にダルビッシュの年俸が高騰しても、球団の予算で調整する」と話していた。
くれぐれも、親会社に泣きついて10億円を確保する、という時計の針を戻すような事態は、回避して欲しい。
10億円は、今季の年俸5億円から倍増で、球界でも最高額。メジャーリーグでは、仮にダルビッシュが移籍した場合、その年俸は1,000万ドル(7億7,000万円)前後と言われているから、それをも凌駕する。
はたして、ダルビッシュに10億円の価値があるのか。
これまでの成績を見れば、10億円という高額も惜しくない。ダルビッシュは入団から昨年までの6年間で、75勝を積み重ね、防御率は2.12。大社オーナーが指摘したとおり、2007年から防御率1点台が続いている。奪った三振数は974個だ。
今季も、18勝で、防御率は1.44。東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大にリーグトップは譲ったものの、堂々の2位だ。また奪三振数は、リーグ1位の276個を記録している。
昨年までに獲得したタイトルは、2度の最優秀防御率と最多奪三振、1度の最高勝率をはじめ、MVP、沢村賞、ゴールデングラブ賞、ベストナインと枚挙に暇が無い。
まさにわが国を代表するエースに、10億円という大金は決して高くは無いだろう。
だが、営業面から見た費用対効果では、話は別だ。大社オーナーは「費用対効果は十分にある」と強調しているが、そもそも選手の費用対効果を計算するのは難しい。ダルビッシュ一人のおかげで、観客動員数がこれだけ増え、グッズが売れ、メディアとの放映権契約の金額が跳ね上がり、スポンサーも増えたと、定量的に表せないからだ。
そもそも、プロ野球球団の営業は、われわれの一般企業と大きく異なっている。球団の営業日は一般企業とほぼ同じだが、収入が見込まれるのは、本拠地で試合が開催される72日間。それも、球場に観客がいる時間は、1日あたり4時間から5時間だ。一般企業と比べ、圧倒的に短い。
しかも、先発ローテーション投手であるダルビッシュが、札幌ドームのマウンドに上がるのは、年間12日間前後。もちろん、ダルビッシュが登板しない日も彼のグッズは売れるだろうが、ダルビッシュが直接営業に貢献できるのは、1年間に12日しかないのだ。
さらに、球場にはキャパシティがある。札幌ドームの収容人数は4万,476人。2010年の1試合あたりの平均観客動員数は2万7,027人で、1万3,449人の空席があったが、この空席を埋めたとしても、球団が10億円を投資を回収できるとは思えない。
当ブログで幾度となく紹介したように、ファイターズは2004年に本拠地を移転して以来、親会社からの自立を目指し、数々の改革を実行してきた。
企業理念に「Sports Community」、経営理念に「Challenge with Dream」、活動指針に「Fan Service First」を掲げ、企業理念の「Sports Community」では、球団株の26%をJR北海道、北海道新聞社など地元企業に持ってもらうことで、地元に根付かせた。釧路や旭川といった道内の球場で公式戦を開催している他、オフには、選手や、マスコットのブリスキー・ザ・ベアー、通称B・Bが道内各地を回り、イベントに参加している。
経営理念の「Challenge with Dream」では、婚活シートなど、他球団の先陣を切る形で新たなイベントに挑戦している。活動指針の「Fan Service First」では、全選手にファンサービスを徹底させている。
他にも、親会社からの資金援助を、これまでの赤字の補填から予算制度に切り替えた。援助額が定額になったことで、球団スタッフに緊張感をもたらした。
チームの編成では、GM(General Manager)制度、独自の指標で選手を評価するBOS(Baseball Operation System)を採用したことで、効率化を図った。
これら一連の改革が実を結び、球団の純損益は、2003年度の39億円の赤字から、2009年度には3億3,000万円の黒字に変わったが、ダルビッシュに用意したと言われる10億円は、これまでの改革をいっきに吹き飛ばしてしまう破壊力を持っている。
一方で、10億円もの大金を用意する球界に、期待していないわけでもない。わが国では毎年、スター選手のメジャー流出が懸念されている。これまでにも、イチロー(シアトル・マリナーズ)、松井秀喜(オークランド・アスレチックス)、松坂大輔(ボストン・レッドソックス)、黒田博樹(ロサンゼルス・ドジャース)、上原浩治(テキサス・レンジャーズ)、高橋尚成(ロサンゼルス・エンゼルス)などが海を渡ったが、潤沢な資金を持つメジャーリーグに、わが国の球団はまったく太刀打ちできなかった。
そんな中で、ファイターズが用意していると言われる10億円は、メジャーリーグにわが国の存在感を訴えることになる。
また、球界自体が大きく変わることも、期待できる。仮にファイターズがダルビッシュと10億円で契約できれば、これに引っ張られるようにして、他の選手年俸も上がるだろう。かつては大台といわれた1億円プレーヤーが、今では日本人選手だけで74人、日本人選手全体の10%も占めるように、ダルビッシュの年俸10億円は、選手年俸を引き上げる。
そうなると、球団にはいっそうの努力が求められる。メジャーリーグでも、FA制度が採用されて以来、選手年俸は右肩上がりだが、リーグは、傘下球団の増加、南米・アジアへの市場の拡大、インターネットビジネスの展開、WBC(World Baseball Classic)の開催などと、次々と収益拡大策を打ち出してきた。
ダルビッシュの10億円で、わが国でも球団に危機感が募り、これまで以上に改革を打ち出さざるを得なくなる。
先日、ファイターズの球団職員と会話をする機会があったが、その際職員は、「仮にダルビッシュの年俸が高騰しても、球団の予算で調整する」と話していた。
くれぐれも、親会社に泣きついて10億円を確保する、という時計の針を戻すような事態は、回避して欲しい。
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