■ 辞退が決定

今年の7月にアルゼンチンで行われる予定のコパ・アメリカに、日本代表チームが出場するのか、辞退するのかで揺れていたが、結局、コパ・アメリカは辞退することが決定し、アルゼンチンサッカー協会が、日本サッカー協会から「辞退を伝える書簡」を受け取り、受理されたことが明らかになった。

3月11日の震災の影響でJリーグが中断し、未消化試合を7月に埋める必要が出てきたため、Jリーグのクラブがコパ・アメリカの辞退を要請。4月初めに日本サッカー協会の小倉会長が「辞退する。」という結論を持って、南米に渡り、いったんは「日本代表の辞退が決定した。」と報道されたが、アルゼンチンサッカー協会等に慰留されて結論を先送りにし、「メンバーが集まるようならば参加する。」として、コパ・アメリカ参加の可能性を探ってきたが、結局、思うようなメンバーが集まらなかった。

■ 海外組の多くを招集できず

最初に「辞退の可能性がある」という話を聞いた3月末の時点では、「せっかくの機会なので、海外組+大学生というメンバーで出場するのがベターではないか?」と思ったが、よくよく考えてみると、大学生も忙しい時期で、彼らにも都合がある。また、海外組についても、日本の事情も考慮し招集に応じてもらえるかと思ったが、予想以上に厳しかった。

辞退となったことで、「強化」という視点で考えると、貴重な体験の場を失ったことになるが、これだけ、海外組が多い中で、主力の海外組を呼べないとなると、ベストとは程遠いメンバーになってしまう。仮に、国内のクラブがFW前田、MF遠藤、DF今野ら主力選手を提供していたとしても、寄せ集めに近いチームになってしまうので、「強化」になったかも疑問であるが、国内組も主力が出ないとなると、なおさらで、「強化」の意味は薄れてくる。

■ 辞退のタイミング?

今回の件で、ちょっと見直したのが、日本サッカー協会の対応である。かなりしたたかに話を進めていって、最終結論まで導き出したといえる。

震災の影響が全てなので、「誰が悪い。」とか、「どこが悪い。」というレベルの話ではないのだが、誰かを悪者にして、憂さ晴らしをしたくなるものである。その矛先が、誰にも向かないように、うまく話を進めていったといえる。

4月始めに、小倉会長が「辞退を撤回し、条件が整ってたらコパ・アメリカに参加する。」という回答をして、日本に戻ってきたときは、「いろいろと揉めそうなので、返事を引き延ばすのであれば、きっぱりと、その場で辞退を告げるべきだった。」と思ったが、今になると、このときの、小倉会長の判断は正しかったと思える。

もし、このときに「辞退します。」と最終回答していたら、コパ・アメリカの出場を望む人たちからの反発は必至で、「なぜ、海外組を中心としたメンバーで出場しないのか?」、「なぜ、会長が独断で判断するのか?」という非難の声が上がってきたのは確実だった。この時点では、海外組がどの程度呼べるのかははっきり分かっておらず、「海外組は招集できる。海外のクラブは招集に応じるはず。」と考える人は多かった。

■ 辞退のタイミング?

日本サッカー協会は、最後まで召集の可能性を探っていたと思うが、その一方で、明らかにはしなかったが、4月始めの時点で「DF内田、DF長友、MF香川、FW岡崎らの招集が難しいこと。」は分かっていたはずで、南米連盟の「招集できるように努力する。」という言葉も、あまり信用はしていなかっただろう。

結果的にそうなったのか、日本サッカー協会のシナリオ通りだったのかは分からないが、「メンバーが集まるなら参加する。」と回答し、その後、交渉の過程を表に出しつつ、「難しそうなので辞退する。」と決断したことで、Jリーグのメンツも、南米サッカー協会もメンツも保たれることになった。日本サッカー協会が、「メンバーが揃うのであれば参加する。無理なら辞退する。」という立場で一貫していたのも、よかったといえる。

■ 代表か?クラブか?

一連の騒動が集結したが、終わってみると、日本サッカーの空気が、ちょっと変わってきていることが感じられる結果に落ち着いた。

10年くらい前であれば、代表の活動が優先されることが多かったので、Jリーグ側が「辞退してほしい。」と要望を出したところで、受け入れられなかったような気はする。話し合いに応じたとしても、独裁者のような人が出てきて、「ベストメンバーでの参加する。」とか、「各クラブ一人だけ招集して参加する。」という結論を出していたのではないか?と想像できる。

確かに、W杯やアジアカップでの盛り上がりを見ると、日本代表には大きなパワーがある。日本代表チームが活躍することで、(一部のクラブに限定されるが、)Jリーグにもプラスの効果がもたらされる。サッカー界を盛り上げるためには、無視できないものであり、近視眼的にみると、そういったパワーも必要であるが、だからといって、選手やクラブ、リーグの活動を無視してまで、代表を優先するのが正しいかというと、そういうわけではない。

突き詰めていくと、「クラブチーム」も、「代表チーム」も、同じように「日本サッカーを強くすること。」が究極の目標になるが、必ずしも、その利害が一致するわけではなく、対立することもある。

今の日本と同じような状況になったとき、「喜んで中心選手を代表に派遣してくれるクラブ」が世界にどれだけあるだろうかと考えてみると、ほとんどないだろうが、一方で、欧州の一流国のように「クラブ優先」に傾きすぎるのも、あまり好ましいとは思わない。「常に代表優先。」となっても、「常にクラブ優先」となっても、お互いのプラスにはならない。

要はバランスが大事である。「コパ・アメリカは無理してでも行け。」、「誰の、何のためのJリーグか。」、「南米選手権不参加はタダじゃ済まない。」と、ヒステリックに騒いでいたのは、セルジオ越後氏くらいだったのも救いであり、多くのサポーターは冷静に物事を判断し、「参加できないのは残念だけれども、仕方がない。」というスタンスを保った。




関連エントリー

 2007/12/16  オシムジャパンを殺したのはセルジオ越後か?
 2008/01/14  金子達仁さんのレッズサポ批判
 2009/08/14  Jリーグの危機説を疑う。
 2010/12/10  サッカーを伝えるメディアの怖さ
 2011/03/23  南米選手権は参加か?辞退か?
 2011/03/29  日本代表の合宿(@長居スタジアム)を見てきました。
 2011/03/29  【日本代表×Jリーグ選抜】 スーパースター・三浦知良
 2011/04/11  コパ・アメリカは辞退するのがベターではないか?
 2011/04/14  コパ・アメリカに関する素朴な疑問に答えてみた。