ロンドン五輪を目指す宇佐美貴史(Photo by CSPA/PHOTO KISHIMOTO)

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日本代表のコパ・アメリカ出場が危うくなっている。

選手を派遣するJリーグ側には、東日本大震災の影響で中止となったリーグ戦を、コパ・アメリカ開催中の7月に行いたい意向がある。代表強化の観点に立てば、南米の強豪とアウェイで対戦するのは簡単に手離したくない。

99年のコパ・アメリカを取材した者としては、たとえ惨敗しても出る価値はあると思う。当時対戦したパラグアイ、ボリビア、ペルーは、キリンカップなどで来日するときとはまったく違う表情を見せた。

なかでも鮮烈なのは、開催国パラグアイとのゲームである。もうすぐ12年が経過しようとしているが、99年7月のアスンシオンで体験した空気は、僕にとって特別なものだ。01年3月のフランス戦や、04年アジアカップ決勝の中国戦なども緊迫感が漂っていたが、あのパラグアイ戦は別格と言うしかない。アジアの公式戦やヨーロッパでの親善試合では、決して味わうことのできない威圧感を覚えた。本物のアウェイがあった。

今回もまた、開催国のアルゼンチンと同じグループに振り分けられている。昨年10月の親善試合で日本が勝利していることを考えれば、彼らが高いモチベーションで望んでくるのは容易に想像できる。アルゼンチンがすでにグループリーグ突破を決め、メンバーを落としてきたとしても、困難な相手であることに変わりはない。定位置奪取を目ざすサブのメンバーにとっては、格好のアピールの機会となるからだ。ドイツW杯のグループリーグ最終戦で対戦したブラジルの控え選手が、そうであったように。

国内のテストマッチとはまったく違う雰囲気のなかで、ザックの若いチームはどのような戦いをするのか。国際舞台で「戦う」ことの意味を教えてくれる一戦を、彼らにぜひ経験してほしいと思う。

Jリーグとの日程調整は難航するだろう。どのような結論に着地しても、誰もが納得できる最適解はない。それでも、コパ・アメリカへの派遣を、簡単に諦めたくないと思うのだ。

強化スケジュールの調整については、U−22日本代表のほうが切迫しているかもしれない。ロンドン五輪2次予選は、6月に行なわれるからだ。今回の2次予選は、二か国によるホーム&アウェイである。チャンピオンズリーグやACLに当てはめれば、いきなり決勝トーナメント1回戦からスタートするようなものだ。少しずつ調子をあげていく余裕はない。6月19日にホームで行なわれる初戦へ、照準を合わせる必要がある。

ここでも難しいのが、Jリーグとの日程調整だ。6月1日のテストマッチはすでに決まっているが、関塚隆監督からすれば、4月や5月にもチームを集めたいのが本音だろう。

フル代表へつながる選手を育成していくためにも、ロンドン五輪出場は至上命令である。ましてやロンドン世代は、U-20ワールドカップ出場を逃している。世界を肌で感じることのできていない選手ばかりだ。

クウェートとのホーム&アウェイで敗れたら、22歳以下というカテゴリーでの強化はその時点で終了してしまう。継続的な強化を実現するためにも、9月開幕の最終予選へ進出しなければならない。

オリンピックという大会の位置付けも見逃せない。前回のコラムでも触れたように、日本人にとってのオリンピックは国民的なイベントである。スポーツの力をことさらに誇張するつもりはないが、被災した方々に少しでも勇気を与える、あるいはそのきっかけにサッカーがなり得るのは、先のチャリティーマッチが教えてくれた。

08年の北京五輪では、なでしこジャパンの躍進が国内を盛り上げた。ベガルタ仙台や鹿島アントラーズの選手が、被災地にゆかりのある選手がロンドンのピッチに立てば、復興を目ざす人々の励みになると思う。

募金や物資などの支援と同時に、精神的にも被災地を盛り立てていきたい。しかも、継続的なスパンで。オリンピックはその貴重な舞台である。万全の状態でクウェートを迎え撃てるように、U-22代表の強化を進めてほしいと思う。

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