最近、ホームレスの中にも、何らかの精神疾患を抱えている人が増えているという。

 不況で仕事が減って、社会に戻れなくなった人たちが引きこもり気味になる。やがて、住居を追われ、路上で生活せざるを得ない状況が長期化していることも、その背景にある。

 大学を卒業したような「高学歴ホームレス」も、今では珍しくなくなった。社会を離脱してからも、引きこもりに似た身体メカニズムを抱え、国の就労支援に乗っかれない人たちが、路上に残されているようだ。

 支援団体であるNPO『世界の医療団 メドゥサン・デュ・モンド』及び『てのはし』の精神科医、臨床心理士などの専門家チームが、池袋駅周辺の路上生活者を調べたところ、ホームレスのうち約6割は、うつ病などの精神疾患を抱えている疑いのあることがわかった。

 世界の医療団は「社会の片隅に追いやられ、自分がどうしたらいいのかわからないまま、路上生活を続けている人たちが増えている」として、2010 年4月から、医療や福祉の支援が必要な路上のホームレスを訪ね歩く、アウトリーチ(訪問活動)の国内プロジェクトに取り組み始めた。

『世界の医療団』の森川すいめい医師によると、彼らは一見、普通に見える。しかし、診療すると、うつ病をはじめ、発達障害や知的障害、社会不安障害、パニック障害、強迫神経症、統合失調症などの人たちもいるという。

「元々、路上生活に入って、這い出す力がなかったのか、2次的な障害の可能性もあります。失業して、ホームレスになったうつ病の人は、エネルギーが落ちているので、判断力がなくなる。どうしていいのかわからなくて、頭の中が混乱しているのです。出会ったときに、元気がありません。そういう人には、うつ病の診断基準を1つ1つ伝えていくことにしています」(森川医師)

 IT企業に勤務していた30代のシミズさんは、一生懸命に頑張って働いてきたものの、うつ病になり、働けなくなって、家で引きこもっていた。

しかし、同居していた親から「家を出ろ!」と言われ、アパートで一人暮らしを始めた。シミズさんは、自立しようとして、一生懸命頑張ってみたものの、うまく生活できなくて、アパートも出ざるを得なかった。

アウトリーチで出会った森川医師は、「これまで頑張ってきたんだし、世の中がこういう状況なんだから、一旦、生活保護を取って、そこから働く基盤をつくってみたらいかがですか?」と勧めてみた。

 しかし、シミズさんは、
「いや、働きます。自分で頑張ってみます」
と、あくまで他者の助けを借りず、自立することにこだわった。考えていくうちに、どんどん自分の未来が見えてきて、今のままではまた路上に戻ると考えたからだ。

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