BBC新ドラマ『Les Misérables』、先入観を覆す意欲作 大御所ならではの脚色に注目

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レ・ミゼラブルといえば、歌劇やミュージカル映画などのイメージが強い。しかし原典は19世紀フランスで活躍した小説家、ヴィクトル・ユーゴーの代表的な作品であり、実は音楽劇とは無縁のものだ。英BBC Oneで放送中の『Les Misérables(原題)』は、控えめな楽曲とストーリーで勝負するミニ・シリーズだ。

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♦一斤のパンが生んだ悲劇


20代の頃にたった一つのパンを盗んだことで、ジャン・ヴァルジャン(ドミニク・ウェスト『アフェア 情事の行方』)は長期の服役を強いられることに。砕石場での刑務に19年間も耐え、ついに釈放の日を迎える。しかし彼を憎むジャヴェール警部からは、どんな小さな罪でも見つけて次こそは生涯投獄してやる、との罵声が。

前科者のジャンは定職に就くことができず、食べ物と宿を司教(デレク・ジャコビ『オリエント急行殺人事件』)に頼ることに。恩情を受けたジャンだが、非礼にも教会から銀の食器を盗み、再び刑務所に連れ戻されてしまう。ところが司教はジャンの元を訪れ、「食器は自分が与えたもの」という嘘の証言でジャンを救う。人間不信のジャンは、初めて人の温かさを知るのだった。

一方、若い女性・ファンティーヌ(リリー・コリンズ『白雪姫と鏡の女王』)とその友人たちは、プレイボーイたちに目をつけられていた。欲しいものは何でも買ってやるとの言葉とは裏腹に、体だけが目当てで近づいてきた男たち。ファンティーヌは妊娠するが、相手のフェリックス(ジョニー・フリン『恋愛後遺症』)は行方をくらます。彼女の生活は困窮を極めるが、その数年後、正しい精神の持ち主となったジャンに救われることとなる。

♦脱・ミュージカル


レ・ミゼラブルといえばミュージカルの印象が強い。しかし英Guardian紙は、それは遥か昔から不当なまでに広まっているイメージだと問題視している。本作の最大のセールス・ポイントは、音楽劇から距離を置いている点だと指摘する。きらびやかなドレスの舞うダンス・シーンの好きな人からはブーイングが聞こえそうだが、そうでない人々は快哉を叫ぶだろうと表する。

英Telegraph紙は、新しいもの好きの人々は多くの改良点に気づくだろう、と述べる。ストーリー上の変更点も多いが、もっとも顕著な特徴はミュージカルの形態を捨てたこと。一部にわらべ歌が使われているが、それ以外に曲らしい曲はほとんど登場しない。しかし、楽曲の使用が控えられているにもかかわらず、作品の出来は「on song(上々)」だと同紙は賞賛している。

♦脚本家は御歳82歳の大ベテラン


脚本は、ウェールズ出身のアンドリュー・デイヴィス(『ハウス・オブ・カード 野望の階段』)。彼は英国映画テレビ芸術アカデミーのフェロー(生涯業績賞)を受賞している。氏による脚本はほぼ期待通りで、重くなりがちな解説部分を軽快に処理している、とTelegraph紙は好感を抱いたようだ。予想外の妊娠に直面したファンティーヌの心理描写にはもう少し厚みが欲しかった、と同メディアは課題も指摘。とはいえ、旧著の映像化にもかかわらず重苦しくなっていない点は、ベテラン脚本家のなせる技として喜びたい。

本来は実績に年齢など関係ないと述べるGuardian紙も、高齢にしてこのレベルの作品を視聴者に届けるデイヴィスには、さすがに敬意を表したいと感服している。彼は2年前にも、トルストイによる長編小説「戦争と平和」を映像化した『War and Peace(原題)』でも脚本を担当しており、その才能は衰えるところを知らない。

名作を熟練の技で再びドラマ化する『Les Misérables』は、英BBC Oneで放送中。同じ脚本家による人気作『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は、Netflixなどで日本でも視聴可能だ。『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の作品見どころなどは海外ドラマNAVI作品データベースでチェック!(海外ドラマNAVI)