世界的なランドクルーザー人気の理由は何か(写真はトヨタのサイトより)

トヨタ自動車の4輪駆動車である「ランドクルーザー」(通称ランクル)シリーズが根強い人気を保っている。

昨年9月に一部改良(マイナーチェンジ)した「ランドクルーザープラド」は毎月2000台以上を販売。現行型は2009年登場と9年目を迎えながら、競合他社の最新SUV(スポーツ多目的車)と比べても遜色のない売れ行きを見せている。

長い歴史を持つランドクルーザー

そんなランドクルーザーは日本のみならず、世界で愛される車だ。ランドクルーザーの起源は、第二次世界大戦中にさかのぼる。帝国陸軍が米国ジープの存在を知り、悪路走破性能に長けた自動車開発を国内メーカーに要請した。終戦の1年前となる1944年8月に、AK10と呼ばれる4輪駆動車が誕生したが、生産準備に入る中で終戦を迎えることになった。


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ランドクルーザー誕生の基になるのは、戦後1951年に市販されたトヨタジープBJと呼ばれる4輪駆動車である。のちに、ジープが商標であることがわかり、55年にランドクルーザーと車名を変更した。

英国のランドローバーが、ランドクルーザー同様に米国ジープを手本に開発され、1948年に誕生しているほかは、日本で人気の高いメルセデス・ベンツGクラス(1979年)や、英国のレンジローバー(1970年)より長い歴史をランドクルーザーは持つ。


ランドクルーザープラド(写真はトヨタのサイトより)

今日、ランドクルーザーは、車体全長が5メートル、車幅が2メートル近い大柄のいわゆるランドクルーザーと、それよりひと回り小柄なランドクルーザープラドに分けられるが、どちらも基はトヨタジープBJにさかのぼる。トヨタジープBJから車名変更したランドクルーザーにロングワゴンというより大柄な車種が追加され、これが今日のランドクルーザーにつながる。対して、基の小型車体の派生として乗用車らしく乗り心地を高めた車種としてプラドは生まれた。

当初より、ランドクルーザーは国内に限らず海外でも販売されることを前提に開発されてきた。今日、ランドクルーザー/プラドにとって最大の市場は中近東だという。くわえて、欧州、中国、アフリカ、オーストラリア、ロシアなどで販売されている。

世界的なランドクルーザー人気の背景にあるのは、現場・現物の物づくりにあると開発責任者は語る。現場・現物・現実といわれる三現主義に基づくモノづくりは、さまざまなモノづくり業種においてよく語られるが、開発責任者自ら40数カ国に及ぶ各地を訪れ、顧客に直接会って使われ方を見極めるのは容易でないはずだ。ランドクルーザー/プラドに対する世界の厚い信頼と期待の原点は、そこにありそうだ。

世界各地の過酷な道路状況

2012年の統計とやや古いが、総務省統計局による世界の道路舗装率(国土交通省資料)によると、米国と欧州の主要国はほぼ100%で、日本は80%とある。国内においてわれわれは、日常的に未舗装路をクルマで走ることはほとんどないと言っていい。

ところが欧米では、道路の舗装率が100%だとはいっても、都市中心部を離れると民家もまばらで未舗装の道路脇へ乗り出す機会が日本で思っているより多い現実がある。欧米では日本のように都市部に人口が集中する例はまれだ。たとえば100万人以上が住む都市の数を調べると、日本は細長く平地の少ない国土に12もの100万規模の都市が存在するのに対し、日本の25倍も国土が大きいアメリカでも10都市、ドイツは4都市、イギリスでは2都市、フランスはパリのみと全体的に少なく、国の中で人々が分散して暮らしていることがわかる。

また欧米では休暇を長くとる習慣があり、1年のなかで郊外に暮らす日々が当たり前のようにあって、未舗装の地面を走る機会は身近にある。

今日のSUVブームも、単にセダンやステーションワゴンといった従来の車種と趣の異なる価値に面白さや新鮮さを覚えるだけでなく、本格的な4輪駆動性能はなくても、車高が高いことにより凹凸のある未舗装の地面で床下を損傷せず乗り入れられる実用面が価値として認識されているはずだ。合理的な生き方を求める欧米人が、単に流行りだけで物選びをするとは思えない。

日本では想像もつかない世界各地の過酷な道路状況について、ランドクルーザーの開発責任者に聞いた事例をいくつか紹介してみる。

たとえばUAE(アラブ首長国連邦)で行われている観光の砂漠ツアーではランドクルーザーが使われているという。砂漠と聞けば悪路を走る印象があるが、砂漠に敷設され果てしなく続く舗装路では、気温が50℃にも達するような環境下で時速200kmもの速度を出す場面もあるそうだ。あるいは、まさしく砂漠を駆けぬけることでストレスを発散させるといった運転を楽しむ人もあるという。非日常の体験をする場が日常の近くにあり、舗装路/未舗装路を問わず極限の性能が試される実態が中近東にはある。

オーストラリアでは、奥地へ行くと、未舗装路とはいえ整地された道をクルマが走ると穴が掘られ、それが深くなってタイヤの直径ほど掘られた波状の路面ができてしまうという。そこを10km近くも走り続けなければならなかったり、雨が降れば水が川のように溜まり、それでも生活のため毎日往復しなければならなかったりする人々がいるという。

アフリカはさらに過酷で、ケニアの舗装率はわずか10%でしかなく、雨が降れば洪水になり、1mほどの深さの川を渡っていかなければならないときもある。道路整備が行き届かないだけに橋を掛けてあるはずもなく、そうしたところを行き来し、無事生還できることがランドクルーザーには求められると開発責任者は語った。

想像を超えるような世界の道を走り抜け、走り続けるランドクルーザーの開発で心掛けているのは、単に性能を向上させることだけではなく、旧型で走れた道を同じように走り切れることが不可欠だという。走り抜けられたはずの所で立ち往生すれば、命にかかわる事態となる。

先般、最新のランドクルーザーと同じ車両でレクサスブランドの「LX」に試乗した。レクサスといえば、トヨタの中でも高級かつスポーティな印象のあるプレミアムブランドだが、ほかのSUVの「RX」や「NX」と比べても、LXはよい意味でランドクルーザーらしいサスペンションの動きをし、ゆったりした走行感覚であった。それは、昨今のSUVが舗装路を主体とした硬めの乗り心地になってきているのとは対照的だ。

旧型で走れた道を同じように走り切れることが何より優先されるランドクルーザーのつくりは、レクサスのバッジをつけても変わらないことを知った。

壊れるまで走ってみる実体験から品質を問う

そうした守るべき性能を新型へ継承するため、開発においては「壊し切り」と呼ばれる試験をすると開発責任者は話す。実際の車両で壊れるまで何十万キロも走り続けるのだそうだ。トヨタが新車の品質保持のため設定する基準に合っていればよいのではなく、壊れるまで走ってみる実体験から品質を問う、いわばランドクルーザー基準とでも言うべき性能確認が行われているのである。

さらに、不具合が出た場合には現地へ行って確認し、その場で修理することも行うという。その経験から今後の解決策を探っていく。故障に対しても現地・現物を貫かなければ、人里離れたところで故障したら生還できないことになってしまうからである。


(写真はトヨタのサイトより)

数々の経験を基に、新車開発をする際には旧型でなぜこの技術や方式を採用したのかを振り返り、その理由を考えてから開発に取り組む、いわゆる温故知新を重視しているとのことだ。

同時にまた、新型であれば環境や安全といった最新の商品性も実現していかなければならない。4輪駆動車といっても悪路走行だけではなく、市街地で日常的に使うことと両立できていることが今日では求められる。

「1つの車種が10年を超え継続して生産されるクルマなので、新型を出すときには、逆に一歩も二歩も先んじていなければ時代遅れになってしまう」と、開発責任者は語る。

誕生から67年に及ぶ歴史が裏付ける悪路走破性や信頼耐久性を落とすことなく、同時に最新の環境や安全性能を満たす開発は、たやすくないはずだ。

ディーゼルエンジンの利点の1つは、ガソリンエンジンに比べ燃料の質が必ずしも良くなくても稼働させることができるところにある。点火プラグによる着火ではなく、燃料が自ら燃えだす燃焼法を利用するからだ。国が異なれば燃料の質も変わり、手押しポンプで燃料を補給しているような土地ではなおさら燃料の質が定まらない。

その象徴ともいえるのが、過酷な競技で知られるダカールラリーへの市販ディーゼル車で、なおかつバイオ燃料を使っての参戦ではないだろうか。軽油ではなく、食用の廃油から精製した燃料を使い9000kmに及ぶコースを走り切り、優勝している。また植物由来の廃油を使えば、CO2排出量の削減にも通じる。

1995年からランドクルーザーは一連のダカールラリー(開催地がヨーロッパ・アフリカから南米へ変更)に参加しているが、つねに市販車クラスでの参戦にこだわってきたのも、世界の顧客を視野に入れた地道な取り組みの1つといえる。

そうした順応性のある技術を基に、ランドクルーザー/プラドのエンジンはディーゼル車もガソリン車も設計され、開発されている。

同時に近年では、未舗装路を運転した経験のない人でも、タイヤを空転させたり、下り坂でタイヤを滑らせたりしないような電子制御がほとんどのSUVに装備されている。ランドクルーザー/プラドも同様である。ただし電子部品が過酷な使用条件で故障することもありうるだろう。それを保証する電子部品が搭載できてはじめて採用できる最新技術となる。あるいは、舗装路で車線を示す白線を基準とした運転支援技術も、未舗装路へ行けば使うことはできない。

ランドクルーザーの使命

先進の乗用車に比べ最新装備の装着が若干遅れたとしても、そうした新旧技術の両立と、これまで紹介してきたランドクルーザー/プラドに期待される途方もない使用条件を損なわないことが求められるのである。

ランドクルーザー/プラドが世界で求められていることを受け、開発責任者はこう話す。

「お客様の命、荷物、夢を運んで、叶えるクルマであることが使命」だと言い、「地球上で最後に乗るクルマであると認識して開発に臨むべし」とも言う。

その哲学、志が継承されるかぎり、ランドクルーザー/プラドの人気は盤石であり、世界の人々に信頼される4輪駆動車として存在し続けるだろう。