ピコ太郎「PPAP」の商標権は誰のものか
■ピコ太郎の流行語「PPAP」が勝手に商標登録された
2017年1月、タレントのピコ太郎がヒットさせた流行語「PPAP」が、大阪のベストライセンス(BL)という会社に勝手に商標登録出願され、問題になったことをご存じの人も多いだろう。
商標権とは、商品やサービスの名称、ロゴマークの独占使用を認め、他社の商品やサービスとの識別を可能にし、ブランドの信用と価値を守る権利だ。知的財産権の一種だが、著作権のように創作の完成と同時に発生する権利とは、異なる点がある。先に権利を申請した者に所有権を認めるのだ(先願主義)。つまり、早い者勝ちで、商標を先に使用したかどうか(使用主義)は関係がない。極論すれば、他社の商標を横取りすることも可能なのだ。先願主義を取っているのは、誰が最初にその商標を使い始めたか、客観的に判断することが難しいからだ。特許庁への出願を基準とすれば、誰が一番早かったのかが明確になる。
しかし、商標登録される言葉には一定の制約が設けられており、ブランドやロゴの認知度、使用実態なども審査対象となる。PPAPのケースでは、BLには自社の業務としての使用実態がないため、商標登録は事実上、困難だろう。
では、登録の見込みがないのに、なぜ出願したのか? 実は、商標登録には先願主義を悪用して、後から出された出願を妨害できるカラクリがあるからだ。
■商標権と引き換えに金銭を要求する手口
たとえば、「X」という新商品の発売をしたい企業Aに先んじて、新商品「X」の商標を出願しておけば、先に審査中の出願が却下されるまで、企業Aは商品「X」の商標権を取得できない。商標権がないままでは、新商品「X」の発売もできない。通常、審査は半年ほどかかるが、さらに期間を引き延ばすことも可能だ。そうして困った企業Aに対して、商品「X」の商標と引き換えに、金銭を要求するのだ。トラブルの表面化を避けたい企業が、応じてしまうケースも考えられる。
PPAPの商標権問題は、17年の4月にBLによる出願が消滅し、正式にエイベックスの商標となった。しかし、この事件はビジネスパーソンにとって対岸の火事ではない。商標権ひとつで自分のビジネスが破談になることさえあるのだ。まずは、自分の関わる製品やサービスの商標がすでに登録されていないか、特許庁のデータベース「特許情報プラットフォーム」などで確認してみよう。
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(弁理士 平野 泰弘 構成=野澤正毅 撮影=大泉 裕 写真=時事通信フォト)