YouTube著作権侵害による削除申請を受け付ける一方、フェアユースガイドラインを示し、クリエイターのフェアユース保護を打ち出したのが2015年11月のこと。

◎フェアユースとは?
「フェアユース」とは、正当な理由による使用として、該当の著作権物の二次使用が保護されるという考え方だ。

米国では解説、批評、研究、教育、ニュース報道分野での使用はフェアユースとされる(実際には、裁判所にてそれぞれのケースに基づいて、フェアユースかどうかを判断)。

YouTubeでは従来から著作権侵害による削除申請を受け付けているが、米国では、明らかにフェアユースに該当すると見なされる動画を対象にしている場合、裁判所の指示によりフェアユースが適用される可能性を検討するという形になっている。
また、自分の利用はフェアユースだと訴えるユーザーの著作権侵害訴訟の費用を負担するなどの法的支援も開始している。

ちなみにGoogleは、Google Books(グーグルの書籍全文検索サービス)を巡る裁判でフェアユースを主張してきたし(2013年に主張を認める判決が出て、2016年4月に原告の上訴が棄却されている)、OracleとのJava APIを巡る係争も「フェアユース」として戦い、(ひとまず)勝利している。

◎フェアユースで何がうれしいのか?
自分はクリエイターではないから関係ないと思うかもしれない。
しかし、私たちは今、さまざまな形で「情報をシェアし合っている」。
そのすべてに対し、情報の出元が公式なのか、侵害しているものか、100%確実な判断はできないわけで、実はちょっと考えると危ういポジションにいる。

つまり、いつ「あなたは著作権侵害していますよ」と。加害者になるかわからないのだ。

シェアはそもそもコンテンツホルダーの利益を損なうものではなく、拡散に協力しているのだから……と思うかもしれない。

ざっくりいうと、そこで「そういう利用ならよしとしましょう」とするのがフェアユースというわけだ。

具体的に、YouTubeが解説して公開してくれているガイドラインを元に考えてみよう。
米国では個々のケースに対して裁判官が次の4つの要素を考慮して判断するという。
1. 利用の目的と特性(その利用が、商用か非営利の教育目的かなど)
2. 著作物の性質
3. 著作権で保護されているその作品全体に対する利用部分の比率
4. 著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響


「1. 利用の目的と特性」は、
よく日本でも言われる、非営利での利用は著作権侵害の対象から外しましょうと、などと同じ考え方だ。
たとえば、教育の場で用いる、研究で取り扱う場合など。これが公に認められれば、個人でもブログなどでの解説、批評、ニュース記事を書くという場合も、画像・動画類の埋め込みができるということになる。

そして、「4. 著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響」。
もちろん、動画まとめサイトの違法アップロードの類いはNGだが、利益を損なわない利用であればよしとしましょうということ。

◎日本でのフェアユース導入は?
日本でも、2000年頃から音楽、映画、出版物といった著作物に対し、公正な利用(フェアユース)であれば無断、無償で利用できるように著作権法を改めるべきだという主張がIT、電機業界を中心に起こっている。
そして2009年には、知的財産戦略本部が「知的財産推進計画」において「権利者の利益を不当に害しない一定の範囲内で公正な利用を包括的に許容しうる権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」を目標に掲げたが、導入までには至っていない。

つまり、日本でのフェアユース導入の現状はどうなのか? というと、
議論は行われているものの、なかなか進んでいないというのが現状のようだ。
YouTubeの試作も、残念ながら、フェアユースの仕組みがない国(もちろん日本も)では法的な保護措置は提供されていない。

ネットがインフラとして普及し、情報がデジタルになり、誰もがアクセスできるようになっているのだから、もっと柔軟にできないものか、と思うのだが。
先に上げた項目のうち、せめて4番目だけでも認められるだけで、ネットにおけるデジタルデータの扱いは相当、柔軟で利便性の高いものになる。


大内孝子