衝撃的なデビュー 松坂大輔が残した多くの伝説を振り返る

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日本に9年ぶりの復帰を果たした松坂大輔。しかし、2軍で調整が続くなどイマイチだ。だが、高校時代・プロ1年目の輝きを知っている者たちからすれば、「松坂はこんなものではない。まだまだやれるはずだ」という想いが強いのではないだろうか。それほど当時の彼が残したインパクトは強かった。

横浜高校時代】


まずは高校時代を振り返っていこう。高校3年間を通して松坂は公式戦で1敗しかしていない。さらに舞台が甲子園になると11勝0敗(6完封)防御率0.78と異次元の数字を叩き出している。チームとしても松坂らの代が中心となってからは公式戦44連勝を記録した。
その中でも1998年のセンバツを優勝し、春夏連覇がかかった3年夏の甲子園はもはや伝説だ。

準々決勝 PL戦
準々決勝で最近週刊誌を騒がしている上重聡や大西宏明(元オリックス)や平石洋介(元楽天)を擁するPL学園と対戦。延長17回のシーソーゲームの末、横浜高校が勝った試合は高校野球屈指の名勝負として知られている。その試合で松坂は1人で延長17回、250球を投げ抜き完投勝利を果たした。
これには後日談があり、松坂の熱投を見たファンから「延長18回制は長過ぎる」との意見が多数出たことにより、2000年から延長15回制に短縮変更される事となった。

準決勝 明徳義塾戦
翌日の準決勝、PL戦で250球を投げた松坂は投手ではなく左翼手に。試合はというと代わりの投手が打ち込まれるともに、打線も寺本四郎(元ロッテ)の前に沈黙し8回表終了時点で0―6の劣勢。しかし、8回裏に横浜は4点を奪い返す。そして9回表は誰もが投げないと思っていた松坂がマウンドへ。見事三者凡退に抑えて勢いに乗った横浜は9回裏に4点を奪ってサヨナラ勝ちを収めた。

決勝 京都成章戦
続く決勝では松坂は最高の形で有終の美を飾る。なんと史上2人目となる決勝戦のノーヒットノーランという快挙を達成したのだ。大舞台になればなるほど力を発揮するのが松坂の凄さである。

また、これらの勝負の過程で同級生のライバルが多いのも松坂の大きな特徴だ。彼らは「松坂世代」と呼ばれている。同じ横浜高校には小池正晃(元DeNA)、後藤武敏(現DeNA)。他の高校には藤川球児、杉内俊哉、和田毅、多田野数人、村田修一などプロで活躍するそうそうたる選手がいた。ただ、ひとつ言えることはこれら実力ある選手の中で松坂大輔は間違いなく主役であったということだ。

【西武時代】


そしてドラフト1位で松坂は西武に入団する。高校時代からスターだった松坂にはキャンプから大きな注目が集まり、人目を避けるために松坂の影武者を用意するほどだった。

衝撃のデビュー戦
そして迎えたデビュー戦。松坂はいきなり多くの野球ファンに衝撃を与える。まずは1回裏。片岡篤史に対して155km/hの速球を披露して豪快な空振りを奪う。このシーンは今でもよくテレビなどで取り上げられている。
そしてこの試合では、こんなシーンもあった。松坂が投げた球がフランクリンへの胸元に行き、フランクリンが怒りをあらわに詰め寄る。しかし松坂はこれに怯むことなく睨み返して乱闘寸前となる。しかし、これにも動じず笑顔も見せるほどの余裕を見せた松坂は、その直後2球続けてインコースへ投げるなどの強心臓ぶりを見せた。ここからも松坂が並の18歳ではないことが分かるだろう。

「リベンジ」を流行らす
リベンジという言葉を流行られたのは松坂だ。
4月21日の千葉ロッテマリーンズ戦では黒木知宏と投げ合い、0-2で惜敗。この試合後に「リベンジします」と宣言した松坂は、次のロッテ戦で再び黒木と投げ合い、1-0でプロ初完封を記録し言葉通りリベンジを果たした。
この松坂の「リベンジ」は、上原浩治の「雑草魂」とともに同年の流行語大賞に選ばれた。

イチローとの名勝負
5月16日のオリックス戦ではイチローとの初対決が話題となった。松坂はこの試合で、当時5年連続首位打者を獲得していたイチローから3打席連続三振を奪ってみせた。(イチローの1試合3三振以上は1994年以来)試合後のヒーローインタビューで発した「自信から確信に変わりました」という松坂の言葉は「リベンジ」とともにファンの記憶に残る名言だ。
この試合の後、「勝負以外の楽しみができました」と語ったイチロー。その後、イチローが松坂のことを「唯一の同志」と語るなど2人は特別な関係となった。

さて、プロでも数々の衝撃を残した松坂はルーキーイヤーで16勝5敗を挙げ、新人王(高卒新人の投手としては堀内恒夫以来33年ぶり)はもちろん、最多勝(高卒新人投手としては45年ぶり)・ベストナイン(高卒新人としては史上初)・ゴールデングラブ賞までも獲得。名実ともにスターとなったのだ。

それから15年以上が経ち、松坂はソフトバンクの一員となった。しかし、かつての輝きを取り戻しているとは言えない。このまま終わってしまうのか、それとも最も輝いていたあの時のように「リベンジ」を果たすのか。「平成の怪物」と恐れられた松坂からはまだまだ目が離せない。
「横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今」(朝日文庫)
(さのゆう)