iPhone 6とPlusの4大謎技術を解説。『デュアルドメインピクセル』『Focus Pixels』は実はこうでした

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9月10日に開催されたスペシャルイベントの興奮も覚めやらぬ本日、いよいよ予約がはじまるiPhone 6とiPhone 6 Plus。当然、購入前になるべく情報を集めておきたいという人は多いでしょう。しかし公式ページを見ていると、(今回も)一般ユーザーが見た際のわかりやすさを優先し、技術の結果だけを表示して原理をスルーしたり、同じ技術でも普及した言葉ではなく『Apple語』でアピールするため、技術的にはかえってわかりにくくなる例が見られます。例えば通信に関しては、実は(技術的には)キャリアアグリゲーションやWiMAX2+に対応します。そこで今回は、iPhone 6で採用された(iPhoneシリーズ内では)新しい技術のうち、比較的わかりにくい4つの技術を解説します。液晶ディスプレイで採用された「デュアルドメインピクセル」「先進的な光配向プロセス」、そして背面カメラで採用された「Focus Pixels」とiPhone 6 Plusのみとなる「光学式手ブレ補正」です。

実は歴史が長いデュアルドメインピクセル

まずは、おそらく結構な人が凄そうだけれどよくわからないと思っているであろう、デュアルドメインピクセルから。ちなみにこれは、実はApple語ではなく、液晶パネルメーカーの間ではそこそこ使われる用語です(が、かなり専門的なので、ネット検索してもあまり出てきません)。役割としてはiPhone 6の公式ページに書かれている通り、視野角を広げるための技術です。基本的な考えを紹介すると「液晶の視野角はある程度限られているが、(例えば)上/左から見るのに適したピクセルと、下/右用のピクセルを用意し、複数で協調すれば効率的に広げられるのでは」というシンプルなもの。ここで上の表に注目ください。これは日立が公開していた「IPS駆動方式液晶の進化」というものですが(現在はInternet Archiveに残っています)、この最下段にある写真は液晶パネルを超接写して撮影したもの。一般的なカラー液晶はこのようにR(赤)、G(緑)、B(青)の3色が並びますが、これでコンピューター側から見た1ピクセルを表現します。ずいぶんと形状が異なる点に驚かれると思いますが、注目してほしいのは、2つめのS-IPSから中央に黒い線が入って、くさび形になっている点。この構造こそがまさにデュアルドメインです(表ではダブルドメインとなっています)。ちなみにこの図では、S-IPSは1998年と書かれていますが、実はその通りで意外と古い技術。とくに大型テレビ用の液晶パネルでは視聴距離の関係から広視野角への要求が大きいため、広く使われています。(上の写真はApple製品でも採用例の多い、LG Display製の液晶パネル拡大写真。PCディスプレイ用の『e-IPS』タイプですが、こちらもデュアルドメインピクセル構造が使われています)そうなると逆に、疑問になるのはなぜ今アップルが採用したのかという点ですが、これはおそらく技術的な問題。

iPhoneシリーズをはじめとして、昨今のスマートフォン用液晶パネルは画素密度(いわゆる解像度です)を高める点とコストが第一。デュアルドメイン構造はコストでも不利ですし、乱暴な言い方をすると「これを採用するならシングルドメインで画素密度を高めた方が引きがいい」市場でした。またスマートフォンの場合、使われ方からしても、あまり斜めからの視野角は問題視されません。そのため、技術が進んで、小型液晶パネルの加工精度が向上し、昨今の高密度な液晶でもスマートフォン向けの価格で使えるようになったから採用できた、という側面があると思われます。

先進的な光配向プロセスはシャープのUV2A類似技術?

続いては、Retina HDディスプレイの特徴として挙げられている「先進的な光配向プロセス」について。これはコントラストを高めるための技術とされていますが、同時に紫外線を使うことも紹介されています。液晶の配向技術で紫外線を使ったものとなると、シャープが2009年にテレビ向け液晶に導入した「UV2A」に近い技術と思われます。シャープは解説ページにわかりやすい図を掲載していますので、これを引用します。液晶パネルは、光源から出た光に対して液晶分子が明るさ調整フィルターの役目をすることで色を表現していますが、美しい発色を保つためには液晶分子を可能な限り同じ角度に傾ける必要があります。そこでこの技術を導入しない液晶パネルは、液晶を構成する『セル』と呼ばれる領域ごとに、液晶分子の並びを制御するための板や溝を設けて制御していましたが、これらはコントラストを下げる光漏れの要因となります。UV2Aはこうした板や溝に代わり、紫外線で硬化する素材を『配向膜』として塗布し、固めます。配向膜は板や溝よりも細かくなるため光漏れなどの要因がなくなる点、そして液晶分子の並びが精密になるという2点の要因で、コントラストを上げられるのです。さらに板や溝などによってできる非表示領域(日立の液晶画素拡大写真で見られた、色付き箇所周辺にある黒い枠です)が減り、ライトからの光効率が上がることで、同じ明るさであれば省電力化が図れます(逆に、明るさに振ると最大輝度が上げられます)。こうして見ると、Appleの言う光配向プロセスとUV2Aは、紫外線を使うという共通点だけでなく、導入した利点、つまりコントラスト向上も共通しています。このあたりも、両者が近い技術ではないかと思われる理由です。

Focus Pixelsはデジカメで話題の像面位相差AF

つづいて、カメラ部に搭載されたFocus Pixelsに関して。これ自体はApple語ですが、スペシャルイベントでの動画を見返すと、実はカメラ業界において「像面位相差AF」という言葉で呼ばれている技術だとわかります。像面位相差AFに関しては、富士フイルムとキヤノンの解説がわかりやすいため、こちらを引用します。この技術の目的は、カメラのピント合わせ、つまりオートフォーカスの高速化。単純化して説明すると、撮影に必要な撮像素子(イメージセンサー)にオートフォーカス測定用の素子を用意しておき、それを使ってピントを合わせる技術です。さて、こう表現すると、これまでは測定用の素子がないのにどうやって測定していたのか、という疑問が浮かぶでしょう。実はオートフォーカスは測定用の素子がなくても、別の方式で可能です。それがコントラストAFと呼ばれる方式。コントラストAFは、被写体の明暗差(コントラスト)からピント位置を検出する仕組みで、シンプルかつ精度が高いもの。しかし速度が遅いという欠点がありました。というのも、実際にピントを変えつつ合っているかどうかを見つける方式だからです。古いカメラなどですと、「オートフォーカスを動かす際、ピントがいったん合ったあとに少しボケて、また引き返す」ような動作を見た経験がある方も多いとは思いますが、これがコントラストAFの典型的な動作です。対して像面位相差AFは、レンズから入ってくる光を2分割(瞳分割と呼ばれます)し、専用素子でそのズレを測定してピントを検出。この方式では検出した時点で、コントラストAFでは不可能な「現在ピントがどれだけずれているのか」や「レンズを前と後ろのどちらに動かせばいいのか」という情報を判断できるのです。こういった情報が前もってわかれば、当然レンズの無駄な動きを排除できますから、AFを高速化できます。アップルはiPhone 6でAFの速度が2倍になった点をアピールしますが、その根拠はこうした原理によるものです。また、こちらは技術自体が比較的新しく、デジカメでも2010年に富士フイルムが導入したのが最初です。ただし他社のスマートフォンでは、例えばGALAXY S5が既に搭載しています。同モデルのAF速度は0.3秒をアピールしますが、この速度は像面位相差AFが大きく寄与しているというわけです。 ただしアップルのフォローをするならば、スマートフォンに限ればまだ採用例が少ない技術であるのも確か。そして実際の性能は、動画サンプルを見る限り確かに高速のようです。

光学式手ブレ補正は画質面で有利

最後に、これはiPhone 6 Plusにのみ採用された光学式手ブレ補正に関して。これもデジカメでは汎用的に使われますが、スマートフォンで採用するのは比較的珍しいもの。こちらもキヤノンのビデオカメラ技術解説ページが参考になります。最近はスマートフォンでも手ブレ補正が当たり前になっていますが、実はこの技術、大きく分けて電子式と光学式という2種類があります。電子式は画像処理エンジンで処理する方式で、光学式はレンズユニット側で対処する技術です。まずは比較のために、簡単に電子式の説明をしましょう。これはシャッターを押す寸前の(プレビュー)画像をメモリに記録。シャッターを切った時点で前のフレーム(コマ)と同じ被写体の移動量を測定し、像のズレ(これが手ブレとして認識されます)を画素をずらして補正するものです。ほぼ画像処理エンジンのみで補正ができるためコストが掛からず手軽というメリットがありますが、画素をずらすために写真の縁を切らねばならず、画角が狭くなり、実質的な画素数が落ちてしまう欠点があります。このうち画角が狭くなる点に関しては、ソニーのアクションカム「HDR-AS100V」での比較動画が参考になります。

対して光学式は、レンズ群の中に「手ブレの反対方向に像を曲げられる」レンズを置いておき、イメージセンサーの前段階で補正してしまうもの。ちなみに手ブレ防止性能の高い(ブレ幅が大きくても補正できる)カメラは、レンズユニット全体を大きく動かせる構造ですが、スマートフォンではレンズユニットを大型にできないため、内部で補正用レンズ1枚のみを動かす構造が一般的です。利点は、電子式手ブレ補正とは逆に画質で有利なこと。欠点はレンズを動かすための小型アクチュエーターが必要なため、レンズユニットが大型化することと、レンズ駆動分の消費電力が増えることなど。とくにレンズユニットの大型化は、薄さを追求するiPhoneシリーズとは本来相性が悪いところ。Plusにのみ搭載されている点はこうした事情もありそうです。また、ここまでは光学式は電子式と比較してきましたが、実は併用でき、その場合は電子式のみの場合と比べても手ブレ防止性能が上げられます。iPhone 6 Plusで併用可能かは不明ですが、手ブレが起こりやすい暗所などでは併用する可能性は十二分にありそうです。なお光学式手ブレ補正はiPhoneシリーズでは初ですが、スマートフォン全体ではシャープが積極的に導入。2011年に発売した「AQUOS PHONE SH-01D」などで採用しています。ここまで、iPhone 6/Plusで新しくアナウンスされるようになった技術を見てきました。光学式手ブレ補正など他社製品では採用が早かった(つまり目新しくはない)ものもありますが、技術的な詳細を見ていくと、ユーザーメリットという点では決して小さくはないものばかり。こうした隠れた技術を知ると、iPhone 6がより魅力的に見えてきた、という方も少なくはないと思います。この記事が購入時の参考になれば幸いです。