武藤嘉紀 （写真：フォート・キシモト）

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　ここ最近のサッカー界の話題は、日本代表のハビエル・アギーレ新監督が誰を選ぶのかに集まっている。新監督はブラジルＷ杯のチームをある程度踏襲することを示唆しているが、「ある程度」からはみ出すニューカマーが誰なのかを、メディアは熱心に探っている。

　新たな代表候補として、武藤嘉紀の名前がたびたび上がっている。ＤＦラインの背後を突くスピードと思い切りの良いシュートは、試合を重ねるごとに鋭さと精度を増している。ここまで7ゴールは、所属するＦＣ東京で最多だ。慶応大学に在学しながらプロ契約を結んだ経歴とルックスの良さも、メディアの関心を惹きつけている。

　ポテンシャルは秘めている。数年後が楽しみな選手のひとりだ。伸び盛りの才能に日本代表入りという刺激を与えれば、成長速度はさらに加速するだろう。

　だからといって、必要以上に騒ぎ立ててはいけない。

「大学生Ｊリーガー」とか「慶大生」といった言葉の裏側には、「厳しいプロの世界で、社会人になる前から結果を残している」といった認識の広がりがある。起業して成功を収めた大学生の報道に似ている、と感じる。

　１９９２年7月15日生まれの22歳は、高卒ならプロ4年目だ。同学年の宇佐美貴史や柴崎岳は、すでに所属クラブの大黒柱である。宮市亮は海外組のひとりだ。日本の学校教育で言う学年を、海外に当てはめてみる。ブラジルＷ杯決勝でドイツを優勝へ導くゴールを決めたゲッツェは、武藤と同じ１９９２年生まれの22歳だ。パリＳＧでプレーするルーカス・モウラ、リバプールで10番を背負うコウチーニョも同学年にあたる。ＡＣミランで本田圭佑らとポジションを争うイタリア代表クラスのエルシャーラウィは、10月で22歳になる。

　92年生まれでくくれば、ネイマールやジャック・ウィルシャーも同世代だ。世界のトップレベルで働いている22歳は、例外的な存在ではないのである。

　ブラジルＷ杯の教訓のひとつに、「相対的視点の欠如」がある。日本国内での絶対評価がメディア上を泳ぎ回り、「世界のなかの日本は、世界の中の個人はどうなのか？」という相対的な視点が抜け落ちていた。

　このところのＪ１リーグで、武藤は潜在能力を示している。それは間違いない。だが、世界のマーケットでは「22歳＝若手」ではないし、日本国内でもリオ五輪世代で定位置をつかんでいるＪリーガーはいる。

　日本代表は選手に刺激を与える場所だが、選手を育てる場所ではない。結果を残すために編成されるのが日本代表だ。アギーレのもとで過ごす1週間ほどで、テクニックや走力がいきなり向上することはない。

　だとすれば、選手にとっての日常であるクラブで、いかに自分を高めるのかが大切になってくる。大学生Ｊリーガーだ、イケメンＪリーガーだともてはやすのではなく、すでに世界のトップレベルで活躍する同世代がいることを、日本国内での共通認識にしていくべきだと思うのだ。