本田圭佑だけではない。状態が悪い日本の中心選手たち
「本田圭佑主体の日本代表は限界に来ている」と書いたのはキプロス戦後だが、コスタリカ戦、ザンビア戦を経てもその思いに変わりはない。動きそのものはわずかだけ良くなったように見えるが、本田の問題はコンディション云々のレベルを超えている。短期的なものではなく長期的なもの。W杯初戦のコートジボワール戦で突然、2年前の状態に戻りそうな気配は見られない。
分かりやすいのはポジショニングだ。1トップ下。ザッケローニは「そこは彼の家のようなものだ」と、本田が適役であるかのように語っているが、実際に彼がそこで構える時間はとても短い。守備的MFと見間違うかのような低い位置でプレイしている。プレッシャーの厳しい高い位置をあえて避け、楽にさばける場所まで長い時間、降りてきている。そんな感じだ。昔の10番、すなわち2トップ下時代の10番のポジション。いやもっと低いかもしれない。アタッカーとしての魅力は、すっかりどこかへ消えてしまった。
だが、サッカーは個人スポーツではない。ある選手に異変が起きれば、それをカバーするのがチームスポーツとしてのサッカーだ。しかし、ザックジャパンは本田依存型からいまなお脱却できずにいる。依然として本田ジャパンのままなのだ。そういう意味でザッケローニの罪は重いのだが、ザッケローニが批判にさらされることはあまりない。
4年前の岡田さんは周囲から叩かれた。何かを言われやすいタイプと言ってもいいかもしれない。ザッケローニはその逆。彼には批判の矛先が向きにくい傾向がある。目立つ発言を控え、存在感を上手に消してきた。出る杭にならないよう、限りなく控え目に4年間、代表監督の座に座ってきた。
ひと言でいえば選手任せ。もし日本がブラジルW杯で成績が残せなかった場合、批判の矢面に立たされそうなのは、ザッケローニではなく発言力のある本田。そんな雲行きだ。というわけで、選手にはあまり何かを言いたくないのだが、ザンビア戦で、ここまで不安定な戦いを見せられると、残念ながらひと言、ふた言、言わざるを得ない。
このチームで、本田に次ぐ中心選手はと言えば、遠藤保仁と香川真司になる。しかし、この2人のプレイもまた冴えないのだ。活躍したとはまったく言えない。
香川の場合は、マンチェスターユナイテッドで出場機会に恵まれない理由が、このザンビア戦でもハッキリ見て取れた。なによりビッグクラブでプレイしている「格」というものを見ることができない。中心選手らしい振る舞いができていないのだ。中盤でボールを奪われて、ポーズを取りながらがっかりしている選手は、いまどきとても珍しい。これは後半のあるシーンの話だが、さすがに周囲から注意されたのだろう。その2〜3秒後、ボールを追いかけ始めたが、チームが緊急事態に直面しているという自覚を欠く、あまりにも軽いノリのプレイと言わざるを得ない。ビッグクラブでプレイする選手らしからぬ、模範的とは言えない行為だ。
遠藤の場合も、中心選手らしさを発揮できていないという点で香川と共通するが、動きに元気、活気がないのだ。それはこのザンビア戦に限った話ではない。キプロス戦、コスタリカ戦もしかり。衰えてしまったなという印象だ。したがって、遠藤にボールが回っても「収まった」という感じにならない。チームが落ち着かない。ワンタッチでゲームをコントロールしたかつての姿は遠い昔になっている。よって、そこから展開が開ける感じがない。ボールが相手ゴールに向かって、いい感じで進んでいく気が起きないのだ。
本田が近いポジションでプレイすることも、遠藤の影響力が薄れてしまった原因の一つと言えるが、両者が低い位置で、生産性の低いプレイを見せる姿は、かなり痛々しい。それはザックジャパンの現状そのものと言いたくなる。
ある時まで遠藤と長谷部誠の2人を、多くの人は「最高のコンビ」だと言って絶賛した。ザッケローニもその2人を判で押したようにスタメンに並べた。だが、その一方である長谷部は、初戦のコートジボワール戦には間に合わない可能性もある。戻ってきたところで、以前のようなプレイが披露できる保証はない。
その間に山口蛍が台頭してきたので、なんとかボロを出さすに済んでいるが、山口と長谷部を比べれば、かつての長谷部の方が上だ。山口は瞬間的には光るパスがあるが、試合をオーガナイズする力、バランスを整える力、さらに言えばかつての長谷部のような前に出る力がない。その傍らには元気な遠藤が不可欠である。守備的MFの現状も、決して良くはない。
パス回し、展開力に関して言えば、ザンビアの方が数段よかった。ピッチを広く使った効果的なパス回しができていた。悪いボールの奪われ方が目立ったのは日本。真ん中で詰まったところを引っかけられる悪い癖は、解消されずじまいだった。本番でそこからカウンターを浴びる姿は、容易に想像できた。香川がボールを奪われたあとにポーズを取りながら悔しがったシーンは、もちろんそこに含まれる。
いまのザックジャパンをひと言でいえば、屋台骨がぐらついてしまっている状態にある。その原因が本田ひとりではないところに、根の深さを感じる。
だが試合には勝った。終了直前、大久保嘉人の鮮やかなゴールで、スコア的な体裁を取り繕うことに成功した。そこが4年前の岡田ジャパンとの最大の違いだ。
岡田さんは負けが込んだために変革を余儀なくされた。従来からの脱皮を図ることができた。壮行試合からの3試合(韓国、イングランド、コートジボワール)すべてに敗れた岡田ジャパンに対して、ザックジャパンはそれより数段弱い相手に3連勝。いまのザッケローニに4年前の岡田さんのような危機感はないと思われる。現状のままで本番を迎えてしまう可能性は高い。
選手のコンディションを整えることで解消される問題ならそれでいい。だが僕にはこれがそうした短期的な問題には映らない。心配である。
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki