【レポート】iPhoneがどうしてこんなにも幅広い層にアピールできるのか? その理由を探る!!
iPhoneは米国での販売が始まってから7年が経つ。日本国内では、2008年に最初のモデル、iPhone 3Gが登場した時から人気は高く、現在でも衆望を集めている。
iPhone 5s/5cの販売が開始されてから半年が経過したが、その人気は衰えを知らず、市場調査会社のカンター・ジャパンの調査に依れば、現在のスマートフォン市場での新規契約のシェアはiPhoneが69%を占めるという。また、消費者だけでなく、デベロッパーからも多大な支持を得ているようだ。iPhoneがどうしてこのような幅広い層にアピールできているのか、本稿ではその理由を探ってみたい。
成功の要因として大きいのは膨大な数のアプリを提供するApp Storeの存在だろう。2013年の売上高は100億ドルを突破、累計ダウンロード数は600億を越えている。『パズル&ドラゴンズ( パズル&ドラゴンズ/ )』など、所謂、キラーコンテンツも多く揃っている。
ここで、昨年暮にローンチしたばかりだが、すでに数十万ダウンロードを記録している注目アプリをひとつ紹介しよう。ジョン・バレストリエーリとロバート・クレアという二人の開発者による『Waterlogue』だ。これはiPhoneで撮った写真などに、水彩画調の加工を施せるというものだが、単に画像のエッジを検出してフィルターをかけるといったタイプのアプリと異なり、画像を解析した上で再構築するというものである。現在のバージョンは英語版だが、近日中にリリースされるアップデート版では日本語に対応するとのことだ。2013年のBest Appの一つにも選ばれている。
アプリの開発に注力する企業も数多くある。その中で、日本で成功を収めているデベロッパー大手2社の事例を取り上げてみることにする。
まずはリクルート。同社では、PassbookなどiOSの最新テクノロジー向けのアプリの開発に取り組む「イノベーションチーム」という部隊や、中小企業向けのカスタムソリューションを提供する「メディアラボ」というセクションを設立している。そのほかにもテクノロジーのスタートアップに投資する部門を設立し、iOSアプリ開発を積極的に進めているようだ。現時点で160ものアプリの提供を行なっており、総ダウンロード数は5,000万を超えているという。
次にピックアップするのはセガだ。同社のネットワーク部門は、モバイル向けのコンテンツの開発にあたっているが、今、もっともビジネスとして成長している部署であるという。確かにセガのゲームはApp Storeでも常にトップ10にランキングされている。iOS 7向けということで言うと、最新の人気タイトルは『SEGA GO DANCE』だ。このゲームは、ヒット曲に合わせてダンスし、ハイスコアを目指すというものである。深夜にお酒を飲みながらプレイしても風営法には引っかからない。画面上のアバターの動きにあわせてユーザ-自身が踊り、その情報を取得するのであるが、これにはエクストリーム リアリティーLtd.の技術を利用し、Facetimeカメラをモーションセンサーとして使っている。
このアプリの登場は、iPhone 5sに搭載されたA7チップとFacetimeカメラの質の高さがあってこそのもであると思われる。セガは他のプラットフォームでSEGA GO DANCEを展開する予定はいまのところないとのことだ。
セガでは基本的にリリースはiOS版を先行、数カ月遅れて、Android版を公開という体をとっている。これは各々のハードウェアの検証に時間がかかるのに加え、Androidユーザーの利用するOSのバージョンにフラグメンテーションが起こっている背景があるからだと予想される。ハードウェアとソフトウェアのコンビネーションが成立してるiOS端末はそれに比べると開発者にとってもかなりのアドバンテージなのだ。
続いて、小規模体制ながらもヒット作を輩出したデベロッパー、2社の事例を紹介しよう。
ひとつ目の事例は『BASE』だ。誰でも30秒でネットショップを作ることができるというWebサービス「BASE」のiPhoneアプリ版で、商品の出品や店舗管理など、運用をすべて無料で行えるほか、BASE内の3万以上のショップの中から同社スタッフが厳選した商品を購入できる機能を装備している。昨年のローンチ以来、登録店舗は5万を超えているとのこと。起ち上げたのは大学生で、これまでiOSの開発には携わったことがないという話だ。にも関わらず、プラットフォームとしてiOSをチョイスしたのは、市場調査を行った上で「iOSはクールでファッショナブル、先進的」というイメージがあることが分かったからだという。
ファッショナブルという点に於いては、PRADAがPRADA Phone、Christian DiorがDior phoneを販売している例があるが、iPhoneは発売元がアパレルブランドでもないのに、ファッション性が高い製品を送り出し、洗練されたイメージ作りに成功しているのは注目に値する。ANN DEMEULEMEESTERやRICK OWENS、Maison Martin MargielaといったハイブランドがシーズンごとにiPhone/iPad用のケースを発表しているのは、iOS端末(とそのユーザー)が、ファッションと親和性が高いことを示す好例である。昨年Appleは、元BurberryのCEO、アンジェラ・アーレンツと、Yves Saint-Laurentの前CEO、ポール・ドヌーヴをバイスプレジデントとして迎え入れている。次期モバイル機器として、腕時計状のデバイスが発表されるという噂が流れているが、意外と、もっとファッションにフォーカスし、NYコレクションで発表を行うような製品を投入してくるかもしれない。
ふたつ目は、資産管理アプリ『Moneytree』。金融機関の口座を一度登録するだけで、複数の預金残高やカード使用額を同一画面上で確認できるというものだ。日本の大手/地方銀行とカード会社などのデータ自動取得・口座登録を含め、アプリから全機能の操作が行え、資産状況がひと目でチェック可能だ。
Moneytreeでは、クラウドコンピューティングを利用しており、iPhoneだけでなく、サーバー上にもデータを保存してくれる。また、サーバー上に保存されている同一データに、複数のデバイスからアクセスすることが可能で、外出時はiPhone、自宅ではiPadといった使い分けも行える。気になるのはセキュリティの問題だが、iPhoneアプリは審査を通過したものでなければ公開されないので、ウイルスやマルウェアが混入する可能性が低く、安心して利用できるプラットフォームであるという認識に基づいて開発が進められたという。確かにiPhoneのセキュリティは現実として強固なものであり、Androidなど他のプラットフォームを圧倒的に凌駕している。これについては、iOSのアーキテクチャが盤石であるのに対し、他のプラットフォームはセキュリティの地盤がそもそも脆弱なところに、後づけしようとしている点に問題があるのだと思われる。根本的な設計思想がiOSとは異なるからである。
革新性、デザイン性、機能性、安全性、どれをとってもiPhoneに死角はなさそうである。iPhoneが売れることでApp Storeのアプリやコンテンツが売れる。それがまたiPhoneの売上に跳ね返り、さらにデベロッパーも参入、開発に力を入れたくなる。iPhoneはそういう形で人々に受け入れられているのだ。最早、iPhoneを越えるのはiPhoneだけ。日本ではそのような状況がこれからも続いていくことだろう。
(稲葉雅己)