11月の欧州遠征で、日本代表に対する風向きは大きく変わった。ザックことアルベルト・ザッケローニ監督の進退を取り沙汰したメディアも、すっかり矛先を収めている。

　ブラジルＷ杯のグループステージの組分けが決まると、11月とは違う風が吹いている。Ｗ杯優勝経験を持つ国がいないことへの安堵が、グループステージ突破の期待を膨らませているのだ。根拠を持たない追い風が、日本列島を吹き抜けている。

　２０１３年の日本代表を、振り返ってみよう。好印象を抱かせているチームの強みは、Ｗ杯で通用するものなのか。欠けているものはないのか。計19試合を振り返ることで、ブラジルへの道筋がはっきりしてくる──。

　２０１３年の日本代表は、２月６日のラトビア戦からスタートした。「海外で試合に出ている、インシーズンのメンバーを中心に選んだ」（ザック）という構成は、中村憲剛、駒野友一ら国内のベテランを除いたものである。その一方で、大津祐樹が初招集された。メンバー発表後にハーフナー・マイクがケガで不参加となったが、追加招集はない。

　システムは４−２−３−１で、ダブルボランチに細貝萌が起用され、２列目は右から清武弘嗣、本田圭佑、香川真司が並ぶ。１トップは岡崎慎司だった。

　岡崎の１トップ起用について、ザックは「前田がコンディション的に90分間使えない」と判断したことを理由にあげた。遠藤ではなく細貝を先発させたのも、同じ理由だと明かした。

　後半開始からは前田が１トップに入り、岡崎、本田、香川が２列目に並んだ。ダブルボランチは遠藤保仁と長谷部になる。レギュラーが揃ったことで試合内容は安定し、２点を追加して３対０で勝利する。ラスト10分からは岡崎に代わって大津が登場し、右サイドからの仕掛けで積極性をアピールした。

　試合後のザックは「とくに前半は錆びついているところがあった」と話したが、その理由は２か月集まっていない」という空白期間に求めている。「後半は良さが多く出た」と話す指揮官に、不満や不安は感じられない。

　危機感を募らせたのは長谷部だ。

「後半は相手が疲れてきたので、多少スペースを与えてくれた。そうなるまえに、前半のうちに決めるようなゲームをしたかった」

　３月にはヨルダンとのＷ杯最終予選が控える。長谷部の表情が厳しくなった。

「今日の試合とは別モノ。僕のなかでは一番アウェイを感じる試合だと思う」
　果たして、キャプテンの思いは未来を予告したものとなる。

　３月26日のヨルダン戦へ向けて、チームはドーハ（カタール）で事前合宿を行なった。23人のメンバーに、本田と長友佑都の名前がなかった。ケガで招集が見送られたのだった。

　22日に行なわれたカナダとのテストマッチで、ザックは左サイドバックに酒井高徳を起用する。酒井は太ももに張りを訴えて終盤に交代するが、26日のヨルダン戦でもスタメンに指名される。

　本田不在のトップ下には、前半は香川、後半は中村憲が入った。また、後半から前田に代わってハーフナー・マイクが１トップに入り、１対１で迎えた74分に決勝ゴールをあげた。

　試合後のザックは「ヨルダン戦のいいテストになった」と語ったが、危うさを内包した勝利でもあった。

　カナダに喫した失点は、右ＣＫからたった。
　吉田麻也とのコンビでＣＢに入った伊野波雅彦は、「失点は自分の責任」と話した。彼自身がマークにつききれなかったのが直接的な原因とはいえ、Ｗ杯３次予選から課題となっているリスタートから、またしてもゴールを許した事実は不安をかきたてた。

　果たして日本は、敵地アンマンでのヨルダン戦でも左ＣＫから先制点を奪われてしまう。しかも、前半が追加タイムに突入した時間帯である。カナダ戦は教訓とならず、基本的な試合運びの甘さも露呈した失点だ。

　次に得点を奪ったのもヨルダンだった。吉田が自陣左サイドで振り切られ、フリーで抜け出した相手選手にドリブルシュートを決められてしまうのである。

　69分に香川のゴールで１点差に詰め寄った日本は、直後にＰＫを獲得する。ペナルティスポットに立ったのは遠藤だ。ところが、右足から放たれた一撃は、相手ＧＫにセーブされてしまう。

　０−２となった直後にハーフナーを投入していたザックは、79分に酒井高から駒野友一、86分に清武から乾というカードを切る。だが、選手交代は遅きに失した感が否めなかった。パワープレーへ切り替えた時間の乾投入は、戦略と彼の特徴が明らかに一致していない。日本の特徴を細かく分析し、早めの選手交代で手を打った相手指揮官の違いは、勝敗を分けた要因のひとつにあげられる。

　決定力も課題として残った。１トップの前田が14分と23分の決定機のどちらかを得点へ結びつけていれば、試合の行方はまったく違うものになっただろう。

　主力の不在、リスタートからの失点、遅れた選手交代──負の要素が複合的に重なり合った敗戦は、必然と言わざるを得ないものだったのである。