ドイツ・ブンデスリーガ躍進の理由とは?

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 ブラジルで開催されるワールドカップを来年に控え、ザックジャパンはどうなのか? 代表メンバーの選出、試合内容、試合結果など、国際親善試合の度に一喜一憂している人は多いだろう。

 『サッカー名将・名選手に学ぶ48の法則』(小宮良之/著、中央公論新社/刊)では、FCバルセロナはなぜ強いのか、なぜ他のクラブが真似してもうまくいかないのか、ドイツブンデスリーガ繁栄の理由、クラブ経営、スタジアムの作り方にいたるまで詳細を分析し、何が勝者と敗者を分かつのかを紹介する。

 内田篤人選手や長谷部誠選手など多くの日本人選手が活躍しているリーグが、ドイツのブンデスリーガだ。近年、財政状況が厳しい欧州のクラブは多い。スペインやイタリアでは赤字のクラブの方が断然多く、破産管財人が管理するクラブは今や1つや2つではない。そんな厳しい状況の中、ブンデスリーガに所属する18クラブの収入が2011-12シーズンに過去最高の計20億8000万ユーロ(約2500億円)になったことをドイツ・サッカーリーグ機構は発表している。ユニフォームのスポンサー料、スタジアムのネーミングライツ、スポンサー関連も含めたブンデスリーガ全体の総売上は、7年連続増収を記録。リーグ全体の売上高はプレミアリーグと1、2位を争い、3位以下のリーガエスパニョーラ、セリエA、リーグアンと比べると2倍近く多い。香川真司選手が所属していたボルシア・ドルトムントは、欧州クラブ中で最多となる毎シーズン平均で8万人以上の観客を集める。バイエルンの試合チケットは毎試合完売という状況だ。
 マネーパワーは戦力増強に直結する。2012-2013シーズン、チャンピオンズリーグのファイナリストは、有力選手を揃えたバイエルンとドルトムントだった。バルセロナを世界最強にしたジョゼップ・グアルディオラが監督として新天地に選んだのがバイエルン。今後は優れた人材がブンデスリーガに集まって来ると予見される。

 このブンデスリーガのレベルアップのきっかけは2000年7月、2006年のワールドカップの開催地としてドイツが選ばれたことだった。自国開催という目標に向かい、ドイツサッカー機構は長期的な計画を立て、抜本的改善に乗り出した。1974年のW杯に合わせて建設されたスタジアムは薄暗く、建物自体が老朽化していた。そこでワールドカップ開催を契機に多くのクラブが陸上トラックを撤去し、見やすさの向上を図った。座席やスタジアム内施設を新設し、VIP席などを備え付けたのだ。その結果、ミュンヘン、ドルトムント、ベルリン、ハンブルグ、ゲルゼンキルヘンなどはUEFAの認定する5つ星のスタジアムとなった。
 さらに、スタジアムに人が集まるのは、チケットが庶民の金銭感覚に合わせた値段設定になっているからだろう。最も高価なチケットでも70〜80ユーロ。ゴール裏の立見席は15ユーロ以下と格安で買える。しかも、試合のチケットさえ持っていれば、スタジアムまでの公共交通機関は無料で利用できるのもお得感がある。上質なエンターテインメントを、様々な客層にリーズナブルな値段で提供する。こうしたクラブの試みに、地元ファンが大挙してスタジアムに訪れるのは必然なことだろう。
 90年代までの人気は、セリエA、プレミアリーグ、リーガエスパニョーラの順で、ブンデスリーガはその下のグループに属するリーグアンやオランダのエールディビジと同じ格付けだったが、その順には逆転した。リーグ機構、各クラブの首脳陣の再建に向けての組織力が今の繁栄をもたらしたといえる。

 日本代表だけではなく、Jリーグや欧州リーグの試合を観れば、より来年のワールドカップを楽しめるはず。本書を読んでサッカーを観戦すれば、より深く、いろいろな視点から楽しめるのではないだろうか。
(新刊JP編集部)