【戸塚啓コラム】意味あるアウェイ戦と、否めない黄信号
ピッチ上で展開されたパフォーマンスは、チグハグという一語に集約される。決定機を逃してリズムをつかみきれず、相手に先制されてしまう。ビハインドを背負ったことで自分たちのリズムはさらに遠のき、相手の勢いに押し込まれていく。
後半途中からトライした３−４−３も、機能性に乏しかった。ザックは再び４−２−３−１に戻したが、それこそがピッチ上の混乱を象徴する。残り５分で投入されたハーフナー・マイクの生かし方も、セルビア戦に続いて不明瞭だった。
ベラルーシと対峙したこの日は、窮屈なパス回しからボールを失う機会が散見された。狭いスペースに相手を引き寄せ、密集を回避すれば一気に局面は開けるから、距離の短いパス交換は必ずしも悪いことではない。ただ、そこでボールを失うと、まとめて数人が置き去りにされ、カウンターのリスクが高まる。「こうすればうまくいく」というイメージがことごとく覆されてい現状では、勝利が遠のくのは必然だ。
とはいえ、簡単なゲームでなかったことは認識しておくべきである。ＦＩＦＡランキングのうえでは、42位の日本が80位のベラルーシを上回る。ただ、強豪国との国際Ａマッチを日常とするベラルーシは、日本よりもランキングのポイントを稼ぎにくい。
主力の大半がロシアリーグでプレーすることを考えても、それなりの力を持ったチームと判断するのが妥当だ。技術では日本が上回るものの、ベラルーシはサッカーの本質を理解している。ワンチャンスを生かした試合運びは、欧州でもまれている皮膚感覚だからこそだろう。W杯予選でスペインやフランスと対戦してきた彼らからすれば、日本は与しやすい相手だったに違いない。
２連敗という結果は、コンフェデ杯以降のネガティブなイメージを加速させる。他方では、セルビア戦とベラルーシ戦はいずれも小規模なスタジアムでこじんまりと開催された。アウェイの空気感は薄かった。ベラルーシ戦などは、三ツ沢補助競技場のようなたたずまいである。
ならば、日本国内でテストマッチを開催したほうがよかったのか。否、そうではない。
４年前に時計を戻す。9月にオランダ、ガーナと対戦して世界のトップ・オブ・トップを体感しながら、10月は国内に欧州とアフリカの国を招へいした。アジアカップ予選を消化しなければならないことが海外遠征を難しくしたが、スコットランド戦とトーゴ戦がどれほどプラスになったか。２対０と５対０で連勝したが、オランダ戦で浮き彫りになった課題を見つめ直す機会にはなっていない。
11月の南アフリカ戦も同様だ。W杯の開催国を事前に訪れるメリットは間違いなくあり、南アとの対戦にこぎつけたマッチメイクは称賛されるべきだが、W杯を勝ち抜くための強化としては物足りないものだった。南ア戦の直後にもアジアカップ予選があり、10月に大勝した香港へ再び出向いた。
様々な制約があったとはいえ、オランダ戦以降の日本は、W杯の出場国にふさわしくない相手とばかり対戦した。当時の岡田武史監督は「世界を驚かせる」と話していたが、これで驚かせることができるはずがない。
今回は違う。セルビアとベラルーシは世界のトップ・オブ・トップではないが、ホームでは日本を苦しめる力を持っている。11月に対戦するオランダとベルギーについては、細かな説明など必要ないだろう。真っ向勝負を挑めば、確実に粉砕される。
W杯の前は、それでいい。とことん痛い目にあって、課題を洗い出せばいい。コンディションもモチベーションも低い相手に国内で勝つなら、ミドルクラスの相手とアウェイで戦ったほうが得るものは多い。
ただし、黙認できないところもある。W杯での上位進出に、黄色信号が灯っているのは否定できない。（以下、次回へ続く）
関連情報（BiZ PAGE＋）
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
